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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
偽りの執行者

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119/246

#119 経験の値


「お兄ちゃん大丈夫?」

「うん大丈夫、悪いのは自分だから...」

「ソール着替え終わるまでこっち向いちゃ駄目だよ!」「絶対に向いたら駄目ですよ!」


 自分は牢の方に背を向けて階段の方を見張り敵が巡回してこないかを確認する。とはいえここまで敵を倒しながら来たので前方から誰かが来るわけがなかった。後ろから着替えの音が聞こえるので正直に言ってしまえばドキドキが止まらなかった。

 今後ろでフィオルン様とフォルちゃんが着替えているはず、というかフォルちゃんだよな?さっき見た感じだとキュミーと変わりないぐらいの女の子が一緒にいた。それは確認しているのだが最後に会った時は確か六歳と言っていたような気がする。仮にフォルちゃんだとしたら見ぬ間に成長しすぎでは?


「もう大丈夫よ、待たせたわねソール」


 とか色々と考えていると声をかけられたんので後ろを向く。狩り人スタイルのフィオルン様とフォルちゃんの面影がある少女がいた。その背にはゴルドレスさんが使っていた物と同じような長さの剣を2本担いでいた。


「フォルちゃん?」

「そうだよ!キュミーちゃん会いたかったよ!」

「やっぱりフォルちゃんなんだね!ヒュード以外の種族ってこんな急に成長するんだっけ?」

「多分それはないと思う。成長は種族それぞれとも言うけど早くても身体が成熟するのは十五ぐらいのはずだし、速度に関しては私達が成長するのと一緒のはずなんだけど...」

「キュミーは成長というよりかはもとの姿に戻ったと言った方が正しいからなぁ」


 フォルちゃんに関しては髪飾りの力で若返っていたキュミーと違うはずだ。見たところそれらしきアクセサリーを着けているようには見えない。


「そうね、まずその話をしないといけないわね。確かにあの子は私の子供、アルドリア・フォル・ビースで間違いないわ」

「ならどうやってこの短期間で成長をしたんですか?」

「私達アルドリア王家は代々時間に関係する魔能を持って生まれてくるのは知ってる?」

「はい確かフィオルン様が{予知}の上位にあたる{未来予知}ですよね?」

「そうね、正確に言うとそれも実は違ったのだけど今はいいわ。この子の魔能は{経験吸収}て言うのよ」

「{経験吸収}?一体どういった能力何ですか?」

「多分見てもらった方が分かりやすいかもねフォル!」

「はーい!行くよーはぁぁぁぁ!!」


 背から長剣を抜いてその2本を合体させて大剣へと変化し魔力が込められていく。その魔力を込める姿に自分はゴルドレスさんと似ていることに気づいた。ウェルンもネモリアさんも同様に気づいておりそのまま自分達が知る武器術を放った。


「獣剣術、弐の剣、{獣嵐(ハリケーン)}!!」

「これはゴルドレスさんと同じ武器術!?」

「フォルの魔能{経験吸収}は対象者の経験を全て吸収し、無力化すると共にその力を自身とモノにする魔能。能力を使った反動で約10年分身体も成長したというわけなのよ」


 相手の経験を全て奪い取る能力...なんて恐ろしい魔能なんだ。自分も二十年という長い時を経て竜剣術を会得し、伍の剣まで使えるようになった。

 {経験吸収}はその長い年月を一瞬で奪い取ることが可能なのだろう。一度しか使えないにしてもなんて強力、ゴレリアスが持つ{勇者のオーラ}すらも圧倒する最強の魔能かもしれない。


「じゃあゴレリアスの力を入れられたらフォルちゃんが勇者になってたかもしれないってことなの!?」

「それもそうはいかないのよ。私からしたらお爺さんにあたる先々代のアルドリア第三代国王にも同じ魔能が備わってたのね。でも吸収した相手の経験が膨大過ぎて一気に年老いてそのまま死んでしまったらしいのよね」


 竜の子供の中で最もゴレリアスに近い剣術を習得したゴルドレスさん。そのような実力者で十年も歳をとる、つまりそれ以降の実力者に関しては年の取り方の桁が変わるのだろう。

 フィオルン様から話を聞いていくと第三代国王は発動した歳も五十過ぎだった。身体が吸収に対して追いつかなかったともその後の研究で判明しているらしい。

 成長期前に発動することによってその反動を少なくすることが可能で、本来なら約五十年分の経験武器術の経験とゴルドレスさんそもそもの実力。それを十年、約五分の一まで減らすことに成功しアルドリア騎士団長最強の力がアルドリア王家へと継承したらしい。


「でもどうしてそもそもゴルドレスさんの能力を吸収する事態になってしまったんですか?」

「そうね、その話もしたいのだけどそろそろ表に戻ったほうがいいわね...お出迎えよ」


 話を聞くのに夢中になっていて気づかなかったが階段前にアルドリア兵とヒルドリア兵がいた。その目には生気はなくあちこち傷だらけで立ち塞がっていた。これだけの死体があるということは表では自分が想像もしないほどの戦いが行われているのだろう。


「お兄ちゃん私もう大丈夫だよ行けるよ!」

「キュミーちゃん私も一緒に戦うよ!」

「2人とも少しはしゃぎすぎですよ。王族として華麗に戦いましょう」

「ベルゴフさんも心配だから早く合流しよう!」

「そうだねミュリル様達に合流するよ!」

「あらベルゴフだけじゃなくてミュリルもこの戦場にいるのね。なら増々早くこの場を斬り抜けないといけないわね」


 全員が各々武器を構え戦闘態勢を取り群れへと突っ込んでいき蹴散らしていく。その中には数日前に会話を交わした見知ったヒルドリア兵も何人かいた。情をかけることなく再度命を奪っていく。あっという間に死体の山が築かれ道が開かれ自分達はアルドリア城内に戻っていく。

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