#138 海賊と王族
「やぁぁぁ!」「はぁぁぁ!」
「やっぱりフォルちゃん強いね!」
「キュミーの方が強いよー」
前をどんどんと行く2人の少女を見てふと思った。俺がもし海で生きてなければ今頃これ位の孫がいたのではと。生前はそんなことを考える余裕がない程、最も愛していた海に対して全ての力を注いだ。その結果がこの異形とも言える見た目となってしまった。
2人の後を追いながら傷だらけの自身の骨を見て改めて長いこと生きてきたのを思い知らされる。術具そのものが壊れるまでは永遠に動き続ける。だが俺は修理無しで長時間動いた術具を知らないし正直そろそろ潮時だとも思っている。
「まぁ今回念のため着いてきたが大丈夫そうだな」
「船長早くー!!」
「まだまだ先は長いよー!!」
「はいはい待ってな今行くからな」
一応魔族ではあるが身体能力そのものは生前のまま。足腰そのものがあまり強くなかったので元々脚が遅い。この身体になってからは自身の身体に{操人形}をかけられるようになって動きやすくなった。それも戦闘とかの短時間の運用だがな、まぁというよりかは歳かもしれないがな確か八十超えて死んだはずだからな。
「今頃ベルゴフの野郎暴れてんだろうな」
「本当に良かったの?ベルゴフおじさんの方に行かなくて?」
「まぁあいつなら大丈夫だろうよ。あれでも次期サルドリア帝のはずだからな。ここでくたばるようならそこまでよ」
「おじさん達みんな強いもんね!」
サルドリア王家の男ならばこれぐらいは1人で乗り越えてほしい。そんな意味も込めて今回はあえて1人にさせたがこの感じなら着いて行っても良かったかもな。初代と二代目のサルドリア帝はその身体一つで土地の開発、鉱石採掘、魔物討伐を行い国の礎を作り、二代目の子供である三代目サルドリア帝によって今のサルドリア帝国が出来上がったと言われている。
前世界大戦時に襲撃を受け大量の魔石を魔王軍に奪われてしまい、その結果大量の術具を制作されてしまい被害を甚大にしてしまった。その償いとして当時マイオア族でより功績と実力も申し分がないとされた拳神マイオア・フィーザー。第四代サルドリア帝としてサルドリアを譲り王家は姿を消したらしい。
「まぁあの宝剣を出されちゃ信じるしかないよな」
「宝剣?あーベルゴフおじさんが持ってるあのきれいな短剣のこと?」
「ああ、あれはな...」
敵も出てくる気配がしないので更に話を続ける。初代サルドリア帝は拳術士でもあったが史実上最も優れた鍛冶師だったらしい。
王家の跡継ぎを残さぬ代わりに形として残るものを作ったのが宝剣サルドリア。王家の証として代々サルドリア王家に継承されるものだ。俺も先代サルドリア帝に気になって聞いた時、この説明をされた。初めて坊ちゃん達と初めて遭遇した時も信じてもらえなければあの宝剣を出していたらしいな。
「へー!そんなにすごいものを持ってるだねベルゴフおじさんは!」
「そっかーフォルちゃん見たことないんだっけー?今度見せてもらいなよー」
そんな会話をしながら奥に進んでいるが先程から全く敵が出てこない。あらかた倒しつくしちまったのか?あたりの光景も研究所らしき廊下からいつの間にか造りが変わっていた。
この建築様式は見たことがないな、大扉が出現し開けるとその先には雪山のはずだ。緑豊かな光景が広がっており部屋の真ん中には大きな樹があった。
「なんだここは?」
「やはりサピダム様の言う通りじゃったかこれは結構結構」
「どこ!?」
「あの樹から声がするよ!」
「フォッフォッフォッフォッフォッ!!」
目の前の大樹の方を向くと樹皮に顔らしきものが浮き出てきた。枝がまとまり手を形成し杖を持った魔族となった。こいつは海育ちの俺はが見たことがない魔族だな、まぁ見るからに術士だと思うがな
「ビースにフィンシーにネクロパイレーツとは面白い組み合わせだのぉ」
「あなたを倒せば真ん中のエレベーターが動く?」
「その答えをたやすく教えると思うかの?」
「キュミー仮にも敵だよ」
「フォルちゃん、でもここにこうやっているってことはそういうことじゃないの?」
「まぁそういうことには変わりはないのじゃがな。そこのネクロパイレーツは確かシーウェーブじゃったか?」
「俺のこと知ってるんだな?」
「我が息子が話しておったよ。久しぶりに歯ごたえのあるスケルトンを見つけたと」
「息子だぁ?」
「息子の名はジャック、聞き覚えはないかの?それはそうと名乗っておこうではないか儂の名はキング。サピダム様の研究室への鍵を守りし守護者の内の1人じゃよ」
あいつか、ヒルドリア王家の船を襲撃しその後俺の船を丸ごと飲み込んだ。ダンジョン化して捕えて壊滅寸前まで追い込んできたあの魔族か。あいつがこの研究所にいるのか今頃誰かと戦っているかもしれないな。
「さて一つだけとても大事なことを教えてやろう」
「なんだ藪から棒にさっきは教えないみたいなこと言ってたじゃねぇか」
「いやお主をどこかで見たことあると思ったのじゃ。貴様もしや{死霊の心}で転化したネクロパイレーツではないか?」
「それがどうしたってんだ?」
「儂を倒せばその術具は効力を失っていき死人に戻るとなったらどうする?」
「「え?」」
なるほどなそう来たか、そんなことを言われたところで俺はもう覚悟は出来てる。だが後ろを見ると想像通りだった。これまで色々な敵と戦ってきて実力をつけてきた3人でかかれば難しい敵ではない。おそらく仲間の命が握られるのは初めてだろうな。
「嘘だよね?倒したらおじさんが・・・」
「魔の術具だからそうなのかも・・・」
先程までの余裕がある無邪気な表情はどこへやら。戦意などまるで喪失してしまっている。仕方なく{ドーム}を2人の周りに展開して戦闘の被害が及ばないようにする。
「ほぉお主は再び死ぬかもしれないのに怖くないのか?」
「怖いもあるかよ俺は一度死んでんだぞ?世界から魔を完全に消すなら俺も例外じゃねぇよ!{ネクロスピリット}!!」
A級スケルトンを3体呼び出し戦闘態勢を整える。まずは情報収集からだこいつがどんな攻撃をしてくるのか見定めないとな。




