#134 雪山の民
「ふぅこれで落ち着いたか?」
剣と盾を納め辺りを見渡すと先程まで大量にいた狼が全て霧散していた。辺りの安全を確認して本体の方を見るとその姿はすでに消えていた。もう目が覚めてどこかにいってしまったようだ、あのふわふわそうに見えた毛触りたかったな...
「あ、あのー」
「え、あ、はい!」
「助けて下さりありがとうございました!」
少しだけ考え事をしていたら反応に遅れてしまった。先程助けた狼ゾリを引いていた少女が大人を連れて戻ってきたようだ。その手には見慣れない武器を持っている狼などを狩るための武器だろうか?
「この子から狼の群れに襲われてその時助けられ、逃げ延び我々が駆けつけたのですが...肝心の狼は一体どこに?」
「なにかしらの特異な魔能を持っていたようで、群れの長らしき狼の角を切り落としたら消えるようにいなくなりましたね」
地面に落ちていた切り落とした角を拾った。やはり術具に見えなくもない、中に魔石の様な物が打ち込まれており妖しい光を放っている。
「そうですか、それはあなたが持っていてください。あなたは冒険者でしょう紫ランクに上がるためにはそれが必要となるでしょう。単独でこの山の魔獣を倒せるほどの実力者様に会えるとは」
そう言われて冒険者カードを取り出すといつの間にか青色へと変わっていた。この山に入ってからたくさんの魔物や魔獣と戦ったがまさか赤色から青色に変化しているとはな。たった一日で丸々一つ分上がっているではないか。
この角をギルドに提出したら自分も紫ランクの冒険者になれるのか...だが本当に上げてしまっていいのだろうか?今まで出会った紫ランクの人達と自分が同等もしくはそれ以上とはとても思えない。
「この角って何か使い道はあるんですか?」
「そうですね、難病である獣症の特効薬になりますな。それ以外には装飾品として高値で取引されるそうです」
角に穴をあけてポーチから紐を取り出して簡易的なペンダントを作り少女の首にかける。急にそんなことをされたからかとても困惑した様子を見せている
「えっ、こ、これって高価な物なんじゃ・・・」
「自分にはまだあの一番上の輝きは早いからさ。代わりに受け取ってくれないか?ただ持っているだけだとあの狼も浮かばれないだろうからさ」
「これはこれはありがたいことですな。本当にありがとうございます。それにしてもこの雪山に1人で何の目的でいらしたのでしょうか?」
そうだ、この人達はこの辺りに詳しいかもしれないから聞いて見よう。地図を広げて現在位置を確認し印をした場所辺りに集落がないかを聞いてみる。
その辺りには人家が確かに存在していたらしい。だが雪崩によって崩壊し最近では魔族が住んでいるとの噂で誰も寄り付かないという。ウェルン達はそこの魔族を倒して休憩地点にしているかもしれないな。
「もう夜も近づいてきております、我々の家で休んでいかれてはどうでしょうか?」
「そうですねどうやって野宿しようか考えてたのでお言葉に甘えさせてもらおうと思います」
狼ゾリに2人は乗り雪原を駆けていくので自分はその後ろから空を飛んで追いかける。また狼の群れに襲われるかもしれないので下の2人を護るために飛んでいる。
小さく盛り上がった雪山の前でソリが止まったのでその場所に降りる。よく見ると扉と丸い窓だけ露出したカモフラージュされた家がそこにはあった。中に入ると暖炉があり他にも人がいた。
「あらおかえりなさいその人が助けて下さった方ですか?」
「はい、冒険者のソールと申します、一晩だけお邪魔させてもらいます」
「一晩だけと言わずにずっといてくれてもいいんですよ?その子も喜ぶでしょうし」
「お母さん!」
「これこれからかうでないぞキナップ。マーチェの顔が真っ赤ではないかそろそろ貰い手を捕まえてはとは思うがの...」
「お爺ちゃん!」
笑い声が飛び交う。このやり取りを見ていると村で過ごした日々を思い出す。村長と奥さん、ウェルン、コルロ、そして自分が卓を囲んで、たわいもない話題で笑っていたな。スープをごちそうになって布団を広げてもらい自分は横になる。
カーテンの向こうからはキナップさんとマーチェさんの寝息が聞こえてくる。ソファベッドで狼達に囲まれお爺さんが寝ている。外から多少吹雪気味の音が聞こえるぐらいで他に音はなくとても静かだった。
マーチェさんの父親であるスカブさんはふもとの街まで行って食糧を買いに行った。それもあって布団が1つ余っていてそれを自分が使っている。
「どうしてこんな過酷な環境で暮らしてるんだ、何か理由があるのか?」
ふと思ったことが口に出た。魔物や魔獣が多数存在するメルクディン山脈でわざわざ危険を冒してこの場所で暮らす理由を考えてみたのだが分からなかった。なんだかんだ自分達の村は勇者の紋章を守るために作られた村だったから、この場所にも理由は少なくともあるはずだ。雪山の希少な物資を降ろすため?だがスカブさんは愚かこの一家は戦闘能力がなく見えた。
ドアが開き誰かが帰ってきた防寒着を着てはいるが何か運び込んでいるのでおそらくスカブさんだ。寝たふりをしている自分の所にやってきて顔を伺われる。火薬と血の匂いがするな、何か狩りをしたあとだろう。火薬を使った狩りとはいったい何をするのだろうか。何か床に落ちる音がするとさらに火薬の匂いが増しカチャっと金属音が鳴る。
ドガァン!!ドガァン!!
大きな炸裂音が急に響き胸に強い衝撃を受け意識が朦朧とする。い、いったい何をされたんだ?これは、確実に、折れ・てる・・な・・・




