#135 普通の女の子
聖属性の剣が魔獣の群れのボスと思わしき個体に突き刺さり絶命する。辺りで群れていた他の狼達はその姿を見て山の中に消えていった。
「いい調子だねウェン」
「うんでも少し疲れちゃったかも。吹雪が止んだと思ったら今度は魔獣達がこんなに襲い掛かってくるなんて...」
「お姉ちゃんごめんね私もう少し動けたらいいんだけど」
「ううんそんなことないよ。キュミーがいなかったら私が聖術を造形出来ないからね」
いつもと比べてもかなり低いテンションのキュミーの頭を撫でる。私は王都から外れた小さな村で暮らしてた経験で冬場になってからの魔獣の対処などの方法は知っている。
マイオアで尚且つ火の術適性を持っていてしかも拳術士であるベルゴフさん。土地柄や過去の経験からある程度の防寒対策で動けるウィンガル族のネモとビース族のフォルちゃん。ネクロパイレーツでそもそも寒いという概念が通用しないシーウェーブさん。
だがフィンシー族であるキュミーは肌そのものが水中で活動しやすくする為に身体の作りが違う。その為肌が凍ってしまい、鱗槍術による身体強化がなければまずこの雪山にすら入れない。あのままアルドリアで待つことになっていただろう。
「いったん休憩にしましょう」
朝から動きっぱなしだったのでネモの提案で休むことにした。ベルゴフさんが近くの木を叩き折ってそれをネモが風術で成形し、人数分の椅子を作るなどして野営の準備が始まる。みんなで準備をしたのですぐに用意が整い、薪の上で浮く鍋には先程仕留めた狼を使ったスープを作って暖を取り始めた。
「一時はどうなるかと思ったが吹雪が止めば余裕なもんだな」
「ベルお前魔力切れで消えかけの蝋燭みたいだったのに回復したもんだな」
「うるせぇぞ骨船長!お前こそ吹雪で骨が飛ばされかけてただろぉ!」
「「あ?」」
「んだとてめぇ!やんのか鉱山馬鹿?」
「誰が馬鹿だ、死人がよぉ!」
頭を互いにぶつけ喧嘩腰になったがこれは日常茶飯事なので私達はみんな放っておく。山に入ってから一週間もう少しで目的地であるサピダムの研究所に着く。
そしてソールが谷底に落ちてから二日が経過した。あの時は気が気ではなく後を追いそうになったが、こんなことでやられるはずはないとベルゴフさんが言葉をかけ止めてくれた。
「お兄ちゃん大丈夫かな?」
「キュミー大丈夫だよ!今までも大丈夫だったんでしょ?」
「うん、でも...」
「そうですね私達に出来るのは信じて待つことですよ」
ネモがフォルちゃんとキュミーの肩を掴んで抱き寄せていた。なんだか寂しくなったので私も混ぜてもらった。暖かさとはまた違う温もりを感じられたと同時に少し今更なことを思ってしまった。
今この場にいる半数が王族であることも忘れてはならない。私以外の女の子3人はアルドリア、エルドリア、ヒルドリア、それぞれの王女。私はただの何でもない捨てられた女の子。村で過ごしてた頃は王女様達と友達になって共に旅をすることになるとは思わなかった。
「ガァァァ!!」「ゴワァァァ!!」
叫び声と共にそれぞれが雪原に投げ出され衝撃で雪が舞い上がった。互いに立ち上がりまたも喧嘩の続きをしようとしていたので流石に止めに入った。そういえばベルゴフさんもサルドリアの次期皇帝なんだった。私達の中で一番年長者でいざという時は頼りになるんだけどなぁ...だがこういう感じも嫌いじゃないというか正直大好きだ。
「ウォッホン!距離的にも最後の休息になるだろうから確認しておくか」
ベルゴフさんがわざとらしい咳払いをしてとある術具を置いて空中に映像術を展開する。サピダムの研究所の外観と辺りの地形が映し出され確認し始めた。事前に入手出来た情報はこれだけで内部の情報を探るためにありとあらゆる手を使ったが内部の情報は掴めていない。その為にまず辺りの監視塔などを制圧しながら行くのだが...
「突っ込みすぎるなよベル?」
「そうですよ突っ込みすぎないで下さいよベルさん?」
「おじさん駄目だよ?」「ちょっとは考えて行動するんだよ?」
「ベルゴフさん気をつけてくださいね?」
「なんで全員俺の心配をするんだ!!俺がそんな信用ならんか!?」
一同頷いた、確かにちゃんとする時はちゃんとするのはそうなんだけど、それ以外の時はなんというか豪快すぎるのだ。頭の中で我慢出来ずに正面で研究所に乗り込もうとする姿が容易に思い浮かんでしまった。
「お前たちよここまで旅をしてきて俺を何だと思ってんだよ。よーく考えて見ろよ時と場所は流石に選んで暴れてるだろ?」
「日頃の行いです」だな」
ネモとシーウェーブさんが同時にそんなことを言ってベルゴフさん以外の全員が笑いをこらえられず吹き出した。
「こんな大事な時には突っ込まねぇよ!全員が無事に帰れなきゃフィオ姐やミュリ姐、あの世の師匠にも叱られるわ!まぁこんだけリラックスしてるなら確認もいらなかったか。ともかく俺らは明日坊ちゃん抜いたこの六人で研究所を攻略する、いいな?」
一同は再び頷いてベルゴフさんが術具をしまうとそれぞれが天幕に戻っていった。尚眠ることを必要としないシーウェーブさん、私達が夜間の間魔獣に襲われないように監視してくれている。作戦決行前夜、そして1人になったのもありつい言葉を漏らしてしまった。
「この作戦が成功してソールがもし帰ってこなかったら私はどうすればいいの?」
二日前に封じた弱音を吐きだす。私はソールのような特別な力がないのにどうして守られて生き残ってしまうの。村の人達、コルロ、ソールと私を守るために消えてった。そしてそんな私をずっと助けてくれたソールも消えてしまった。
好きなものが目の前から消えるそんなことをもう味わいたくない。生きているのではと思う度に胸が絞めつけられる。今は為すべきことをするんだ、最悪なことを考えてはいけない。
ソールがいなくても、守ってくれる人がいなくても、私は前に進まなければならないんだ。少しスッキリしたかもしれないこれなら明日に備えて熟睡できそうだ。




