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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
偽りの執行者

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118/246

#118 躱せない一撃

 外の騒がしさが増し戦場の熱が上がっていることを静かな城内で感じ取る。いつどこから敵が出てくるかは分からない、細心の注意を払って目的地である牢獄エリアへと進んでいく。誰かが歩いてくる音が聞こえてきたので自分は耳を澄ませて相手が来るのをひたすらに待つ。






 ・・・あれ来ないな?恐る恐る覗き込むと目の前に腐って崩れた顔が出てくる。つい反射的に剣を抜いて首を断ち切ると動力を無くした身体が力なく倒れこむ。


「行動そのものが人に似ていると言っても本質的には屍だから違うのか」


 生者相手ならば今の待ち方で良かっただろう。たまたまよく分からない行動をする相手に出会ったのかもしれないというか相手のことが分かるわけがない。心を読める相手に出会った時どうなってしまうのだろうか?

 この世界には魔能がごまんと存在している。そういう能力を持った相手が味方になりうるかもしれないし、敵となって自分達の前に立ちふさがるかもしれない。

 庭で相手したゴルドレスさんも本来なら良くて五分の戦いを強いられていただろうし、そこに合わせてアルドリア王もいたのだ勝てるはずがない。素の実力よりも1つの魔能や魔力によって戦況が左右されてしまうと言っても過言ではない。色々と考え事をしていると牢獄エリアの近くまでやってきて戦う音が聞こえてきた。


「お姉ちゃん達今だよ!」

「ウェン合わせて!」

「うん任せて!せーのっ!」


 牢獄エリア前の階段で先に行った3人組が多数のアルドリア兵と戦っていた。キュミーが兵士達の脚を削ぎ落として態勢が崩れた。ウェルンとネモリアさんがそれぞれ剣に模した聖術の雨と鳥弓術{雨鳥(スコール)}で核を的確に貫き倒していく。


「ふぅなんとかなりましたね」

「うん、あ!お兄ちゃん!」

「手は貸さなくても大丈夫そうだな。ほんとみんな強いなー」

「ソール!ねぇゴルドレスさん達はどうしたの!?」


 別れた後のことを事細かく伝えた。自分があの2人と戦い死人だった為に難なく勝ったこと。この国に三魔将軍叡智のサピダムが来ていることを伝えた。


「そうですかやっぱり一度死んでしまった肉体には魔力が残ってないんですね。一人一人の対処は難しくないんですけど流石に相手が多くなると...」

「私とネモは多数を相手にするのは苦手だからキュミーがいなかったらどうなってたか...」

「もう疲れたーお兄ちゃん代わりに相手してよー」


 キュミーが自分に向かって倒れこんでくるので受け止める。常に魔力を込めながら戦うのは誰だってきついものだ。少し前の自分なら同じように武器術を展開していたなら魔力切れを起こしていただろうが今はそんなこともない。

 元々武器に魔力を込める効率に関しての才能は父親から太鼓判を押されていたが、そもそも魔力量が多くなかったから苦手だと思ってた。

 デビアとして覚醒してからかなり多くなり常に魔力を込めていても魔力切れを起こさなくなった。キュミーも常人より遥かに魔力保有量が多く武器術の威力もとんでもない、だが込める魔力量にムラがあるために魔力切れを起こしてしまう。まだまだこれからの成長に期待してあげないといけないな、最も身体の方はとんでもないほどに成長したもんだ。


「ソール!?」

「は、はい!な、なに?何かあった?」

「また考え事してたでしょ?しかもあまり口には出せないような事じゃないよね?」

「い、いやそんなことはないよ。キュミーも成長したなぁって思っ」

「そうですね、まぁそんなにくっついてるとキュミーは仮にも王女なんですよ。誰かに見られてたら外聞があまりよろ、」

「さぁ、あと少しでフィオルン様を助けられるよ!こんなとこで止まってないで行くよほら起きてキュミーあと一息で終わりだから頑張って!」


 話の方向性が不味くなる前にキュミーに肩を貸しながら牢獄エリアに進んでいく。キュミーが成長前と同じように接してくれているのは確かにうれしいのだが身体と精神年齢がまだ完全に合わさりきっていない。

 ウェルンやネモリアさんのように年相応の行動ではなく、まだ幼いところも残っている。もし全くの赤の他人だったならば心を奪われていてもしょうがないだろう。流石は素顔を見た者はたちまち虜にしてしまうミュリル・フィンシーの一人娘と言ったところだ。


「お兄ちゃんありがとうもう大丈夫だよ」

「そうかじゃあ一つ一つ牢を見ていこうか。どこにフィオルン様とフォルちゃんがいるか分からないし敵が潜んでいるかもしれないしね」


 手前から順番に1つ1つ牢を調べていく。前来た時に説明されたこととして前の世界大戦時は今みたいに国として整ってなかったりした。その為部族間の争いが絶えなかったので仕方なくこの場所を作ったらしい。なので収監されている人は今現在ではほぼおらずアルドリア兵も見張りについていなかった。

 元々荒っぽいビース族を抑えるために設計された牢の為、一つ一つの部屋に抑制術式が組み込まれている。どれだけの強さを持っていても中に入れられてしまえば一切の抵抗が出来ないらしい。ウェルンやネモリアさんも合流して、1つ1つ調べていきウェルンが手を制して自分の進みを止めた。


「ソール一旦止まって!」

「え?フィオルン様がいたのか?」

「そうなんですね良かっ...ソールさん絶対に前には出ないで下さい!」


 自分が少し身を乗り出して見ようとするがネモリアさんに強く止められた。いったい自分に対してどれだけ害のある牢なんだ...


「そんなにやばいのか?」

「・・・この中を覗いたら間違いなくソールの記憶を消さないといけなくなっちゃう」


 ん?


「そうですね少なくとも私たち2人は加減という言葉を知らないので記憶を消すだけじゃないかもしれませんが」


 ん、なんか違う意味での危険性が高いってことなのか?


「えーどうしたのーお姉ちゃん達ー」

「あっキュミー出たら駄目だぞっととと」


 2人が止めている中キュミーが前に出たのでそれを制そうとして手を伸ばした。躓いてしまって牢の前に出てしまい中を見てしまった。そこにフィオルン様とフォルちゃんらしき子が確かにいた、どうして覗いてはいけないのかをそこで理解してしまった。こういった牢から出れない状況でどうやってお風呂とかに入らずに衛生状態を保つのか、それは服を脱ぎ桶にお湯を貯めて湯浴みをするし...


「ソールのばかぁぁぁ!!」

「ちょ、ま、ふぐぅぅぅ!!」


 ウェルン愛用の杖が普段とは比べ物にならないぐらいの速度、その一撃は自分の顔に直撃し思いっきり吹き飛ばされた。いやほんとにウェルンも強くなったよな、村にいた時にも似たようなことがあったがその時よりも遥かに威力が上がっているのだから。

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