#155 暗い世界
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身体全身が燃えているような気がして消そうとするがどこも燃えていなかったというか暗い。手を仰いで辺りを探るが何もなく感覚としては宙に浮いているかのようだ。確かマーチェさんを助ける為、身代わりになって魔の力が溢れたからこの状況なのか。目を閉じても目を開けても変わらない黒い世界。これが自身の中に眠っていた魔の力、ただ暗いだけならば目が慣れてきて何かしらが見えてくるが。
『これはどうしよう』
口を動かしても発声しようとしても音が出ない。光が全く見えないこの空間で一体何が出来ると言うのか?剣と盾を構えようとするが持っていなかった。服は着ていることを確認したがヒルドリアでもらった腕輪が無くなっていた。
サピダムに魔の力を込められ耐えきれなくなり壊れてしまったのか。隠されていた両翼が背から飛び出しより立派になっていた。どこかで見たことがある見た目があるような...
それにしても辺りが真っ暗なのに自分の姿は確認することが出来る不思議な空間。いやここは精神世界で夢を見ているのと同じ状況だと今理解した。こうして意識だけでも覚醒したということは何かが出来るのか?翼を広げ飛んでみる、景色は変わることはなく暗い世界が続いているが何かがあると信じて飛び続ける。
何も変わらない景色を見ながら疲れることのない身体、飛び続けてどれだけ時間が経ったのだろうか。音も風も光もないからか虚しさを覚え始めていた。今こうやってることにいったい何の意味があるのだろうか?
おそらくだがこうやってる間にも現実の自分はデビア族ではなく、魔族として暴れていてそれを他の仲間に助けてもらっているのだろう。今この空間には自分しかいないし飛ぶ以外やることがない。それならば弱い所を見せないように振舞っている自分自身のこと。みんなに聞かれる心配がないことを口に出しても問題はないということだ。
首から下げている勇者の紋章を手に取り眺める。勇者の紋章、身に着けた者にとって不利益をほぼ全てを無効にする能力をもっている。だが今までその効力を実感したことは一度としてないのだ。この紋章の効果に関しては効いているということにして周りの人に話を合わせていた。
勇者の個能である{勇者のオーラ}は何度か引き出せたこともあるが、自分の思うタイミングで引き出せない度に本当に自分は何者なんだと思ってきた。エルドリアやヒルドリアで勇者ゴレリアスについてのことを調べた。彼と自分に当てはまるものは竜剣術を使えるというその一点だけだ・・・
魔王ラ・ザイールとの戦いの末に左腕を失い行方を眩ませた勇者ゴレリアス、彼は一体何をしているのだろうか。これだけ世界で異変が起きているのだから彼のような聖人が動いていないとは思えない。分からないことをひたすらに考えるがそれしかやることがないのも事実だ。
身体に疲れはないのだが飛ぶのをやめて暗い空間に身を投げている。考えても何も生まれないし飛んでいても何もない。そもそも自分はどうして飛んでいたんだろうか。何も出来ないのにどうして足掻こうとしていたのか。この状況が解決する策が出てくるわけがないのにどうして考えていたのだろうか・・・
そうか、この空間にいるということはもう自分は何もしなくていいということか。何も失くす必要がないし、どこかに移動するために旅もしなくていいし、魔王を倒すために強くならなくていいのか。
そもそもなんでそんなことをしようとしていたんだ。誰かに命令されてそれをやらなければならなかったのか。この場所なら何もかも考えなくてもいいのではないか?何にも縛られない自分だけの世界、本当の自由に辿り着いたんだ。
分からない。どうして分からない。考えなくていい。どうして考えようとするんだ。なにもしなくていいのに。なにかするべきだったのか。ソールってなんだ。自分の名前なのか。それに何の意味があるんだ。目を閉じよう。何も感じないでいよう。もうやめよう。
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なんだ、まぶしい?紋章が光っているのか?首から下がっているはずの勇者の紋章を手に取ると微かに光を放っていた。それを眺めていると何かが辺りに浮かんできた。
『お前、なら勝、てる、いけソール・・・』
誰だ?でも懐かしい・・・そうだ、確か彼の名前はコルロ。物心ついた時からウェルンと一緒に遊んだ頼れて勇者を守るために死んでしまった親友。そうだ、ここから勇者ソールとしての旅が始まったんだ。
『・・・冒険者になる前に決まった質問をしているのじゃが、よいかね?君は冒険で何を望む?なんのために冒険者になりたいと思ったのかね?』
これはノレージ・ウィンガル様の質問?元々はただ世界がどんなものか見たかった。でもこの紋章がどうして自分に装備が出来たのかを知るため。そしてウェルンを守るための力を得るために冒険者を志したんだ。
『ベルでいいよ、ったく最近の若いのはかしこまってんなー』
ベルゴフさんの名前を聞いた時?ウェルン以外にまさか旅をしてくれる人と出会うとは思わなかったな。今の今まで共に旅をしてくれた頼りがあるようでない自分にとっておじさんのような人だ。
『あんま詳しく喋ってられそうにないな、お前さん方はここにいな』
そんなベルゴフさんの師匠でサルドリア帝国皇帝、ゴレリアスと共に旅をした拳神マイオア・フィーザー様。自分達だけでなくメルクディン大陸崩壊の脅威から守るために飛ぶ前の最後の言葉。このあとフィーザー様の姿が光に包まれ幻想的な光景に涙を流したんだったな。
『今回だけよ勇者ヒュード・ソール、次は自分で倒しなさい』
アルドリアに向かう道中キマイラに襲撃された時に助けてくれた魔王の娘ラ・アンクル様。この時は魔族がどうしてと考えたが何度助けられていたんだか分からないな。
『第二代エルドリア王として命ずる勇者ソールと共に世界を救え、頼んだぞ』
ネモリアさんの父である秘密の翼王ルメガ・ゴース・ウィンガルの最後の言葉。彼女はあの戦いで肉親を失った。自分のことを育ててくれた父親も亡くなったと聞いたら悲しむだろう。でも本当の両親はどこにいるんだ?
『お母ぁぁさん!!』
キュミー、いやヒュリル・ヒルドリア・フィンシーが自身の母親であるミュリル・ヒルドリア・フィンシーに抱き着いていた。長い旅の末に記憶を取り戻し家族と再会することが出来たんだよな。
『ソールさんて好きな人はいますか?』
ネモリアからまさかそんな話題が出てくるとは思わなかったな。やはり女の子いや女性なんだな。ウェルンもネモリアもキュミーもフォルちゃんみんなかわいいよな。
・・・いったい自分はこんなとこで何をしているんだ?早く戻らなければ!守りたいものを守るためにここまで進んできたんじゃないか。と思っていたら紋章がさらなる光を放ち扉が現れた。その扉を開くと隙間から輝きが漏れ出したので咄嗟に目を閉じた。




