#153 散らばり集まる
「前にもその名を聞いたがどういうことだか教えろヒュードよ」
「分からないのコルロ、私ウェルンだよ!最後の時まで一緒にいたじゃん!」
「最後?確かに私はサピダム様に作られた最後の竜騎兵ではあるが」
「ウェン落ち着いて多分だけどこれも...」
竜騎兵の顔を見てから動揺を隠せないウェンを落ち着かせる。もし竜騎兵の顔が父上か兄上だったらと考えたら、同じく動揺してしまうかもしれないが今は同情してられない。竜騎兵はこちらに手を構え術式を発生させ、魔剣をこちらに放出してきたので魔力を纏わせた矢で打ち落とす。
「あ、ありがとうネモ」
「二対一となって不利かと思いきや、何故かは分からないが戦意喪失してくれたようなのでこちらとしては好都合だ」
新たに魔剣を生成しそれを手に取り距離を詰め、近接戦を仕掛けてきたので弓そのものに魔力を纏わせて防ぐ。咄嗟にやったことだが上手くいった。今までは矢にのみ纏わしていたのでこういった防御行動は出来ていなかった。後ろにはウェンもいたので回避が出来なかったからちょうど良かったかもしれない。
「そんなことが出来たのか貴様!?」
「私も今知ったところよ。はぁぁぁぁ!!鳥弓術、伍の弓、{羽刺鳥}!!」
魔力を纏わせた複数の矢を弓にかけ放つと曲斜的に発射され、矢ではなくまるで鋭鳥種の羽のように鋭利な羽へと変化し竜騎兵へと襲い掛かる。魔剣を振るい全てを弾かれてしまうが魔剣そのものは最後の羽を弾いたと同時に砕けた。イメージをそのまま武器に込めると具現化するとソールが言ってたけどようやく私にも分かった。
「私も進化するがやはりお前たちの強くなる速度。しかも戦闘中にかなりの成長を遂げることに驚かされる」
「そうね、何かきっかけがあることによって私達は強くなって貴方たちをも圧倒するのよ」
「ネモありがとうもう大丈夫...」
ようやく落ち着いたウェンが杖を構え聖術の剣を生み出し展開すると辺りの結界が無くなった。そして別の結界内で戦っていたベルゴフさん達の状況を把握する。
「なるほどもう時間切れか。じゃがこれほどの時間拘束出来るのであらば改良する価値があるの。して竜騎兵よ、こちらの方はもう済んでおるがそちらはどうだ」
分断される前に見たアルドリア王の姿は見当たらずソールは何やら炎の渦に捕らわれている。キュミーとフォルの前で障壁を展開している。明らかに消耗しているシーウェーブさんの姿。そして激しい音が鳴ってる絶え間なく爆発している場所にはベルゴフさんがいる。
「あと少しで倒せ...」
「もうよい結解が無くなった時点で時間切れじゃよ。儂らはこの場所を後にし次なる計画へと移らねばならないのだ」
「しかし・・・いえ分かりました」
新たな魔剣を構えていた竜騎兵はサピダムの横に移動していった。絶え間ない爆発が止みその中からベルゴフさんが宙を飛ぶ。二体の魔族に向けて飛ぶが間に拘束されていたはずのソールが割り込む。
「坊ちゃんどいてくれ!」
「魔の力に堕ちたそやつには貴様らの声は一切聞こえんよ。せいぜいこの場所と共に沈むがよい勇者達よ!」
そう言ったサピダム達は姿を消すと研究所が大きく揺れ天井から瓦礫が落下してくる。どうやらこの研究所が崩壊し始めているらしい。だが私達の前にソールが立ち塞がっていて逃げることが出来ない。私も術の研究を少しはしていたつもりだが魔の力のことは全く分からない。ソールが今どういう状況なのか、そもそも私達に何か出来るのか、それともソールを倒さなければならないのかも。
「全員まだ力は残ってるか?」
「私は少しきついけど行けるよ!」
「魔力もあってまだ動けはします」
「船長に守ってもらったから大丈夫!」「私も!」
「・・・わりぃな、今の消耗度からして外に出る前にくたばるきがしなくもねぇ」
シーウェーブさんそんなに弱ってしまっているのか。生者ではない呼吸をしないスケルトンなのに肩で息をしているような動きをしている。サピダムからの攻撃から2人のことを守ってくれていたのだろう。解決策は分からないソールを正気に戻して皆脱出する為には一体どうすればいいのだろうか。
「もっとデビア、いや魔の力について学んでいれば」
「とりあえずもう一回俺が捕らえ...」
「どうやら間に合ったようじゃな」
「えっこの声って!?」
声がした方の天井から大きな翼を持ったウィンガルが突き破って現れる。地に降り立つと何かの術式を施したと思ったら景色が変わった。そこにいたのはかつてゴレリアスと共に旅をした伝説のマジックアルケミストであるノレージ・ウィンガル様だ。
「ノレージ様!」
「この空間は儂の作った特殊結界じゃから崩壊の危険性はない」
「あっ道中に女の子がいたと思うんですけど」
「その子は港まで飛ばしておいたから今頃誰かが保護しておるじゃろう」
私達全員を移動術式で囲み結界の中に飛ばす腕は流石と言うべきだろう。ノレージ様は魔以外の基本五術を用いたことならなんでも出来てもおかしくないが魔の力は未知のはずだ。何か手立てがあるのだろうか。
「爺さんソールなんとかならねぇか?」
「案ずるなその為に連れてきたのじゃよ...誰よりも魔に詳しい者をな」
結界内に割れ目が出現しそこの中から1人の女性が出てきた。あれは確かアルドリアに渡る際キマイラに襲われた時に助けてくれた謎の魔族。いや違う、彼女は魔王ラ・ザイールの一人娘で処刑されそうになっていた所をゴレリアスに助けられ、共に旅をしたデビア族であるラ・デビア・アンクルだ。




