#126 誰も知らないこと
世界の秩序を守り続ける自警団エクスキューションの長。ジャッジマスター、ガッシュ・バグラス。冒険者としても最高のランクである紫ランクに到達しており、数多くの伝説を持っている彼の実力は世界での共通認識である。私達も最終防衛として彼のことを頼っているのは確かだが実際に戦う姿を見たことはなかった。
「先程は油断していたんでな!これを防げるといいなぁ!」
ドリューションは二つに分裂しエクスキューション三闘士、巧技のギルガバース、剛力のドーガ、の2人に変化した。それぞれが武器を構えて術と武器術を繰り出した。その二つの技を防ぐ素振りを見せることなくガッシュに直撃した。
「今まで会った奴の中でもかなりの力を持った奴らの最強の技をぶつけさせていただいたぞ!」
「涼しい顔をしていましたがこれで無事でいるは...」
直撃した後の煙が晴れそこにいたガッシュは何一つとして変わった様子が見られなかった。今放った二つの技は私達の合体術{山紫水明のアスペクト}よりは劣る威力ではある。それでも十分な威力のはずだが...
「確かにその2人はエクスキューション内で力と技に秀でていた。魔王軍の三魔将軍に対抗しえるかもしれない。期待の意味も込め三闘士という称号を与えたがどうやら見込みが甘かったようだ」
「な、なにを言って..」
そんな言葉を放ったギルガバースの胴は既に両断されていた。いったいいつ斬ってあの場所までいどうしたのだろう。背にいつの間にか回り込んでいたガッシュ・バグラスの手には両刃刀が握られていた。
「は、早い!?」
「いやお前が遅い」
ドーガもガッシュに対して構えるがもう腕を切り落とされていた。形を保つことが出来ないのか分裂した紫の塊は一カ所に集まった。ガッシュと同じ姿に戻ったが所々形を保てていなかった。
「世界最強の武人、これは分身体だけではどうしようもないですね。一旦ここは引くとしましょう、次に会うときは必ずその力を物にしてみせますよ」
大きな白い煙が吹き上がりドリューションは姿を消した。あれで分身体?それに私達2人がかりで叶わなかった化け物に対して圧倒的な力を示したガッシュ・バグラス。近くで鳴っていた金属音が鳴り収まった。寄生されていたアルドリア軍が解放され、辺り一帯の戦闘が終わったことも告げていた。
「なんとかなったわね」
「ええ私たち2人だけではどうなってたのかしらね」
「お2人とも大丈夫そうですね。それでは私は...」
「ちょっと待ちなさいガッシュ」
「何か御用ですか?」
「今日という今日は聞かなきゃならないわ。あなたいったい誰なの?」
「・・・」
「他のエクスキューション達はみんな兜を取って顔を見せてくれるわ。どうしてあなたは見せてくれないの?」
「そうですね、頑なにあなただけは見せてくれませんね」
「・・・それでは」
彼は空高く飛び上がりそのまま空中を蹴り進んで消えていった。ウィンガル族の様に翼もないのに空を跳ぶヒュードなんてフィーザー以外に見たことはない。彼はどう見てもマイオアの体躯ではないので単純に闘気をフィーザーとかと同じレベルで使えるのだろう。
そこまで強いならばどうして彼は過去の魔王軍との闘いで一切出てこなかったのか。疑問でしょうがないが私は知っている。あれ程の実力は才能だけでは補えない。
ゴレリアスも確かに何に対しても才能がとんでもないほど高かった。だがそれだけでラ・ザイールと渡り合ったわけではない。旅を続けながらも毎日剣の腕を磨き竜剣術に磨きをかけていたからだ。
だからこそガッシュ・バグラスの正体が気になる。エクスキューションが出来たのは二十年前、その当時から彼は国1つ分の戦力があると言われていた。その後、全くと言っていい程実力は落ちることを知らずに未だ強くなる可能性もある。
「それはそうとヒュリルは大丈夫かしら?」
「ええソール君達と一緒に行動してたからきっと大丈夫よ。フォルもいるしネモリアも...って考えて見たらソール以外女の子しかいないわね」
「いつの時代も勇者はモテるわね。私達がゴレリアスに恋をしていた時みたいにね」
「懐かしいですね。2人共思いを告げる前にあの人いなくなってしまいましたからね」
「本当にどこで何をしているのかしらゴレリアス」
「きっともう戦いのことなんか忘れてきっと平和に暮らしているのでは?」
「それもありそうだけど世界のどこかで戦ってたりして」
私達2人がゴレリアスと共に旅をして魔王軍との戦いに臨んだ。世界を守るためだけではなく彼の近くにいたその一心で着いていった。見失ったらどこかに行ってしまいそうで諦めきれずに立場を無視して冒険者となって世界を旅した。
旅が終わり告白をと思ったらフィオも同じことしようとしてたから2人で彼が宿泊していた部屋を訪れると彼は消えていた。その後の消息は誰も知らず私達の思いは告げられることはなかった。それから五十年近くみんなで探したけど見つからず仕舞いだ。
「長命種な私達はまだ現役でいられるかもしれないけどヒュードはもう歳のはずよね」
「そうね生きているならゴレリアスは69。最後の戦いで左腕を失ってるし戦力としてカウントは出来ないわね...」
「なら私達も若い子達に負けないようにしないとね!」
私達はそんな思い出話をしながらこれからの戦いに向けての想いを固めた。ゴレリアスがもたらした平和をまた作るために私達も進まないとね。




