#15 剣と拳、勇者と拳神
ここ数日は冒険に行かずにゆっくりしていた。そして今日はウェルンと一緒に城下町の買い物に来ていた。その理由は折れてしまった剣の代わりを探すためである。日々の修練は木刀でやっているので支障はない、だがやっぱり剣を持っていないのは剣術士とは言えないというか落ち着かない。ウェルンも買い物がしたかったらしく自分も一緒に行くことにした。まだ城下町の地理を完璧に把握しておらず、よく道に迷ってしまうので正直かなり助かっている。
まぁ武器を買いに来ただけってのも味気がないので、飲食店で食事をしたり、ブティックに寄ったり、としている中で今更ながらに気づいてしまった。あれ、これって二人きりであちこち回ってるのってデートなのでは?自分は冒険する時と同じ格好だが、ウェルンは落ち着いた服装でとても可愛い格好をしていたことにたった今気づいた。なんで気づかなかったんだ自分は!!でも、服持ってないからなーとか考えつつも試着した服を片っ端から買っていた。予定より長めの寄り道をしているとようやく本題の武器屋兼鍛冶屋へと辿り着いた。
「ここがね私が行きつけのとこだよ!」
「へぇーじゃ早速入ってみ、」
突然中から爆発音と土埃が発生して中から人が飛び出してきた。そしてそのままどこかに走り去って行くと中からいかにも職人ぽい人が出てきた。
「もう来るんじゃねぇぞ!ってあぁーくそどっか行きやがったなぁったく」
「あの人がここの店の店主さんなんだけど・・・ちょっと頑固だけどいい人だよ?」
「うん、そ、そっか、あははははは・・・」
「うん?あぁウェルンちゃんしばらくだな元気してたか?」
「はい!お久しぶりです本当にいつもお世話になってます魔物と戦えるのはこの杖のおかげです!」
「よせやい、俺の作ったもんも良い持ち主に出会えて良かっただろう、てそこの若僧は彼氏か?」
「「か、彼氏!?」」
傍から見たらそう見えるのか!?いやまぁそうだったらいいんだが、いやいや落ち着けとりあえず自己紹介しなければ平静を装い言葉を発する。
「自分はウェルンと同じ村出身のソールと申します」
「おうよろしくな、てことはあんたも冒険者かい?」
「はい!今日は前回の依頼で折れてしまった剣の代わりを探しに来ました!」
「剣を折った?どれちょいと見せてみな」
念のため持ってきた長い間愛用していた折れた剣を渡す。しばらく剣を眺めたり叩いたりして何かを確認している。その間に周りを見渡して武器を見てみることにした。剣、斧、槍、杖、弓などの武器が所狭しと並んでいて、自分の使っていた武器以外はあまり見た事はなかったが、そんな自分でも分かるぐらい1本1本とても精巧に作られていた。
「ソールくん、これずっと使ってたのか?」
「は、はい父親からもらった大切な剣だったんですけど」
「そうだろうな、よく出来てるよこれほどの剣は俺だって作るの苦労するぜ。しかしなんか劣化して折れたってより、硬いもの、いや術とかにぶつかって折れた感じか?」
すごいな見ただけでそこまで分かるのか。確かにこの人なら自分に合った剣を作ってくれそうだ。
「その剣ねフレイペントと激しく戦闘してて折れちゃったの」
「フレイペント!?ったく近頃の若僧は恐ろしく強いんだなってにいちゃんもしかして剣術士か?」
「はい、自分は竜剣術の使い手です」
「おお!竜剣か!かの伝説の勇者ゴレリアスと一緒の武器術か」
えっ、今誰と一緒って、ゴレリアス!?
「そうなの!?」
「なんでいウェルンちゃん知らんで一緒に冒険してたのか?まぁそれはいいとして、こいつは元に戻すよりまた新しいもの作ったほうがいいぜ。」
「そうですか、じゃあこの素材使えますか?」
「うん!?ソールくんこいつは・・・」
と言って職人さんに渡したのはフレイペントの牙と鱗。ダンジョンから帰る際に村長さんと村人の方々がお礼にと分けてくれたのだ。
「これだけ状態がいいのは、久しぶりだな!ソールくん明日の朝ここに来な!最高の剣作っといてやっからよ!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「良かったね!じゃあ職人さんの邪魔にならないようにしないとまた明日の朝来るねー」
「おうよ!こりゃ鍛冶屋魂が熱く熱く燃え上がるなぁ!!」
剣のことはもう安心だまた明日取りに行こう。あれ?あそこにいるのはベルゴフさん?なんか囲まれてるけど何をしているのだろうか。
「どうした!もっとかかってこい!」
「はい!」「うぉぉぉ!」「やぁぁぁ!」
木刀を持った3人組が襲いかかるもベルゴフさんの体術に翻弄されている。1人が投げられまたもう1人飛ばされてもう1人は思い切りカウンターを喰らっていた。
「甘い甘い!!そんなんで俺を倒せると思ってるのか!!もっと本気でこい!!」
「「「は、はい!!」」」
「しかしあらためて見ると強いなベルゴフさん」
「3人がかりなのに全然歯がたってないねもしかして拳術士なのかな?」
確かに1人であそこまで見事に複数人を相手にしている姿をみているとそんな気がしなくもない。流派はなんなんだろうなと考えていたらまた3人共飛ばされていた。ベルゴフさんはまだ余裕の表情でこちらに気づいた。
「おっ!坊っちゃん達かこんなとこでどうした?」
「自分達は買い物帰りですよ、いやーそれにしても凄いですね」
「うん?ああ見てたのか身体動かしてねぇと鈍っちまうからな訓練よ訓練」
「ベルゴフさんて拳術士なの?」
「おう俺は拳神流の拳術士だぜ!」
「拳神てもしかしてゴレリアスのパーティメンバーだったマイオア・フィーザー様!?」
「おうよ!俺の師匠は拳神様なんだぜ!」
マイオア・フィーザー様はノレージ様と同じくゴレリアスと旅をした元採掘工の拳術士。どんな魔物や魔族も自慢の拳で打ち破り、人々から拳神と呼ばれる拳術の祖とも呼べる存在である。ベルゴフさんは拳神様から拳術を教えてもらったので拳神流なのだろう。そんなすごい人から戦う術を教えてもらっていたのか正直羨ましくも思う。
「まぁ坊ちゃんがまさか師匠の仲間の祖先かもしれないとは思わなかったけどな!」
「そ、そうですねなんか意外なところで共通点があるものですね」
ベルゴフさんにもペンダントのことを話してあっさりと受け入れられたのはこういうこともあったのか。でもやっぱり自分自身のことが分からない。自分の父親はゴレリアス様ではない、なのに父親から教わったのは竜剣術でゴレリアス様と同じ流派とは知らなかった。
何故あの日以来ペンダントから力が解放されないのか?本当に自分の個能は{勇者のオーラ}なのか?とあれこれ考えてこんでいると、先程まで人の気配がしなかった空き地周りの路地から足跡が大量に聞こえてきた。なんとそれは先日見かけた黒鎧の兵ではなく、王国兵達だったなんで囲まれているんだ?その中からとびきりごつい鎧をつけた人が前にでてきた。どう見ても偉そうだなこの人もしかして・・・
「ご歓談の最中お邪魔致します、私はメルドリア王国兵士長スリアスと申します」
「そうかそうか兵士長さんか、こんだけ兵士を引き連れて用件はなんだ?」
「貴様!口の利き方を…」
「いや確かにここまで部下を連れてくるとなにか誤解されてしまうかもしれませんが、決して手荒なことはしないと誓いましょう」
ベルゴフさんとスリアスさんの間で何かがぶつかり合っているような・・・怖い顔をして思いっきり怪しんでるベルゴフさん。スリアスと名乗った人も笑っているけど心から笑っていないのはよく分かった。
「では早速本題に移りましょう、私は冒険者ソールを王様の元へ連れていくという命令を受けております」
「え、自分ですか?!それはまたどうしてですか?」
「もちろん貴方様が選ばれし者だからでございます」
「選ばれし者?」
「そうです貴方様が勇者ゴレリアスの後継、新時代の勇者ソールいえヒュード・ソール様」




