#154 守るために
「姐さん!?」
「久しぶりねベル、見ない間にフィーザーにだいぶ似た感じになったわね」
「でアンクルよ。この状況儂が説明しなくても分かるか?」
「ええ、サピダムが私の封印を無理やりこじ開けて暴走しているってところかしら」
「私の封印?ソールに何かしていたんですか!?」
新たな獲物を見つけた獣のようにソールはノレージ様とアンクル様の方に斬撃と術弾を放つ。ノレージ様は斬撃を術弾で打ち消し、アンクル様は背に装備していた鎌を使うことなく術壁を展開して攻撃を霧散させた。この2人は私達と比べ物にならないくらいの術の練度があるのが今の一瞬だけで分かった。
「・・・私はソールが生まれた時その場にいた。その時に魔の適性があるのが分かった、だから暴走しないように出力を抑える封印術を施した。封印は成長に合わせて徐々に解けるように各地の仲間に鍵を渡した」
「そして最初に儂の元を訪れ魔の力を開放をした。その次にフィーザーが解放するはずじゃったがそれは叶わなかった」
「あの時たまたま近くにいた私はアルドリアで戦争が起きた時に彼の前に現れて二段階目を解いた。そのあと順調に開放が進んでいるのを彼に触れて知った。だけどまさか最後の最後にサピダムに邪魔されるなんて思わなかったわ」
ソールの身に封印術をしていたから私達の前にたまに姿を現していた。彼女の正体をベルゴフさんが教えてくれた時もすべては言えないと言っていたがこのことだったのか。基本五術を宿した私達の魔力は成長と共に段々と身についていき形になる。それに対して魔の力は始めからとても強大で扱うことが難しくその力に溺れる者も少ないと聞いていた。
だから最初私もソールが魔の力を持っていることを知った時は驚いた。共に旅をするにあたって本人が意図せず魔の力が暴走するのではないかと、ソール自身が警戒していたがその力を制御し私達の窮地を救う姿を何度も見てきた。
普段から摸擬戦をよくしていたのだがそのあとに鍛錬も重ねる。さらには早起きをして剣を振るっていて、すごいとは思っていた。魔の力に飲み込まれるという感覚が無意識にあったのだろう。
「それでどうしたらお兄ちゃんは元に戻るの?」
「とりあえずあなた達は下がってなさいここからは私達の役割だから」
ここは術の扱いに長けたお二方に任せよう。私達も手伝えることがあると良かったんだけど、あの状態のソールを相手にしても全力を出し切れる気がしない。それでも万が一があるといけないので念の為息を整えて回復に努める。
「おっとベルゴフよ、おぬしは儂とアンクルの盾となっとくれ」
「言われなくても師匠なら手伝ってたろ?」
「私の言葉の意味が分かったのね。あれと似た単細胞なのに」
「姐さんそこまで言わなくていいじゃねぇか・・・」
2人の前に出たベルゴフさんの全身が少し大きくなり白金色へと変化する。ソールが右手と左手にボールを作りその二つを合わせるとこちらに魔力砲が放たれた。なんとそれをベルゴフさんは腕を十字にして防ぐ体制を取り受け止めそのまま段々と近づいている。
普段から疑問だったのだがどうしてベルゴフさんは私達と一緒にいるのだろうか。これほどまでの実力を持ちながら、どうして伝説の勇者一行と行動を共にし魔王軍との闘いに身を投じないのか。
ベルゴフさんはそのまま前進し続け放出が終わると拳を叩き込みに行った。ソールは翼を広げ空に逃げたが白金の巨人はその場から飛び上がり再び拳を叩き込み地面へと落とした。
私が意識を集中して辛うじて目で追えていたので、他の皆は何が起こったか分かっていないかもしれない。ソールが立ち上がると雰囲気がまた一段と禍々しさを出し始めた。
「ここからが本番だってのか?流石に笑えないぞ坊ちゃん」
「これほどまでとは流石に血は争えないのぉ、構築にだけ集中してられないの」
「しょうがないわねノレージあとは私が全て組むわ、あなたも...」
「お、おい、ノレージ、アンクル、俺を使え」
私達の後ろシーウェーブさんがそんな言葉を発する。座って休んでいるのにも関わらず呼吸が荒く所々が崩れている。彼の心臓にあたる魔道具も心なしか輝きが弱くなっているようにみえる。
「お主、まさかとは思うが海賊シーウェーブか?そんな姿になってまで生きておったのか」
「俺を使え、って術式の構築に必要な魔力をあなたが代わりに補填するって言うの?」
「そ、その通りだ、み、見て分かるだろ、お、俺はもう長くねぇからな、使ってくれ」
「私ならあなたを直せるかもしれないけどそれでもいいの?」
「そうだよ骨船長!まだ船長と旅したいよ!」
フォルちゃんが消えかかってるコートの袖を掴むが崩れ去り立ち上がった。脚はもう既に無くなっていて胴体が完全に浮いてアンクル様の元に向かっていった。
「・・・すまねぇなみんな、俺はもうお前ら以外に何も残っちゃいねぇんだ。それを守る為にここまで耐えてきたんだだからよ、俺の最後見届けてくれねぇか?」
振り返ったその顔はいつもと変わらないスカルフェイスのはず。それなのに何故だろう、心なしか笑っているように見えて目頭が熱くなるのを感じる。正面を向き術式に両手を広げると光の粒子となって吸い込まれていった。
書きかけだった術式が完成されていき、真ん中に三角帽子を被った骸骨のマークが浮かび上がる。その内側からロープが飛び出し、ソールはそれを見て躱そうとするが追尾性が高く段々と拘束されていく。術式の中に捕らえることに成功し四方に柱が出現するとソールが苦しみ始め何かが始まったのが分かった。




