#120 思いは曲げられない
中庭に戻る道すがら出現する魔物や魔獣を引き続き倒しながら進んでいく。これだけ戦える人がいるなら容易に脱出出来るだろう。ここでふと疑問に思ったことを聞いた。
「これだけ力があるならどうして牢獄エリアにいたんですか?」
「私達だけじゃドー...いや夢幻のドリューションとその他大勢相手するのは無理と判断したのよ。今表で戦ってるミュリルも驚いてるんじゃない?」
「えっ!?夢幻のドリューションてまさか...」
「そう。三魔将軍、夢幻のドリューションがこの国にいるのよ」
『この戦場にはもっとめんどくさいのがおるからな』中庭でサピダムに言われた言葉がよぎる。
「サピダムが言っていたのはこういう事だったのか」
「えっソール、サピダムにも遭遇してるの!?」
「強大な魔力を三つ感じていたけど、今この国に三魔将軍が集結しているってことなのか?」
「そうなんですか!?てっきりミュリル様とキール様の力なのかと」
「ええこれは不味いわね...ねぇソール、このまま私達の安全を優先して脱出だったわよね」
「はい、自分達は人質となって囚われているフィオルン様とフォルちゃんを助けることが第一優先目標です」
そこまで言って自分の中で何か引っかかるものを感じた。本当にこのまま2人を連れて脱出するだけでいいのか?三魔将軍が3人もいる、表の方で今も戦ってるヒルドリア軍とベルゴフさんのことを置いて戦場を離れられる訳がない。中庭に着いたところで先頭を走っていた自分の脚が止まって表の方に視線を送る。
「勇者ゴレリアスならどうしてました?」
「そうね、彼なら絶対に助けに行くでしょうね。でも勇者ならっていう生半可な覚悟で行かない方がいいわ。この戦場は大事な物が簡単に失われていくところよ」
町のあちこちから上がる黒煙、両軍が戦う金属音と叫び声、巨人同士の殴り合い。もし表の方で戦っているベルゴフさん達の助けに行く、ならばあの場所に行くということだ。だが悩む必要はないだろう自分がどうしたいかをただ実行するだけだ。
「手を差し伸べられるのに何も出来ないのはもう嫌だ。ごめんみんな作戦を変更しても大丈夫かな」
「うん大丈夫だよ!私お兄ちゃんについていくよ!」
「ソールさん何をいまさら言ってるんですか?ここで逃げるようならあの世の父上に顔向けが出来ないですよ」
「2人共...」
「ソール・・・」
即答する2人と違って瞳に涙を浮かばせたウェルンが近づいてきて抱きつかれた。自分は自然と抱き返して胸元で受け止める。
「私も、もちろん一緒に行くよ。でもちょっとだけ怖いの!あの時と同じようなことが起きて誰かが死んじゃうんじゃないかって!だから少しでいいからソールの勇気を分けてもらっていい?」
ウェルンが言うあの時のことが自分にも今でも鮮明に思い出せる。自分達を守るために命を懸けて守ってくれたコルロの姿が。
「みんな意志は同じようだから先に行ってるわね。フォル貴方だけでも脱出してもいいのよ」
「お父さんやゴルドレスおじさん、お母さんも戦いに行くのに私だけ留守番してると思ってる?」
「そうね、貴方もそういう子よね。ソール、ウェルン、そういうことだから2人共落ち着いたら追いついてくるのよ」
「ソールさん、私もキュミーと先に行ってますね」
そう言って中庭には自分とウェルンが残された。静かな空間で抱き合ってるのを今になって恥ずかしくなってきた。少し距離をとり顔を背けて顔が赤く染まる。
「ねぇソール」
「ど、どうした?」
「も、もしも何だけど、あの時勇者の力が発動していなかったらどうしてた?」
「・・・何があってもウェルンのことを逃がすために剣を振るっていたよ。その結果で相打ちになったとしてもウェルンだけは絶対に助けてた」
柄にもないこと言った。勇者の紋章のおかげで不自由がないはずの身体が熱いような気がする。噴水に移る水面には恥ずかしさから赤く染まる自分の顔が映し出されていた。
「そうなんだ、私は杖を持ってなくて戦えなかったけどきっと同じことをしていたよ。私だけ残されるのはとても嫌だからね」
「うん、だから」
「「絶対に生きて旅を続ける!」」
顔を合わせて同じ言葉が飛び出した。互いに真面目な顔でそんなことを言うものだからつい笑ってしまった。誰もいない中庭に2人の笑い声がこだまする。笑うのをやめて剣と盾を装備して翼を広げてウェルンに左手を差し出す。
「行こう」
「うん!」
手をつないだ瞬間フィオルン様達が向かった方へと飛翔する。不思議と力が湧いてくるような気がするこの感じは...
「なんかソールいつもより魔力が多くない?」
「今ならベルゴフさんにも勝てるかもね」
デビアとして覚醒した魔の力、それに加えて{勇者のオーラ}も発動しているようだ。相変わらずどうしたら自在に発動できるのかは分からない個能だ。些細な事を気にしている暇ではない、これだけの力がある今なら最悪の結末が決められていたとしても覆すことが出来る。
「あそこで戦ってる巨人みたいなのってもしかしてベルゴフさんじゃない?」
「えっ?」
そう言われて見て見れば片方の巨人がベルゴフさんに似ているような気がした。両者の拳や脚が振るわれる度にここまで衝撃波が伝わるほどだ。
「・・・前言撤回しても大丈夫かな?」
「あとでベルゴフさんに言っておくね!」
この戦場を生きて帰ってもどのみち地獄が待っていることが確定したようだ。あそこまで膨大な魔力、いや闘気は一体どこにあったのだろうか。そして相手の巨人はおそらく三魔将軍凶猛のフュペーガ。その戦うさまを眺め自分もいつかあの領域に辿り着けると信じて戦場へと突入していく。




