#143 託されてきた思い
「あらどうしたの?えーと...ウェン、私と戦いませんか?」
「な、なに言っているのネモと戦えないよ」
「...フフフ、残念だけどその声はもう届かないわよ。声もこの子の力も記憶も何もかもが私の物になったの。ほら戦いませんかウェン?ここではっきりさせましょうあなたと私どっちがあの人に相応しいのか!」
あの人?誰のことを...そんなことを考えていたら何かが飛んできて頬の横を掠める。さらに何かが飛んできたので術壁を展開するが貫通してしまい右肩を負傷する。机の影に隠れて回復術を施す。
さっきまでのクイーンが放った攻撃とは格段に違い過ぎる。やっぱり今の攻撃は鳥弓術に間違いない。これまで何回も横から見てきたしソールが『竜の子供達の武器術って何かしらに特化してるんだよな、特に鳥弓術は貫通力に優れてる』って言ってたから術壁をちゃんと固めないと。
それが分かったところでどうしたらいいと言うんだ。この傷を塞いでも私はネモに手を出せない。クイーンならば先に進む為に倒さなきゃならない。そう頭では分かってはいても私は厚めの術壁しか展開できない。
「へぇあれだけ魔力を放出したのにもうそれだけの術壁を展開できるなんて流石ウェンね」
「私を語らないでクイーン。声が一緒でもあなたはネモじゃない」
「でもこの子があなたみたいに精神力があれば絶対にこうはならなかったのよ。私は相手に都合の良い{夢}を見せてそのまま心地よく死なせる。こうやって相手を乗っ取って私が他者になれるの」
「それであなたは今ネモになってるのね」
「ええそうよでも残念だったわ。あなた達はどちらも良い味がして幸せに殺してあげられたのにまさか抜け出すなんて本当に愚かね」
愚か?魔族から見たらそうかもだけど私は彼女にどうしても言わなければならないことがある。確かにネモと瓜二つでも明確に違うことがあるんだ!
「まぁなんでもいいわ早くこの醜い姿を捨てて私は元の姿に戻るの」
「醜い?」
「ええ魔族に転化したからこそ私はこの世で一番の存在になれたの。もうこんな夢だけで生きようとする下等種族には戻りたくないわ」
「なっ、何するのウェン!?」
今の彼女の発言で心の中の靄が晴れたような気がする。もう私が知ってるネモは帰ってこない、せめて私が楽にしてあげないとそう思ったら自然と杖を向け聖術を放っていた。あそこにいるのはネモじゃない最深部へ繋がる鍵を持つクイーンという魔族なんだ。
「私はあなたを倒して先に進む」
「友達でしょ私達、ウェンどうして!?」
顔を隠して涙を流している...はずなのに微かに笑い声が混じっている。ネモが悲しい声を出している中にクイーンの感情も混じっているんだ。ここにソールがいたら勇者の力でネモとクイーンのことをどうにか出来たのかな?
谷に落ちたあの日からいつの間にか帰ってきてくれるんじゃないか。窮地に陥ったら助けに来るんじゃないか。そんな希望、いや夢を見ていたけど甘くないよね。私達はこれまでたくさんの人に助けられてここまで進んで来られた。
幼馴染のコルロ、勇者一行の拳神マイオア・フィーザー様、ネモのお父さんであるエルドリア共和国の王ルメガ・ゴース・ウィンガル、アルドリア獣国騎士団長、アルドリア王、海底王国ヒルドリア国王キール・ヒルドリア・フィンシー、その他これまで関わってくれた人々全ての思いをここで終わらせるわけにはいかない。
「でも大丈夫だよネモ、私も無茶をして全力で相手をするからどうなるかは分からないや」
「あなたまさかまた使うの?」
「そうでもしないとあなたに勝てないからね。これで私が戦えなくなっても許してくれる?」
「・・・どうしてあなた達ってそこまで自己犠牲の精神で生きていけるの?でも私は嫌いじゃないわよそういうの」
{全開放}で溢れた聖の魔力を身体にコートの様に纏わせる。二回目の発動でなんとなくだがこの力の使い方を理解できた。この状態ならば...シーウェーブさんの様に宙に浮くことに成功する。クイーンに向けてバーティカルを剣の形に造形しながら飛ばす。クイーンもそれに合わせて魔力を込めた矢を放ち掻き消す。
「本当にすごいわねあなた。こんなに術の扱いが上手いなんて思わなかったわ」
「私もこんな力を持っているなんて知らなかった。ありがとうクイーンあなたのおかげよ」
「そう役に立てたなら良かったわ、それじゃあ始めましょう?」
地上にいたクイーンが私と同じ高さまで浮かび戦闘態勢を取る。こんな形でネモと本気で戦うことになるなんて、嫌ではあるけどそれ以上にこれ以上好き勝手に使われたくない。
みんなにどうやって説明しようかな。ベルゴフさんやシーウェーブさんにはなんだか見透かされそうだけど分かってくれそうだな。キュミーとフォルちゃんに説明する方法をこの後考えないといけないな。矢が飛んできたので身を翻し回避する。
今ならばネモと互角、いやそれ以上に戦って倒せるかもしれない。今どれだけ考えてもネモを助ける方法が浮かんでこないし他に策もない。聖の力ではない何かが目から溢れてくる。
この世にある美味しいものもっとネモと食べに行きたかったな。同じぐらいの歳でソールやコルロ以外でここまで仲良くなれたのも後にも先にもネモが最初で最後にかも。
{バーティカルソード}を先程よりも多い数展開し、矛先をネモに向け攻撃を開始する。クイーンも同じく身を翻しながら鳥弓術の技を放つようになってきた。でもまさか私がここまで激しい戦いしかも空中戦を出来るようになるなんて思わなかったな。




