#124 癒女帝
「どうしましたか?そんなものですかお得意の個能も使えないですか!癒女帝、ミュリル・フィンシー!!」
「くっ、かはぁ!」
私のことを愛してくれた人の声と顔で槍に魔力を纏わせて鱗槍術を振るう。その攻撃に対して防ごうとするが集中しきれない、完璧な術壁が貼れなかったので吹き飛ばされる。
「人というのは脆いものです。大事な物を盗られてしまえばこれほどまでに弱くなるのですね」
「その顔と声で喋らないでいただけますか?私が知ってるその人はもっと知性があるように見えました」
「おっと失礼、本当なら相手のことを深く知ってから取り込んで代わりになります。ですがここは戦場、相手はあの竜の子供で何をしてくるのか分からないですからね」
「ドリューションあなたの能力は大体分かりました。肌に触れた場合は容姿と声まで模倣し、取り込んだ場合はその者が持っていた能力の一部を自分の物にするんですね」
「おぉそこまで知れましたか。流石は勇者一行と言ったところですがこれで終わりですよ!」
攻撃が私の身体を貫くがそこには私はいない。代わりに螺旋状の攻撃術{スパイラルライト}と{スパイラルアクア}が発動しドリューションを取り囲む。私は少し平和に浸かり過ぎていたみたいです皆さん。
この戦場に来て目の前でキールを失ってようやく気づきました。またあの笑いもなく悲しみが繰り返す暗い世界に戻ろうとしているのですね。意識を集中し足元から英具{ファントムロザリオ}を取り出し集中する。普通の槍と違いこの槍は刃が両端に付いている双槍、特殊な術石が埋め込まれており術式を貯めることが出来る。
「それがあなたの英具なのですね。なるほどそのような性能を持ち合わせているのですね」
「見ただけで分かるのですか?」
「そうですね。いつかは忘れましたが見た物全てを見通す{鑑定眼}を得ることに成功したのですよ。私達魔族は成長することがない。だが私は他者を取り込むことによってザイールに近づくことが出来る。そんなあなたがたには感謝しかありません」
水と聖の渦から出てきたドリューションが姿を変えながらそんなことを話す。そして私の目の前には私がいて、その足元から英具{ファントムロザリオ}に似た何かを取り出し同じ構えをとった。
「おかげでこんなことも出来るのです」
「英具のコピー?いやこの力はまさか...」
「この力も手に入れるのに苦労しました。あれだけ厳重に守られていながら家族にだけは甘いのがキズでしたね」
ドリューションの姿がとあるマイオア族に変わる姿を見て私は激しい怒りを覚えた。そのマイオアは世界で2人といない最高の鍛冶師で、私達も大変お世話になった伝説の鍛冶師パーフォロスさん。
この英具も作り出したのも彼で他にフィーザーの英具も製作してくれた人だ。仕事に集中している時は誰もが近づけないほど殺気を放ちながら本気で打ち込み最高品質の物を作る。
その能力故にサルドリア帝国そのものが保護対象としていた。家族のことを最も大事としていて、保護される代わりに面会の機会だけは必ず設けさせるほど家族愛に溢れた人だった。まさか...
「まだ試したことがないことがありましてね。勇者一行をだれも取り込んだことがないのですよ、その試験体となって下さ、!?」
地を這う術弾を躱すドリューション。先程までとまるで別人のような雰囲気を放つ海底王国の女王がそこにいた。辺りが霧で包まれ、辺りを見回しながらキールの姿に戻るドリューション。
「私は心のどこかであなた方魔族と分かり合えるのではないかと思ってたのかもしれません。アンクルの様にちゃんと話をすれば殺し合わずに済むのではないかと。血を流さずに済むのではないかと。今一度本気で相手をさせていただきます夢幻のドリューション」
「聖と水においてはこの世で叶うものがいないとされる、ミュリル・ヒルドリア・フィンシーの力見せてもらいましょう!」
そんなことを言う奴の足元に術式が展開され、そこから離れるが水属性の基本造形ランク最高難度の{アクアエラプション}が直撃する。こいつはいてはだめ、絶対にここで倒さなければならない。これ以上の悲しみを増やさない為に私がここで...
姿だけでは私と同じ力を使えるはずもないし経験そのものがないのならば意味がない。私は何年も修業を積んだ剣の使い手や槍の使い手に勝てる訳がなかった。でもこの槍と私が今まで磨いてきた水と聖そして個能{幻}に簡単に勝てると思わないで欲しい。
「そんな楽に取り込めると思うのなら大間違いです。あなたのような魔族の相手は私1人で十分なのです」
「ハハハハハハ、面白い良いでしょう!あなたはただ取り込むだけはなくそれ以上の絶望を与えるとしましょう!」
ごめんね、みんなやっぱり私には三魔将軍を1人で倒せるほどの力はやっぱりなかったみたい。展開していた霧も晴れ、魔力が完全に枯渇し抵抗する力を失った私は魔力の鎖で拘束され吊るされていた。
「こ、こんなに強いなんて...」
「そうでしょう思いもしませんよね。得体の知れない魔族がまさか魔王ラ・ザイールの次に強い存在であることに」
「そんなことがあるわ、くぅぅぅ...」
「あるんだよ俺はあいつには一度も勝つことが出来なかった魔族。その為にお前らから力をもらい少しでも奴に近づく必要があった。お前らがザイールを封印したそのおかげで俺がこの力を奴に試す機会を失ってしまった。その為にもう一度暗黒の時代を再興し、ザイールが世界の頂点にすることでこの心の渇きを満たすことが出来るのだ。貴様らのような雑魚では渇きを満たすことなど不可能なのだよ!」
気色が悪い液体がゆっくりと垂らされそれが少しずつ膨張し身体を包んでいく。こうやって奴は生き物を取り込み成長していくのだろう。私もここまでのようね、先立ったキール、フィーザー、ウヌベクスの元に一足先に向かうようね。
ヒュリル、あなたは私に似てとても綺麗な人にきっと育つでしょうね。ネモリア、ウェルン、あなた達を見て昔の自分を思い出したわ、思いは絶対に伝えるのよ後悔しないように。アンクル、ノレージ様、死ぬ前にもう一度あなた達の顔が見たかったです。フィオ、もしこの場にいるのなら私の代わりにこいつを倒してちょうだい。ねぇゴレリアス、いったいあなたはどこにいるの?どこかで平和に暮らしているのならそれでいいわ。でもやっぱりこの気持ちだけは伝えたかったわ...
「ねぇ起・な・・!ま・終・・てな・・よ!」
聞こえるはずのない耳障りな声がする。私は地獄に落ちてしまったのだろうか?まさか死んだ後もあの声を聞くことになるなんて思いもしな、
「いつまで寝てるのよヒレ女さっさと起きなさい!」
あれ、もしかして私生きてる?あれだけ死ぬ前みたいな走馬灯が流れたって言うのに。まさか私あいつに助けられたって言うの。王族とは思えない下品なあの女に?
「これだから日の光も浴びないフィンシーじゃこの戦いついてこれないわよね」
「そういうあなたみたいな獣が人の皮を被ったような高貴さの欠片もない、あなたが私と同じ王族なんて思いたくないわ」
「なんですって!」
「その通りでしょ!」
そこまで言って私達は吹き出して笑ってしまった。ここまで本音で話せる相手も世界中どこを探してもフィオルンを除いていないだろう。気が抜けたおかげか枯渇していた魔力が復活していることに気づいた。
「血飢姫と癒女帝、まさかこの場に揃うとはこれはいい機会ですどちらも取り込んであげましょ、」
「ねぇそっちの子元気?」
「ええすごく元気でそっちの子に年齢追いついたわよ」
「三魔将軍で最も実力が高い私を無視するとはいい度胸で、」
「「うるさい!」」
奴の顔は笑顔だったが顔がひきつり怒りが最高点まで達しているのを物語っていた。その顔を見てもう一笑いをして、私達はそれぞれ英具を構え戦いの構えをとり奴に向けて飛び出していった。




