#122 魔の衝突
キュミーとフォルちゃんが素晴らしい連携で攻撃を放っていく。竜騎兵は身を翻しながら魔剣を振るい攻撃を弾きながら2人の連携の合間に大量の魔剣を創造し距離を離させる。
そんな術式を展開した竜騎兵にネモリアさんの鳥弓術{雨鳥}が降り注いでいく。翼に魔力を纏わせ真空刃を起こして矢ごと薙ぎ払う。そのままネモリアさんは地上に打ち落とされてしまう。ベルゴフさんや三魔将軍のような圧倒的な差がある強さではない。だが刃を交えて分かる、奴ははっきりとした格上の強さを持っている竜騎兵。
「中々な連携力なのは認めるがそれだけか?力無きもの同士がかかってこようとも倒されるわけがない。普段ならば実力差がある相手にとどめを刺すことに躊躇いがな...今日は別だ、邪魔をするようならば容赦はしない。魔王様の為だ、女、子供、弱者関係はなく等しく敵として扱おう」
「そんな、みんなゴレリアス様から伝えられた武器術の使い手{竜の子供}なんだよ!?弱いわけが...」
「ウェルンみんなの治療を頼んでいいか?あいつは今無駄な殺生はしたくないからこれ以上戦うなって言っているんだ」
「えっ...そういうことなの?」
「今あいつに対抗できるのは多分自分だけだと思うんだ。それとこの先で戦っているミュリル様達の消耗度を考えるとあまりここに人数を割くわけにはいかないと思う」
これだけ強い竜騎兵がここにいるという事はこの先の巨人はベルゴフさんでその相手は三魔将軍で確定だろう。作戦開始からかなりの時間が経過し自分の様に急に力が湧いて魔力や体力が全回復することは普通はない。
戦況の方も自分達ヒルドリア軍がかなり押されているようにも見える。今ここで自分達が集中してこいつの相手をするのではなく自分1人で相手をする。それぞれの能力が活かせる場所に行くべきだ。
ここでこいつを倒す必要もない。今の自分は通常時の魔の力だけではなく勇者の力も使える。だがこいつを倒せる程ではない気がする。先程も竜剣を使う時に少し混ぜて使ってみた。使用した分の勇者の力は回復する気配がないので限りがあるのだろう。
「エルドリアの時よりは楽しませてくれよ」
「楽しませるだけなら誰でも出来るんじゃないですか?」
「いやそんなことはない。相手がルールを知らないとゲームも楽しめないだろう?」
剣術士同士が剣を交えてもある程度の実力がないと修練にならないからなそれと同じだろう。あの兜の下にあるのは自分とウェルンが良く見知った顔をしているはずなんだ。
「個人的に聞きたいこともあるから自分が相手になろう」
「お前だけは前に会った時と比べて格段に魔力量が上がってるからな。それだけじゃなくて見た目そのものも変わってる。だがそれ以上に今のお前からは何か違うものも感じる」
自分は先程の様に連続で武器術を振るう為に魔力を剣に纏わせ常に竜剣を放てるようにしておく。今この状態は正直きついがこうでもしないと竜騎兵を止めることは出来ない。魔の力も覚醒し勇者のオーラが解放されている。今なら参と肆の剣を合わせた{ライズドラゴン}みたいなオリジナルの武器術も更に作れるだろう。自分も楽しませてもらいたいところだが三魔将軍に近い実力を持つ竜騎兵に対してそんな余裕があるわけがない。
「行くぞ!」
相手よりも先に行動して剣を振るう。どれだけ通じるのか分からないがそれでも剣を振るう。相手の魔剣と自分の魔術剣がぶつかり合う。実はこの魔術剣、前に竜騎兵と戦った時には刃こぼれが生じていた。それは自分の魔力の質が低く刃が脆かったためだが今の状態だとそんな感覚もない。
「魔力量と剣の腕は同等といったところか腕を上げたなデビア」
「それはどうもありがとう。今更だけど自己紹介させてくれソールだ」
「ソールか、何故だかは分からないが懐かしいものだ」
「そういうお前の名前はなんて言うんだ?」
「私はサピダム様によって作られた完全な竜騎兵だ。名前などない」
なら何故記憶も名前もないのに自分の名前を懐かしんだんだ。元々の身体に新しい人格そのものが芽生えている形だからコルロの顔をしているのか?
そんなことを考えていたら自分の真横に術式が展開され魔剣が飛び出してきたので盾でいなす。剣の腕と魔力量に関しては同じぐらいの実力かも知れない。だが奴のこの魔能が一番厄介かもしれない。今の様に突然攻撃が来るとなれば注意すべきところがかなり増えてしまう。そこまで頻繁に使用してこないことから何かの条件があるとも予想できる。
「それだけの力を持っているならやっぱり魔王軍に来て一緒に世界を蹂躙しないか?」
「そんなことをするわけには行かない。仮にも勇者と呼ばれる人が魔王軍に入るわけがないだろう!」
「どうしてこの世界に生きる者達はそういった責任や縛りに捕らわれているのか・・・残念だ」
空に飛びあがった竜騎兵は剣を自分に向けて構える。自分の周りに大量の術式が展開され囲まれてしまう。その内の一つから魔剣が飛び出して来たので剣を振るい霧散させる。
「中々な反応だがこれからが本番だ。せいぜいいい踊りを見せてくれ」
どの術式から魔剣が出てくるのか全く分からない。先程のような速度で出てくると考えると全く気が抜けない。
「ここで一ついいことを教えてやろう。このあとその周りの術式から複数の剣が飛び出してくるぞ」
その言葉通りのことが起き、それからは剣が飛び出す間隔が短くなっていった。本数も増えてきて自分も傷を負い始めてきた。なんとかその場をしのぎ切り術式も無くなるが何かが突き刺さる。
刃先が自分の左肩を貫通しているのを確認する。最後の最後で油断してしまい完全に左肩をやられてしまい盾を構えていた左腕が下がる。
「惜しかったな最後の最後に攻撃を喰らったな。だが{剣乱踊}を生き残れるとは思ってなかったぞ」
「そりゃどうもあれよりも厳しいしごきに耐えたからね」
ベルゴフさんの手数に比べれば規則性のある攻撃なのでまだ対処は出来る。だが盾を構えられないと竜剣を振るう際に身体のバランスが取れない。非常に不味い、このままこいつと戦えるだろうか。




