#125 2人
フィオと一緒に戦ったのは魔王城で叡智のサピダムと対峙した時が最後。それ以降は王族として国同士の関係を築くために一年に一度、アルドリアまで赴いて話をする時、世界会議の時にしか出会えなかった。それだけ長い年月が経っても互いの動きを忘れることはない。私1人では防戦一方だった戦いが激しい戦闘へと変わっていた。
「あら全然私達衰えてないわね。2人で旅して世界のあちこちのおいしい料理を食べるってのはどう?」
「その案はいいですねフィオ、でも国のことはどうするのですか?」
「大臣にでも任せておけば大丈夫よ。って忘れてたわ、そういえばこの前クビにしたんだったわ」
「そうなんですね。ではこの話はなかったことにしてさっさと目の前のよく分からない魔族倒しましょ」
「まだ愚弄するかこの年増が!」
「言われているわよミュリル、歳を重ねてさらに可愛くなった私とあなたが比べられるのは悲しいわ」
「何言ってるのフィオ、美しく高貴さがある私に言う訳ないじゃない。あなたのようにいつまでも落ち着きがない子供っぽい人に言ってるのよ?」
互いに顔を向けて笑いながらガンを飛ばしあう間に巨人が倒れこんできたので私達は飛び上がり回避する。
「ちょっと危ないじゃないベル!もう少しでつぶされるとこだったじゃない!」
「いててて、おお姉御無事だったんですね知らせを聞いたときは心配しやしたぜ」
「そっちもなかなか大変のようですねベルゴフ。でも私達も手を貸せそうにないから1人でフュペーガの相手を頼むわよ」
「まぁそうですよねフィオ姐。そっちも三魔将軍ですしこっちもなんで手回せる訳ないですけどね」
「おいいつまで寝てんだ、起きろやベルゴフ!死合いを続けようじゃないか」
「向こうもまだまだやる気みたいなんで行ってきますわ。俺以上に大変そうですけど頑張ってくだせぇな!」
目に見える程濃い闘気を纏いながらまたも魔人へと変身しフュペーガに向かっていく。少しだけ見たことがあったフィーザーの弟子がまさかここまで成長するとはね。
人生何があるか分からないものね。こうやってまたフィオルンと肩を並べて戦闘をしたり、キールが目の前で倒されたり三魔将軍と戦うことになるなんてね。こうやって軽口を挟みながら戦っているけど決定打になるような攻撃を2人がかりでも入れられない。
「でもまさかずっと隠れていた臆病者がここまで強いなんてね」
「それを言うなら血飢姫あなた私に一度敗れているではないですか?」
「いえそれは私1人では通用しないと判断したの。それとフォルにゴルドレスの力を{経験吸収}させるためよ」
「逃げているなら負けたと同義では?」
「でもこうやってあなたと戦えているじゃない?か弱い女1人も仕留めきれない雑魚が何を言ってるの?」
「そうね、そろそろあなたの実力もそろそろ分かってきたしね、あの技行くわよフィオ」
「ええあれね!」
私は英具に溜め込んでいた個能{幻}を全て開放し、ドリューションの辺りを包みこみ辺りを探らせないようにする。
目の前にボールを造形しそこから太く長いスパイラルへとさらに造形を加え竜の形へと変形させてヒルドリア王家秘術{水竜弾}を放つ。
先程放ったスパイラルと同じように取り囲むように塒を巻きながら上空へと操作する。その四方に移動術式を施しフィオルンが英具全てを呼び出し多数の弓が狩猟具を発射する体制が整う。
フィオの最強技である{エンタイアブレイザ―}を放った瞬間、次の術式に移動しもう一度放ちそれを術式の数だけ繰り返す。八方向からの{エンタイアブレイザ―}、上空からは{水竜弾}が放たれる。
そして技が着弾する刹那私達は地面に手を当て造形レベル最高難度の{ライトエラプション}と{アースエラプション}を展開させる。
「「山紫水明のアスペクト!!」」
互いが持つ限界量の魔力を込めた攻撃術で辺りは煙に覆われる。{山紫水明のアスペクト}は私達2人の力を合わせた混術。
当時一緒に旅をしていたノレージ・ウィンガルの協力によって開発された。正確に言うなら混術ではなく合体術の方が正しいかもね。
「流石に少しは効いてるんじゃない?」
「ええこれも効かないとなったらもう私達お手上げよ」
煙が晴れドリューションが立っていた場所にはドーガ・べレイスに似た鎧姿のとある人物へと変化していた。あれは誰もが見間違うはずがないエクスキューションを作りし世界最強の武人であるジャッジマスターガッシュ・バグラスだ。
「まさかあなたの正体って...!?」
「フフフフフそうですよ、これが私の真の姿!冒険者として最高の紫ランクで世界を守る自警団エクスキューションのジャッジマスターにして世界最強の武人、ガッシュ・バグラスそれが私の本当の姿なのです」
「まさか私達最強の味方が実は魔王軍だったとはね...でもなんとなくそんな気はしてたのよね。だってあなた強すぎるもの」
「どうです、あなたがた唯一の希望が絶望に変わるのは!あぁ最高だあなた方のその表情を見れるなんて今まで隠してきた甲斐があったものだ!」
ドリューションが手を合わせると私達に雷が降り注ぎ直撃する。あまりの攻撃術の展開の速さに加えて魔力を全て使い切った私達に躱す術はなかった。
「「きゃあ!!」」
「ああどうしてこうもあなた方は弱いのでしょうね。私達魔族に勝てると思っているのですか?これでようやく大人しくなりましたね。私の一部として取り込んであげましょう」
奴の手がこちらに迫ってくるが抵抗する力など持っておらず目を閉じ最後の運命を迎える準備をする。
「執行者は1人でいい」
「グワァァァァァ!!」
破裂音と共にドリューションの叫び声がこだました。目を開けるとそこには先程ドリューションが変化した人物であるガッシュ・バグラスがもう1人立っていた。
「えっ?どうしてあなたが?」
「2人?どちらかが偽物なの?」
「ヒルドリア王、アルドリア王よ、遅れてしまい申し訳ない。あなた方のような美麗な方々を傷つけてしまった」
ドリューションと同じ声で私達が知るテンションで話す彼につい吹き出してしまった。どうして一瞬でも間違えてしまったのでしょう戦闘中は考えがまとまりませんね。
「貴様ぁ!どうしてここにいるのだぁぁ!」
「私はお前らのような悪を裁くために存在し助けを求める声の元に馳せ参じるのだ。さて私の名を語った罪は重いぞ魔族よ。エクスキューション、ジャッジマスター ガッシュ・バグラス。ここで貴様に判決を渡してやろう・・・死刑という名のな」




