#12 逢魔の時
魔術師に剣を振るうが杖でいなされたり躱され全く相手にされていないことが分かる。剣に魔力を纏わせてさらに攻撃を繰り返すが同じだった。
「ほぉ中々な剣術の使い手のようじゃなそれほど出来たら迷宮の魔物どもでは役者不足だったかの」
「{バーティカルライト}!!」
「おっとぉ?おおそして後方から聖術による追加攻撃とは息ぴったりなのはいいことじゃが、それほどならまだ生温いのぉ」
「くっ!なんでこんなに攻撃が当たらないんだ!」
「ほれほれ喋ってる余裕はあるかな?{ダークバレット}」
距離をとられて魔術が飛んでくるがなんとか弾いて多少の被弾で済ませた。今のは攻撃系の術しかもバレットだって!?ランク5の基本造形術じゃないか!?基本造形術はランク7まであるのだか目の前の魔術師はランク5を使用してきた。しかも全弾まとめてコントロールをつけてこちらに飛ばしてきた修練の差は明確だがそれでも倒したい。いやこいつはここで倒すんだ!そうでなければこれ以上罪のない人々の犠牲が後を絶たないだろう。この魔術師を止められるのは今この場にいる自分達しかいない。
「ソール少し無理をするね、じゃないとこっちがやられちゃいそうだし」
「ああそうだなもうこいつは自分らと同じではないな、魔族だな」
「ほぉこのわしに対して楽して勝とうとしていたのか、いや覚悟を決めたのじゃな」
「{バーティカルライト}!!!!!!」
先程とは比べ物にならないぐらいの魔力を込めた聖術が複数生成され、その形はだんだんと剣の形へと変化し魔術師目掛けて大量に飛んでいく。基本造形を応用させて形あるものに変えて威力向上をさせたのか!流石に避けるのは無理だと判断して魔術師は魔力で術壁を貼り全てを弾いた。
自分はその隙を見逃さずに懐へと入り先程より鋭く剣を振るった。魔術師はもう片方の手で術壁を展開させ自分の剣を抑え距離をとった。その顔には先程までの余裕はなく若干苛立ちに満ちた顔となっていた。
「ほっほっほっ中々やるではないか少々甘く見とったわい」
「あなたは何者ですか?なぜ魔族達に力を貸しているのですか?」
「まぁそれぐらいは話してやるかのぉ、儂は魔王ラ・ザイール様の忠実なる下僕であり三魔将軍叡智のサピダムというものじゃよ」
「魔王だって?それって・・・」
「とうの昔に亡びたと言いたいのじゃろう?それは違う完全に滅びたわけではなかった!わしは魔王様がまた力を蓄え覚醒するときを待っておったのじゃ!」
「要はあの時に勇者様が倒しきれなかった残党ってわけなの?」
「ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁっふぁっ!!真実は愚かなものだ今教えてやろうゴレリアスは完全に魔王様を倒したわけではない!」
その言葉は誰が聞いても驚いてしまうであろう。最悪の限りを尽くし、この世の終わりが来るしかなかったという、あの暗黒時代を作り出した張本人がまだ生きているだって・・・自分達だけでもこれだけ動揺を隠せないのだ。もし各国に伝わってしまったらどうなるだろう考えたくもなかった。
「ほっほっほっほっ!!そんなスキを見せてくれたおかげでわしはここから退散が出来てしまうぞ?」
「ま、待て!」
「そんなことを心配している場合かな?今描いた術式は転移ではなく転送先のものと入れ替わるものじゃよ!それじゃあ楽しむがよい、まぁ最も死んでしまうかもしれないがの!」
奴が消え代わりにそこには蛇のような巨大な魔物が現れた。こいつまさか地を這う竜、蛇竜種ではないのか?目の前の怪物は父親が書き記した竜の生態を綴った本に書いてあった特徴と一致していた。蛇竜はいきなりこちらに向けて鱗を飛ばしてきた。自分らは咄嗟に回避したがあちこちに刺さった鱗からさらもトゲが飛び出し爆発して炸裂弾のように針が飛んできた。あの鱗が刺さったものならそれだけでも多大な傷を負うだろう。
「{バーティカルライト}!!」
ウェルンが攻撃術を放ち見事命中するも当たった場所の傷は直ぐに回復した。こいつ自己回復能力まであるのか...これは骨が折れそうな相手だ。
「流石にやばくないか?蛇竜ってランク何相当?」
「若い竜種だったら黄ランク相当のはずだけどこの竜は・・・」
間違いなく若くはないだろうこの大きさは相当長生きしている竜だと推測される。きっと自分らのような白ランクが相手する魔物ではないだろう。
「でもこいつを外に出すわけには行かない」
「そ、そうだけど私たちじゃ・・・」
「やばいあれは!危ない!!」
ブレスを吐いてきたのでウェルンを抱きかかえて急いで横っ飛びをして躱す。ブレスの色からこの蛇竜の名前がハッキリした!こいつは火の術を扱う蛇竜フレイペント、となると有効なのは水なのだが自分とウェルンはどちらも水の術適性がなく扱えない。フレイペントは水術を使えないと倒すことがとても困難なのだが完全に勝算がないとは言いきれなかった。
それは自分の使う剣術は対竜種への特攻剣術でもある{竜剣}なのだが自分はまだその内の{壱の剣}しか扱えない。壱の剣はそもそもここまで巨大な敵に対して使うことを想定していない為おそらく効果が薄いはずだ。今ここで新たなイメージと共に竜剣術を完成させなければならないのだ。
「その顔だと何か策があるみたいねソール、私が少しでも時間を稼いでくるね」
「っ!?ダメだ!そんなことをしたら...」
「私がやられちゃう?それでも今はそれしか方法がないんでしょ?あと私ね・・・ソールのことを信じてるから」
「えっ、待ってウェルン!!」
最後何か言ってたような気がする聞き取ることが出来なかった。ウェルンがもう行ってしまった以上早く考えなければ...またあの悲しい想いをするのだから。




