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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
加速する世界

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153/246

#152 新たな翼

 でもどうしてこの狭い空間で竜を呼び出したんだろうか。先程までの激しく動き回りながら戦っていたのに、これではかえって的になるだけではと思っていたら竜を囲うように障壁が展開される。

 矢を放つが弾かれてしまったので魔力を込めた矢を数本放つと全て術壁に突き刺さった。風と土の造形ランク五のバレットを放つ。壁に触れ霧散したと思ったら着弾した箇所から魔剣がこちらに向けて放出され何とか躱す。


「この障壁はこの前エルドリアに侵攻した際一度お前たちによって完全に壊された。生半可な物理攻撃は通さず術攻撃は吸収して魔の力に変換して反射する性質へと強化されたのだ!」


 どんなものか考える前に先に話したということは私に破られる自信がないということ。私のまだまだ未熟な鳥弓術による魔力の込めかたでは歯が立たない障壁。ある程度得意な術攻撃も魔の力で反射されてしまう。

 ウェンが奴の攻撃に囚われてなければ聖術でこの場はすぐ打開出来たかもしれない。ベルゴフさんやキュミー達の助けも期待が出来ない。これまでの戦いの中で最も追い詰められていると言っても過言ではないがどうにかしなければならないんだ。


「どうした来ないのか止まっているとその翼ただでは済まないぞ」

「っ!?」


 少し思考を巡らせていると足元に術式が現れたと思ったら魔剣が飛び出し右翼に突き刺さり態勢が崩れる。すかさず飛んでくる追撃、魔力を込めた攻撃で弾こうとする。だが上手く纏わせられず通常の攻撃となってしまい両脚に傷を負う。

 今のがもし父上が使う鳥弓術だったなら弾けたのかもしれない。実は私自身武器術がさほど得意というわけでも魔力を用いた戦闘が得意でもない。

 空を飛ぶことが得意などっちつかずなウィンガルが私。兄上みたいに術の才はなかった、父上みたいな弓の才もなかった、そんな私が今ここにいられるのは正直我儘なのかもしれない。

 ソール、ウェン、キュミーみんな格段に強くなってる。フォルちゃんも加わって私は置いてかれてる、そんな気持ちが強かった。それでも私はみんなと旅をしたい、その一心だけで着いてきてベルゴフさんに度々修行をつけてもらって何とか食らいついているつもりだ。


「悔しいだろう。そこで見ていることしか出来ないのは、無力だな人間よ。お前にもっと力があれば良かったな」

「ネモ待ってて今すぐ助け...」

「何言ってるのあなたウェンは弱くない。いつも守ろうとしてるけど守られてるんだから私より強いんだから」

「そんなことないよネモ、私はただみんなを助けたいだけ!もう誰も傷つくのが見たくないのだから待ってて今すぐこんな術...」


 ウェン自身の辺りに展開していた術壁の色がさらに濃くなる。眩い光が放たれると展開されていた{ディザスター}が消えていた。だが彼女は肩で息をしていて見るからに消耗していた。その隙を突かれ竜に掴まれ拘束されてしまう。


「助けに行こうとするなど愚かなものだ。満身創痍にしては{ディザスター}を抜けるとはすごい力を持っているな。これほどの聖術使いは我々の為にここで倒しておかなければならないな」


 親友の苦しむ声が聞こえて弓を引き絞り鳥弓術を放とうとするも、怪我で集中力が散漫しているのか魔力を込められない。また私は守れないの?今ここで親友の1人も救えないで何がエルドリアを守護するゴース家なの。

 竜の子供として鳥弓術を使うことが私には実力不足かも知れない。一瞬だけでいいのお願い応えて!どうにか魔力を込めようと身体から更に放出させ矢に無理やり纏わせる。

 すると矢だけでなく弓も魔力を纏い始めた。ベルゴフさんに言われたことを思い出す。『深く考えなくていいんじゃないか?もっと自由に想像して形を作ればより良いものに変わるんじゃねぇか?』

 私は他の竜の子供と同じように魔力を込めている姿を真似た。矢に魔力を纏わせようとしてたけどそれは間違いだったんだ。1人1人込め方に違いがあるんだ!

 父上は矢に込める鳥弓術だったからそれに倣っていた。でも私の場合は矢だけじゃなくて弓ごと纏わせれば良かったんだ!自分の目で初めて鳥の姿が具現化されてるのを確認した、うまく形に出来たのが分かる。


「いっけぇ!!」


 自身に残された魔力を全て込め{翔鳥(フライ)}を放つ。一本の矢...いや一羽の鳥が竜騎兵目掛けて飛んで行く。竜はウェンのことを放し術壁をさらに展開したがそれすらも貫通し奴の頭部に直撃する。あまりの衝撃だったのか竜も竜騎兵もそのまま大きな音を立て倒れこむ。

 捕まっていたウェンがこちらに駆け寄ってきてくれた。脚と翼の治療が始まり少し楽になったところで腰のポケットから二つ魔力剤を取り出した。ウェンと自身に投与し魔力を回復する。


「どうにかなったねネモ」

「うんこれもウェンがあの攻撃から出てきてくれたおかげだよ」

「ネモすごかったよ!ソールやキュミー達みたいにとても綺麗な鳥が見えたよ!」


 他の竜の子供達と同じように魔力を具現化出来てようやく並べた。普通の武器術と違い私達の武器術はなにかしらの生き物を魔力で形にして放つんだけど、あれはなんの鳥だったんだろう?あとで調べてみよう。倒れていた竜が消え背を向けたまま竜騎兵らしき人物が立ち上がる。


「まさかやられるとは思いもしませんでした。これだから面白いんですよこれでまたさらに私は進化出来る」

「そんなこと言ってられるのも今の...」


 竜騎兵の素顔を初めて確認するが誰がどう見てもヒュード族にしか見えない。ウェンは何やら固まっているがどうしたのだろうか。


「そんな顔をしてどうしたヒュードよまだ戦いの途中なのだぞ」


 元気になったはずのウェンが膝を落とし涙を流し始めた。急にこんな状態になっていったいどうしたというのか。


「い、生きてたのコルロ?」


 コルロ?記憶が正しければ確か亡くなったはずのソールとウェンの幼馴染のはずだ。竜騎兵がその人に似ているというのかでもこうやって武器を構えている以上、彼が敵という事実だけは変わらないだろう。

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