#147 研究所最深部
昇降機の元に戻ってくるとみんなもう既に集まっていたが見慣れない女の子がいた。疲弊しているようだったので回復術をかけると呼吸が穏やかになり寝息を立て始めた。
「シーウェーブさんこの子外に運んであげられませんか?」
「うーむ、運べはしてもこの雪山を越えられる保証がないな。敵は俺らが倒したはずだからここに置いていっても助かるだろう」
「そうですね、帰りに連れて行くのがいいかもしれませんね」
「でもどうしてここに倒れてたんだろうね?」
「私達が最初に着いた時にはもういたよ。あっ、お姉ちゃん達エレベーターも動いたよ!」
「この場所とサピダムの野郎の計画をぶっ潰して連れて帰るのがいいみたいだな!」
サピダムさんが否定しないということはこの施設にいる敵の数も限られている。それもあとはこの昇降機に乗った先にいるということが分かっているからだろう。
「すまねぇな嬢ちゃん、坊ちゃん探しに行くのはしばらくあとになるかもしれねぇ」
「ソールならきっと大丈夫です!昔魔獣の巣に落っこちた時も数日後無事に帰ってきましたから!」
「そんなことあったんですね・・・」
あれは確か3年前村の周辺調査をした時だ。朝方コルロと一緒に出掛けて数日したらコルロが戻ってきた。その話をして村中の人が大騒ぎしてたらいつの間にか帰ってきてたんだよね。ソールも一緒になって何故か慌ててたから気づくのが遅れて、いることに気づいた時はみんなで大笑いした。あまりにもおもしろかったものだから思い出すだけで笑みが零れそうになるな。昇降機が降りてきたので私達は少女を置いて(簡易的な寝床を作った)全員乗り込んだ。
「気を引き締めろよ相手はあのサピダムだからな。何をしてくるか分からねぇぞ」
「そうですね、相手はあの三魔将軍の叡智のサピダムですからね。本当に何をしてくるか分かったもんじゃないですもんね」
「そうだね何が来ても平常心でいるね」
「お姉ちゃん達物凄く警戒してるね」「ねー」
「まぁ無理もねぇよ今までも散々てこずった相手らしいからな。流石は三魔将軍と言ったとこなんだろうな」
昇降機が止まり暗い廊下を進んでいく、色んな魔獣や魔族らしきものが保管されている気味の悪い部屋に辿り着いた。幻術でどこかに潜んでいるかもしれないと思い{バーティカルソード}を展開する。魔力は回復したが{全開放}を使うのは無理、しばらく使うのはやめておいたほうがいい。そう自身の感が告げている。全員が武器を構え少し間が経ったところで部屋が明るくなる。
「これはこれはヒュード、マイオア、ビース、ウィンガル、フィンシー。それに魔族もおるとは中々おもしろいお客さん達じゃな」
「サピダム!今日こそお前の息の根を止めに来たぞ!」
「おお怖い怖いこんな野蛮な輩が王族とは嘆かわしいものだのぉ」
「なんだと!こらてめぇさっさと降りて来やがれ!」
「落ち着け、ベルゴフ相手の挑発に乗ったら思う壺だぞ」
「さらにそこには海のゴミもいると」
「んだとゴラァ!!降りてこいやおめぇの首晒してやるよ」
ベルゴフさんとシーウェーブさんこういう所似てるよね。2人共勢いよく飛び出していくが間に誰かが割り込んできた。ゆっくりと降りてくるサピダムとその前に黒いコートを羽織った3人が現れた。1人はエルドリアでも遭遇した竜騎兵、そして他の2人の顔を見て驚きを隠せなかった。
「お、お父さん?どうしたの顔色が悪いよ?」
「お兄ちゃん?」
1人はフォルちゃんの父親でありこの前の戦いで亡くなったはずのアルドリア王。もう1人は数日前に雪崩に巻き込まれ行方不明となった私の幼馴染である勇者ヒュード・ソールだった。
だが明らかに様子がおかしい。アルドリア王の身体の色は魔族と同じ肌色、ソールに至っては全身から寒気がするほどの魔の力が漏れ出している。どちらもまるで本当に魔族に転化してしまったと言われても信じてしまうような見た目だ。
「サピダム様こいつらの相手は私達にお任せください今のうちに王都の援護へ...」
「竜騎兵よ、実験結果がどうなるかこの目で見なくてどうするというのだ。それに王都には奴がいるはずだ儂が行くまでもない」
「そうですかならば私はそこのウィンガルとヒュードをもらいます。他の2人は残ったのを適当に相手してもらえばいいでしょう」
そういうとこちらに突っ込んで来た。あまりの光景に目を奪われていたネモの手を取り咄嗟に躱す。結界で覆われ私とネモ、その他の4人で分断されてしまった。
「くっまさか坊ちゃんとアルドリア王と戦うことになるとはな。嬢ちゃん達すまねぇそっちは任せたぞ!」
声だけが聞こえ金属音が鳴り始めたがすぐさま結解の色が濃くなる。向こうの様子が全く掴めなくなってしまった。おそわくこの結界は魔族が使う{ドーム}という魔術と似たものでより高位な物なのだ。
相手はネモのお父さんである先代エルドリア王を倒した竜騎兵だ。ソールでも歯が立たない相手に今の私達のコンディションで勝てるのだろうか。先程の戦闘で私はかなり消耗してしまっていてもう奥の手である{全開放}を使えない。ネモのサポートに徹するしかない、だが1人で相手するのはかなり難しい相手だろうし一体どうすれば・・・
「ウェン!」
「な、なに!?どうしたの?」
「また1人で考え込んでるでしょ。ソールがいないからって代わりに考えこむようにならなくていいんだよ?」
そうか、確かにソールも考えすぎて周りの声とかが聞こえなくなってしまうことを私がよく注意してる。そのソールも何故かサピダムの手下になってしまっている。きっと何か理由があってのことだから早くこんな奴倒して目を覚まさせに行かなくちゃ。




