#130 新たな地へ
「本当にすみませんでした!!」
「そんな謝るこたぁないだろ。坊ちゃんが寝坊なんて珍しいもんだなぁ」
「前の戦いの間ずっと魔の力開放していましたし、相当身体の負担がかかっていたのかもしれませんね」
指輪を外して背に生えた翼を見る。デビアとして覚醒し前と比べ物にならない膨大な魔力を使えるようになったが扱いがとても難しい。今まで通り同じ量の魔力を剣に纏わせようとしても少し多めに引き出してしまい無駄に消耗してしまう。
実際威力としてはかなり上がっている、だが本来の竜剣術 + 魔の力による竜剣術となっているのでムラが生まれてしまっている。溢れた魔力も剣に纏わせて振るえるように出来れば最高だろう。
「でもたくさん寝たから大丈夫だよね!」
「ご飯もちゃんと食べたのお兄ちゃん?」
「いや急いでたからまだ食べてないんだ。アルドリアで何か買っておけば良かったな」
「じゃあソールこれ食べる?朝早起きしちゃったから作った軽食なんだけど...」
と差し出されたサンドウィッチを受け取り頬張る。ウェルンの作るサンドウィッチは胡椒が多めに入っているので刺激が強めで本当においしい。ここ最近はずっと食べられてなかったので懐かしさも感じていた。
「大丈夫?結構私好みの味付けなんだけど」
「うん?いつも通りおいしいよ、この味付け癖になるんだよね」
「あっそうなんだ...それは良かった」
「お姉ちゃん!私も食べたい!」
「私も私も―」
「2人共坊ちゃんによりかかったら駄目だろ。食い意地張るのは分かるけど今の2人で坊ちゃんによりかかると危ないだろう...色々とな」
「「はーい・・・色々?」」
右肩にキュミー、左肩にフォルがもたれかかってきてたがシーウェーブさんが離してくれた。2人共最近少女から女性の身体へと変わったばかりでまだ精神と身体が追いついていない。先程まで成長したその身体を自分に押し付けていたのだ平静を装ってはいるが内心ホッとしている。
「鼻の下が伸びてますよ、ソールさん」
「えっいやナンノこと!?」
「ふーん、そんな反応するんだ」
雑談していたウェルンとネモリアさんが2人してジト目で見てくる。キュミーとフォルちゃんは流石勇者一行だったフィオルン様とミュリル様の娘だろう。本当に同じぐらいの歳じゃなくて妹みたいな感じで触れられて良かった。じゃなければ旅どころではなかった。
「やっぱりソールさん大きい方が...」
「そうなのソール!?」
「ち、ちが、」
「おーなんだなんだ坊ちゃん頑張れよ。師匠が言ってたぜーどんな魔獣や魔族と戦った時よりも女性と戦うのが最も難しいってよー」
誰からの助けも得られず時間は過ぎていく。道中色々な敵に出会いながらも砂上船は北マクイル港へと近づいていく。その道中オアシスで水浴びをした際にまたも似たような状況となったりしたのだ。
昼間は燃えるような暑さだが夜になると冷えるアルド砂漠もなんだかんだ三回目か四回目なのか。みんながテントに入り静かになったのを確認し今日も剣を振るう。剣に魔力を纏わしてみると多めに魔力を使っていることが分かる。このままの方法で形を仕上げるのもいい、同じ状態が続くようならば今までとは違う方法が必要なのかもしれない。砂の上に寝転んで空に浮かぶ星を眺める。
「悩み事か」
「あっベルゴフさん、竜剣術のことで少し悩みがあってこんな感じに...」
ベルゴフさんに見えるように剣を持ち魔力を込めて見せる。今回もうまく調整出来ず剣の周りに不安定な魔力の膜が生成される。
「なるほどなそういうことか。拳術は皮膚そのものに魔力を染み込ませて硬質化させてるからな仕組みそのものが違うんだな」
試しに拳術を試みてみる。自分の手に魔力を纏わせることは出来るが今言われたように染み込ませることが出来なかった。何かコツがあるのかと聞いて見たら『人によって出来る出来ないがあって完全に才能がないといけない』と言われたので自分には拳の才がないことも分かった。
「坊ちゃん師匠とかいないのか?もし存命なら会いに行ってみたらいいんじゃないか?」
「うーん生きてはいるんですけどね、世界のどこにいるとか全く分からなくてですね...」
師匠というと自分のことを育てた親が教えてくれた剣術だ。自分がいくつの時かは忘れてしまったが一通りの剣術の方を教えた後、旅に出かけてしまってから消息が分からない。成長した今なら自分を鍛えるためにやったことというのは分かる。
だがそれにしても放任主義にも程があるよな。目を閉じながら父親が剣を振るう様を思い出してみる。今の自分と同じように膜のようなものがついてる。形が綺麗だなまるでもう1本別の剣があるよ、うな...
「あぁ!!」
「うぉ!?なんだ急に叫んで何か思いついたのか?」
「そうかそういうことだったのか!膜が不安定に出来るならそれをさらに造形すれば...」
寝転んでいた状態から立ち上がり剣を構え魔力を纏わせると膜が出来る。それをさらに剣の形に沿わせるように造形していく。すると形と色が安定し綺麗な魔力による黒い刃が出来上がった。近くに転がる岩に刃を当ててみると触れた部分に刃が通り簡単に斬れた。
「で、出来た!」
「なんか面白そうなことしてるじゃねぇかよ!どうだ一本合わせてみねぇか」
「そうですね今回のがどれくらいか見極める為にもお願いします!」
その後いつも通り一本だけで終わるはずもなく日が昇り始めた頃にようやく解放された。身体のあちこちに痛みを感じてはいるが新しい魔力の込め方に関しては完全に慣れただろう。




