#132 遭遇
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パ・・チ、・・ン!・チ・チ...
パ・パチ・チ...パチ...
パチパチパチ...パチン!パチパチパチ...
何か音が聞こえる。身体のあちこちが痛さを覚えながらも目を開けると見慣れぬ洞窟の天井だった。ベッドで横になって傷をしている箇所に包帯が巻かれ応急処置がされてることを確認した。
天井から干された野草、岩の隙間から溢れる湧き水を入れている水坪。自分の耳に聞こえたのは薪を積んで辺りを照らしたり暖かさを感じていた焚火の音だ。
そうだ確か自分は風で強く谷底に落ちた。雪がクッションとはいえ地面にたたきつけられてそのまま意識を失ったんだ。人が住むことが難しいこの雪山で誰かに拾われたのか?外で何かをはらう音が聞こえ、洞窟内に足音が響く。防寒具を着込んだ何者かが現れた。
「あら目覚めたのね良かったわそこで待ってなさい。今食事を作るわね」
牧の束を降ろして手に持った色々な食材を掲げたその人物からは覚えのある声を聞いた。背中を向けて背から武器を下ろして台所っぽい空間に移動していった。
鎌を持った女性、覚えがあるという事は過去に出会ったことがあるはずなので記憶を辿った。最初は船の上で危機を救ってもらい、その後マクイル大陸で魔力を吸われたときに分け与えてくれた。勇者一行でゴレリアスと共に旅をした魔王ラ・ザイールの娘。
「あなたがもしかしてラ・アンクル様ですか?」
「・・・そう私の名前を知ったのね」
自分が考え事をしている間にいつの間にかもう料理が完成していたようだ。湯気が立ちぐつぐつと煮えた鍋が焚火の上で浮いており、お椀によそって彼女は食べ始めた。自分もその横に座り同じようにお椀によそって食べ始めた。互いに話すことなく黙々と食べ進めて鍋の中身が残り一杯分程となった。
「これだけ食べられるならもう動いても大丈夫そうね。今包帯を取って上げる」
上の服を脱がされ上半身のあちこちに巻かれた包帯を取ってもらった。落下した時に感じていた痛みはもう感じなくなっていた。今食べたスープはおいしいだけでなく傷を治す効果もあるのかもしれない。
「介抱してくれてありがとうございます」
「いいわよ、困ってるなら助けるのが五種族なら当たり前なんでしょ?」
「デビア族は違うんですか?」
「ええそうね。私達デビア族の大多数は小さい頃から互いに競い合うの。最初は小さな喧嘩でも時が経つと相手よりも優れた存在であろうとする。いつの間にか殺し合いになって最後に愉悦感を覚える。そんなことを繰り返していたデビア族は魔の力に溺れていき肌の色も変化し魔族と呼ばれるようになったの」
彼女の手は確かに魔族特有の紫色をしていた。そういえば今まで出会った三魔将軍や魔族達はより紫色が強く毒々しいぐらいだったな。自分も魔の力を使っていくと変色していくのかと自分の手を見つめた。
「でもあなたは私達の血が薄いのかもね。翼も生えて完全にデビアとして覚醒したのに変色していないものね」
「つまり自分はデビアと何かしらのハーフってことですか?」
「そうかも知れないわね。翼が無ければあなたヒュード族にしか見えないわね」
デビアとヒュードのハーフ...それだけは考えたことがなかったな。ハッ!こんなことをしている場合ではない、急いでベルゴフさん達に合流しなければ!自分の荷がまとめられたところを見つけて駆け寄り装備をしていく。
「あらもう出かけるの?」
「は、はい!ここにはある目的で仲間と来たのですがはぐれてしまったので急がないと!」
「あーそれなら今はやめといたほうがいいわよ」
「いいえ一刻を争、」
「外は夜で猛吹雪だから流石にもう出かけられないわよ」
洞窟の外から猛烈に冷たい風が吹いておりこの中合流するのは危険であることが理解できた。
「もう一晩泊まっていくといいわ、そしたら吹雪も収まっているはずだから」
寝れない、先程まで横になっていたのもあり全然眠くならない。そしてこの状況下で眠れるものなら自分のことを褒めるかもしれない。先程と同じベッドで寝ている、そう寝ている。ここまではいいのだ、だが決定的に先程と違う箇所が存在する。
「ううん...うん...ううん...」
アンクル様に抱き枕として扱われているのだ。外は吹雪いている為とても冷える。だがここにはこのベッド一つしかないので一緒に寝ている。自分より先に寝たようで先程まで反対を向いていたはずなのに、アンクル様にがっちり抱きしめられて抱き枕として扱われている。
かなり前にアルドリアで似たようなこともあったが、あの時はすごく疲れていたので一緒に寝た。起きた後すごい慌てたが今回は意識がはっきりとしているので勘弁してほしい。先程の着こんでいた服装と違って寝間着なのだ。当然肌の露出も増えているし布だけでないとある物を押しつけられて重量感も伝わってきているのだ。
「これは修行だどんな時も落ち着く為の修行だ、自分は落ち着きが足りな、」
「んん?うんん...」
更に強い力で抱きつかれ密着度が増し身体もより温まり相手の鼓動が伝わってくる。なんて落ち着く鼓動なのだろ、じゃなくて!分析は冷静に出来ているのに動揺しすぎだ。
戦闘の時とかはやましいことを気にしない。なのにどうしてこういう時だけ思考が回るんだ!こんな調子だとウェルンにまたはたかれるぞ。何も考えるな、考えるな...いいぞ段々と眠くなってきたような気がするぞ、いけるいけ...
ギュ
るか!落ち着け自分!!とそんなことを考えてはいたがいつの間にか寝れたのかもしれない。それ以降の記憶は『何か柔らかい』以外何も覚えておらずいつの間にか朝になっていた。起きた頃にはアンクル様の姿はなく吹雪も止んでいたので位置を確認しながら研究所に1人向かうのだった。




