#123 光刺す戦場
術式が無くなりその瞬間に竜騎兵は距離を詰めてきた。左腕が動かず盾を使えないので剣と体捌きで応戦する。元々かなり厳しい戦闘だったので段々と傷を負っていく。
これまで武器術の腕を磨きながら独自に盾を使った動きを取り込んだ。他にもベルゴフさんやネモリアさんの動きを取り入れ、本来の竜剣が辿ってきた歴史とは違うものになった。その結果武器術を構成しているうちの一つでも欠けてしまうとかなりのパワーダウンが起きてしまう。
「どうしたもう終わりか?」
「ずっと肌寒いと思ってたからようやく身体が温まって丁度いいさ」
「はっ見え透いた嘘を、さっきまでとまるで動きもノロくて肩で息をしているぞ」
「くっ...」
「ここまで渡り合った奴は三魔将軍様とお前の仲間の拳術士以外で初めてだからな。殺すには惜しいんだがな」
こいつは実質魔王軍上から四番目の実力者なのか。かなりの上位の方に位置するとは思ってはいたがまさかそんなに強いとは。なら尚更ここから先に行かせるわけにはいかないなどうにかして時間を稼がなければ。
「どうしてこの国を侵攻しているんだ?」
「時間稼ぎか?まぁいいだろうどうせここで殺される運命だ教えてやる。この国のどこかに存在する魔王様が封印を解く方法を記した記録帳を奪いに来た」
「記録帳?」
「そう、以前この国の大臣だった者の部屋の書物から記録帳があるという事実を知った。別に独自に動いていた夢幻のドリューション様がアルドリアの乗っ取りを始めた。それに合わせて侵攻を始めたのだ」
そういえば前魔王軍と戦った際に内部の人達が裏切ったんだったな。そこで魔王軍に付け入る隙を与えてしまったりしたのだろうな。
「我々の元にその知らせが来た頃、既にこの大陸のエクスキューションとアルドリア軍の四割程をドリューション様が寄生していた。どちらにせよ時既に遅かったのだろうな」
待てよ、あの戦いが終わった後にエクスキューションに襲ってきたのも関係しているのか?あの時点で夢幻のドリューションに寄生されていたなら納得がいく。
あの時はアルドリアに駐在していたエクスキューションのみだったから抑えられた。現在の敵軍は三闘士である剛力のドーガ、さらに大陸全てのエクスキューションとアルドリア軍の半分以上に加え魔王軍もいる。いかに精鋭ぞろいのヒルドリア軍に加えて自分達だけで抑えきれるのだろうか?
「ここまでの情報を知っても誰にも伝えることなくやられてしまうなんて悲しいものだな」
「まだ戦いは終わってないのになんで勝ち誇ってるんだ?」
「今の状態で戦っても勝ち目はないと判断して時間稼ぎをしたのだろうが助けは来ないようだぞ」
「過去に一度だけ本当にどうしようもない程の実力差がついた敵と戦った時に聞いた言葉をそのまま言わせてもらう・・・もう少し知識を入れたほうが身の為になるぞ」
その発言を聞いてようやく自分の真上に集まる武器の塊に気づいて距離を取る。奴がいた場所から武器がどんどんと地面に突き刺さっていく。術式が展開され魔剣が射出されるが途中で動きを止めて竜騎兵の方に向き直り襲い掛かり始めた。
「なんだと!?くっ...」
竜騎兵は翼を広げ回避しようとするが右翼に直撃し翼が捥がれそのまま地に落ちてきた。奴の背から血が滴るのを見て流石に敵ながら同情してしまった。
「坊ちゃん危なかったな。しかしよく気づいたな俺が近くに来てるって」
「自分が持ってる武器が持ってかれそうになったんですよ。もしかしたら近くにいるのかもって思って時間稼ぎをしたんですよ」
「俺だけじゃないぞ今頃あちこちで暴れてくれてるだろうよ!」
「いったい誰を連れてきたんですか?」
「うん?世界の誰もが知ってる最強の男達をな!」
「サーチャー!そちらの状況は?」
「数が多すぎて押されてます。このままだとヒルドリア軍は全滅です!」
「そんなの分かっていますよ!」
死人となったアルドリア兵とヒルドリア兵そして魔族が次々と襲い掛かってくる。精鋭揃いで来たヒルドリア軍といえど圧倒的に敵の数が多すぎる。
死人を倒すには練度が高い聖術によって完全に浄化するか、元の形を一切残さず跡形もなく潰す必要がある。術士団には聖術を扱えるものが多数存在するが今回連れてきた聖術士達は皆死人となってしまった。
そしてヒルドリア軍の主要武器は槍使いが主の為、槌のような叩き潰すことが可能な武器の使い手が少ない。私の個能{重力操作}で跡形もなく潰すことは可能だが元々生きていたと考えると中々実行しづらいものだ。
「団長危ない!」
「っ!?サーチャー!」
どこからか飛んできた投石が私に当たりかけたところにサーチャーが割って入って頭に直撃して気絶してしまう。辺りのヒルドリア兵も続々と倒され死人となっている。私自身ももう{重力操作}と風術を使い過ぎて魔力も切れかけている。ミュリル様、キール様、ヒュリル様、私達はここまでの様です、お力になれず申し訳ありません。死人が跳びかかってくるが目を閉じ部下達と同じ所に行く覚悟をする。
あれ、どうして私は痛みを一切感じていないのだろうか?恐る恐る目を開けると私とサーチャーを囲むように光り輝く盾が存在し死人の攻撃を防いでいた。
「よく耐えましたね。もう私達が来たからにはこの場を覆してみせますよ」
そこには刺繍が施されたマントを羽織った黒鎧がいた。入ってから僅かの間で最高幹部の地位を得た若き天才、エクスキューション三闘士ゼク・ハウゼントがそこにいた。手を翳すとまた新たな盾が出現し死人や魔族を次々と盾で潰していく。
「あなたは優秀な方ですが戦場には立つには少し優しすぎました。どうしようもなくてもそれでも救おうとする姿は人として当たり前ですからね」
「どうしてこの場所にエクスキューションが?」
「マスターからアルドリアに向かえと直々に言われてどうしたものかと思えばまさか魔族絡みだったとは思いもしなかったからね」
「そうです!ここよりも女王様方を助けに...」
そこまで言うと手で制され辺りに群がる死人を聖術と盾で倒していく。いつの間にか辺りはエクスキューションの団員がいて、続々と死人や魔族が倒され戦況が押し返している。
「この場は私達が引き受けます。団長殿はゆっくりと休んでいてください。そして安心してくださいこの戦場には我らがマスターもいらっしゃいますから」
「ますたー?あ、あのジャッジマスターガッシュ・バグラスがこの場所に来ているのですか!?」
エクスキューションを取り締きる通称ジャッジマスターガッシュ・バグラス。各国の王と強い繋がりを持ちエクスキューション開設からここまで世界の秩序を守り続けてきた。冒険者としての実力は数少ない最高ランクの紫色と証明されている。その強さは国一つ分とされる世界最強の戦士がこの戦場にいる。これで魔王軍が勝つのか我々が勝つのか分からなくなったのではないだろうか。




