#150 劣勢
再び術弾が飛んできて最低限の動きで躱す。サピダムへと距離を詰めていき拳を振るうが空を切っていた。やっぱ三魔将軍ともなると厄介なもんだ。叡智という名をつけられてるだけのことはあるな。
奴の個能である{魔力源}によって底がない無限の魔力量。それに加えて術の練度もそうだがこいつの一番の強みは術式を展開する速さだろう。今シューティングを放っていたのでこちらの攻撃が当たる距離まで行くと瞬時に短距離移動術式を展開しその場を後にする。
術士としての腕前は認めざるを得ない、もしサピダムが魔王軍ではなくこちら側だったならどれだけ頼りがいあったんだろうな。まぁそんなことを思っても手加減をするわけにはいかないがな。
「どうした儂を見て弱点でも探っておるのか?」
「いーやちょっとな、昔から今も語り継がれるような奴らは強いなってね」
「そりゃ当たり前じゃろう。相応の名を与えられたならその名に恥じぬ活躍をせねば示しがつくまい。まぁ最もぬしのような輩に拳神マイオア・フィーザーと同じような対処をしなければならないのは少し癪に障るがな」
とそんな話をしながら周囲にウォールが展開されそのまま潰しにきた。衝撃波を飛ばし破壊するとすぐさま足元に別の術式が展開され大爆発を起こした。
「これでやられてくれるなら気は楽なのじゃが...やはりそうもいかぬよな」
全身に闘気を纏い白金の身体へと変化し衝撃を無効化する。少しづつ本気を引き出されてしまっているがそれは奴も同じはずだ。余裕があるならばあっちで戦ってるシーウェーブの方にも何かしらの手を加えているだろう。
全ての攻撃が俺に向けられ倒すのではなく、どちらかと言えば足止めに近いことをされている。自身が劣等種に負けるはずがないと考える魔族が多いが実力を見抜く眼を持ってるのかもな。
足元に先程と同じ大爆発が起きたと思ったら連続して同じ衝撃が起こる。いかに闘気で固めた身体だとしてもエラプションを連発されたら動けねぇ。
「少しこの場所が壊れる可能性があるがこうしておけば良さそうじゃな」
「てめぇ・・・」
「貴様以外がやられる様をそこで指を加えて待ってるがいい」
くぅ...本当ならこんなのものともせず殴り掛かるんだがな。さっき坊ちゃんを拘束するために使った{フレイムスパイラル}を応用した、{フレイムウィップ}の維持にも魔力を取られてるから本当に動けねぇ。シーウェーブこっちは2人止めてんだお前もそっちの2人を止めろよ。嬢ちゃん達がどうなってるかは全く分からんからな、要らぬ手間を増やすなよ。
ヒルドリア王のなぎ払い攻撃をいなし、アルドリア王の攻撃を躱しきれずに飛ばされてしまう。障壁に打ちつけられて骨がまた一本落ち粉微塵となって消えていく。これが現代に生きていたヒルドリア、アルドリア、王達の実力か。全盛期の俺でも勝てないし、ましてや崩壊が始まってる今の俺じゃ太刀打ちは難しいだろうな。
だがここで簡単にやられるわけにはいかない。俺が戦ってなければ子供達が戦うことになってしまう。親と子で争うなんてそんな残酷なことがあっていいかって?いいわけがあるか。
この甘さを持っていたから俺は部下達も失い孤独で戦っているんだろうな。再び浮いて攻撃を仕掛けようとしたが魔力を込めきれなかった。態勢を崩してしまい2人の王の攻撃がこちらに向かってくる。
これまでかそう思ったが目の前に槍と大剣を持ったアルドリア、ヒルドリアの息女達が割り込み攻撃を防いだ。{ドーム}で囲っていたはずだがどうしてだ?と思ったが、自然と吸収してしまったか体勢を崩した時に無くなったのだろう。いつもなら改めた話しかたするが余裕がなく反射的に言葉が出る。
「やめろこれは俺がやるべきこ...」
「「嫌だ!」」
「もう見ているだけなんて!」
「私達も戦えるもん!」
「分かっているのか。今目の前にいるのはお前たちの親なんだぞ!」
「分かってるよ、でもお父様はもう死んでるの!確かにこうやって剣を振るうなんて嫌。それ以上に私達の為に船長がやられるなんて嫌だ!」
「お母さんに言われたもん、もっと我儘に生きて我慢しないで生きたいように行きなさい!って、だから仲間を襲う敵がいるならこの槍を振るうもん!」
それぞれの武器が光り出し2人から魔力が溢れ出すとアルドリア王とヒルドリア王が距離を取った。この子達はこんな力を持っていたのか、2人の後ろ姿を見ていると勇者一行の女王達の姿と重なった。どうやら間違ってたみたいだな、長いこと1人で戦いすぎたものだな。仲間の実力も分からず船長とはよく言えたものだ。
「いいか2人共これからお前たちに最後の指令を出すぞ!」
「はい!」「うん!」
「目の前の迷える王を全力で救ってあっちで戦ってる鉱山馬鹿を助けに行くぞ!」
無くなっていた帽子とマントを出現させ2人に強化術を、自身に{操人形}をかけ、さらにはスケルトンを数体召喚する。一瞬何かが無くなったような感覚に襲われるがそんなの知ったもんじゃない。
持ってくれよ、俺の心臓{死霊の魂}よ。この戦いが正真正銘最後のあがきかもしれねぇ。ここにいる新しい勇者一行を誰一人として欠けさせるんじゃねぇ。俺は伝説の海賊シーウェーブ、船乗りの間で長年語り継がれた伝説ここで見せてやろうじゃねえか!




