#148 染まりし者達
「どうした来ないのか?」
竜騎兵の背に術式が複数展開され魔剣が放出された。私は術壁を貼って防ぎネモは狭い空間を飛んで躱していた。今回初めて対面したけど事前にソールから聞いておけて良かった。貫通力がないのが分かっていたのでネモの鳥弓術を防いだ時みたいに厚くしないで済んだ。それにしてもやっぱりネモはすごいや、この狭い空間でも自在に動けるんだね。
「なるほどな今のでお前らの対処法が分かった」
「分かったところでどうするの?二対一であることには変わらないですよ」
「そうか2人でやれば勝てるそう言いたいんだな」
2人なら勝てる確かにそう思ってるけど、今の私は術壁を貼ることしか出来ないやせ我慢をしているだけだ。これをもし見抜かれてしまえば私の魔力が枯渇するまで執拗に狙ってくる。そうなれば私は足手まといにしかならないし、ネモの本来の力は出せずに最悪私達は...
「ならこうしよう{ディザスター}」
私の周りを魔剣が取り囲みこちらに襲い掛かってきたので術壁を展開して防御し続ける。今の私に打ち落とせる程威力のある攻撃は繰り出せない。守ることしか出来ない、果たしてどれだけ持つだろうか。
「ウェン!」
「こうすれば私とあなたの一対一の戦い、そして長引けば彼女の命はないと思った方がいいですよ」
伝説の海賊と獣の国の王のレイピアと爪のぶつかる音。かつて世界を救った勇者一行と同じ技を使う後継者同士の拳と剣がぶつかる音。1人は父親に、1人は兄のように、情が入ってしまい戦えないで端で見てる2人の少女達。その様を上空で笑みを浮かべている魔王軍最高幹部である三魔将軍という7人がこの空間にいる。
向こうではシーウェーブとこの前の戦いで亡くなったはずのアルドリア王が戦っていた。そして俺の目の前には数日前に谷底に落ち生存が分からなかった勇者ソールがいる。死んだはずのアルドリア王は確かに魔力の流れを感じるが最後に見た時と明らかに様子が違う。
魔族に似た雰囲気を纏っている為、無理やり転化でもさせられて魔族になったのかと思った。シーウェーブに対して使っている術は魔の力ではなく生前でも使っていた風の攻撃術だ。
「あっちも大変だがこっちもどうにかしないといけない。だがよ本当坊ちゃんに何したんだサピダム!」
「何簡単なことじゃよ、内に秘めていた力を開放したらそしてその力に飲み込まれた。その勇者の精神力がただただ弱いだけのこと」
あの封印を解いたのか、溢れる力に飲み込まれて暴走状態になったところをサピダムが操っているのだろう。素早さや力の強さは変わっているが元々の強みだった経験による戦闘の器用さが無くなっている。結果的に周りを見る余裕があるぐらいには弱い。
魔族は魔力量や力の強さが全てで技術的な強さはほぼ存在しない。形のない巨大な魔の力そのものをぶつけて倒したり、単純に速かったりと力が強いことでゴリ押してくるやつばかり。だが稀に三魔将軍狂猛のヒュペーガのような拳術を扱えるような技術も兼ね備えた奴もいる。それに気づいた奴が魔王軍の中でも指揮官や特別な役に就いているのだろう。
実際元ヒュードで転化したサピダムがいなければ、魔の力で行使できる幻術などは出来なかったらしい。一度疑問に思ってノレージ爺さんに聞いたことがある。『どうして魔族や悪魔は全員魔術を使えないのか』とそしたらこう答えた。『石をわざわざ違う形に変えずともただ投げればすぐに怪我をさせられる』から。
そんなことしなくても相手を倒せると思っている奴らが大多数いて、それに気づく頃にはすでに遅く倒されている。俺も魔力を闘気に変える才能に気づかなればこうはなってはいなかった。思い込みは残酷だ、そんな簡単に相手をしている坊ちゃんいや勇者ソールのことをぶっ倒せないのはまた別の理由がある。
「マイオアよ貴様力を抜いておるな。やはり我ら魔族やラ・ザイール様に唯一対抗出来る勇者の力を無くすのは惜しいか」
「へっ何言ってんだ耄碌じじいがよ。どうやって坊ちゃんの意識取り戻させるか悩んでるところだよ!」
と言ってはみたものの実際そのことで目の前の坊ちゃんを倒せないでいる。仮に相手がシーウェーブだったとしたら骨も残さない勢いで倒すだろう。今回は力に完全覚醒してないにしろ勇者の力を持ってる可能性のあるデビア族であるソールだ。まぁ他にも別の理由で倒せなくもあるんだが、まぁその話は俺がすることじゃねぇな。
見たところシーウェーブも苦戦しているようだな、もう少し注意を引き付けておかねぇとな。だがあの骨船長も苦戦するのもしょうがない相手はあのアルドリア王だ。
魔王軍で二番目の強さを誇る夢幻のドリューションが相手でなければ未だに生きていたそれ程の実力者だ。一戦本気で拳を交えたことがある師匠が敵として会わなくて良かったと言っていた。それにしても骨船長明らかに本調子じゃねぇな、随分とキレが悪いが守護者を倒した時に何かあったのか?
「ふむこのままだと均衡状態が続いてしまうな、こうしようではないか」
サピダムがそう言って杖を構えると真ん中に術式が現れ誰かが召喚された。すぐさま違う術式を出現させると無数の黒い手が襲い掛かり苦しい叫び声が上がる。全身が黒ずんでいき見覚えのあるフィンシー族に変わっていく。
「えっ...お父さん?」
姿が変わりそこに立っていたのはアルドリア王と同じくこの前の戦いで亡くなったはずの竜の子供であるヒルドリア王だった。フィンシー族特有のヒレなどがついていたがアルドリア王と同じく肌の色が魔族と同じ色になっていた。今のではっきりとした、サピダムは一度死んだ人を生前と変わらぬ強さで蘇らせて自身の手駒にする魔術を使えるようだ。




