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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
運命の雪山

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137/246

#137 弟子の拳

 狂猛流?三魔将軍狂猛のフュペーガの拳術だろう。そして俺の拳術は拳神マイオア・フィーザーの拳神流。両者構えを取る互いに出るタイミングを伺っているようだ。道場の中心を軸にして右に動き出すとジャックもそれに合わせて左に動く、立ち位置が入れ替わった刹那攻撃を仕掛ける。ジャックも全く同じタイミングで飛び出してきたがそれぞれの拳術の決定的な違いが発覚する。奴の方が遥かに速く先制攻撃を胴に受けてしまったが威力はそれほどでもないようだ。


「遅いですね、これなら余裕で倒してしまいますよ」

「今の一手でお前も気付いただろうが俺はそう簡単には倒れねぇぞ。力においては俺の方が上の様だな」

「全くですフュペーガ様と全く同じタイプの拳術士とは私もツイテいないものです」


 視界から姿を消したと思ったら背後から頭部に打撃を受ける。速度がさらに増し威力も高くなった攻撃、そして奴の身体は赤い水晶の様になっていた。これは闘気を身体に集中させて硬化する{撃鉄}の上位である{纏神}。これは中々歯ごたえがありそうじゃねぇか!同じく闘気を集中し白金の色の肌に変色させる。


「やはりあなたもその拳術を使えるのですね。かの拳神であるマイオア・フィーザーは黄金の魔人と聞きました、あなたはこのような感じになるのですね」

「お前らも金銀財宝は嫌いなわけじゃないだろう?綺麗だろ俺のこの色も」

「ええそうですね、とても。なのでそのままあなたを砕きサピダム様への献上させていただきましょうかね!」


 またも姿を消したがこちらは全く動かず攻撃を受け続ける。調子も上がりさらに速度を上げるが攻撃を受け続ける。ようやく動きが止まり奴は涼しげな顔をこちらに向けてきた。


「どうして動かないのですか?まさか怖気づきでもしましたか?」

「人の心配をするよりも自身の心配をしたらどうだジャック?」


 表情が変わり片膝をつくジャックの{纏神}を施した身体にヒビが入る。確かにこの{纏神}を使えば自身の身体能力が向上する。だが拳術には最大の弱点ともいえることが存在する。奴は今まさに直面してしまった。


「貴様何をした!」

「何もしていないさ。確かにお前さんは速いが今まで出会った武器術、拳術の使い手の誰よりもな。相手がもし俺じゃなければその速さを攻略するのに骨が折れるだろうさ」

「それであれば何故だ!なぜ私が下等種族を下から見なければならない!」

「お前は俺よりも拳術士として練度が低い。ただそれだけの理由だ」


 最大の弱点、それは拳術士として闘気の練度がもし相手と同等クラス以上でなければ練度の差で絶対に叶わないということ。確かにジャックの闘気もかなり高い、だがまだ不完全である。透き通る水晶の様な身体は俺やフュペーガの様に完全体となった強靭な身体には攻撃が通らない。それどころか傷を負ってしまう。


「どうしてだ、それならば何故私はお前たちと同じ領域に辿り着けない!この身体は何故応えない、私はいつになったら...」


 俺も元々は出来なかったし師匠の力を継承した直後はジャックと同じく水晶のような{纏神}だった。だがある時を境に俺の身体は進化しこの力を自在に使えるようになった。そもそも俺は冒険者として才がなかった。その運命を師匠が捻じ曲げ大陸辺境の村の狩り人で終わらずに済んだ。闘気を操れる、ただそれだけで世界が変わり拳術士にはなれたがそこでさらに気づかされたこともある。


「無駄な抵抗をやめろジャック、お前は俺以上に強くなる素質を持っている」

「貴様この私に降参しろと...?」

「そうだジャックお前にフュペーガが拳術を教えたのは類稀なる能力を持っているからだ」


 この部屋に入る前から充満していた闘気はジャックそのものが元々保有している天然の闘気だ。本来闘気とは体内の魔力を変換したもの。だが先程から奴からは魔力を練る気配を一切感じないどころか闘気が溢れ出しているのだ。ジャックの身体には魔力が一切流れておらず全てが闘気なのだ。


「・・・・・・・」

「例え多数の人を殺してしまったとしても」

「・・が・・・た」

「魔族だとしてもその力を俺達ととも、」

「それがどうしたというのだ!」


 姿を消しまたも高速の拳を繰り出してくる。俺はその拳に拳を合わせるとジャックの{纏神}が完全に解除され全身から血が噴き出す。


「グワァァァァ!!」


 これがもしフュペーガの拳ならば相殺もしくはどちらも負傷していただろう。俺はただその拳に合わせただけ、ただそれだけでジャックは威力を吸収しきれず拳だけでなく全身に衝撃が伝わる。


「諦めろお前は俺には絶対勝てない、とあることが決定的に足りていない」

「うるさい!うるさい!うるさいぞぉ!下等種族が私達魔族を見下すなぁ!」


 血を流しながらも大声を出す。あれだけのダメージを喰らったのに叫ぶ気力まであるのかやはり奴の拳術士としての才は本物だ。


「ハハハハ!ハハハハハハハハ!」

「おい何を!クッ...」


 遂におかしくなり笑い出したのかと思いきや奴は腰のポーチから何かを取り出し首に刺した。それに気づいてとどめを刺そうとしたが遅かったようだ。奴の身体は赤く大きく膨張していった。


「お前タチ下等種族ト共に魔王ヲ倒ス?オ前らは魔族の養分!ソれが分からないのか!」

「もう何を言っても駄目そうだなこれは」

「くタばれぇぇぇ!!」


 巨大化した腕が振りおろされるが左手で抑えそれを上に投げ右手に闘気を貯める。


「ありがとうなお前にならこの奥義を試せる...初めてだよ師匠以外に放つのは」


 単発ならば拳神流拳術の中で最も高い威力を持った正拳突き{玉神滅殺}を繰り出す。触れたところが貫通し血肉が後ろに弾け白い壁が赤色に染まった。

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