#114 死んでも尚
アルドリア城の中庭にある水が無い噴水の底が空き四人組が出てくる。クーデター直後というのもあり、辺りは血の匂いが強く多くの兵士の死体が見えた。砂漠のどこかで鳴いたオオカミの声が聞こえてくるぐらいとても静かな場所だった。それに加えて夜中で冷えるというのもあるだろうが寒い感じがした。
「不気味ですね」
「前に来たことがあるとは思えないぐらい静かだね」
「フォルちゃん!どこにいるのー」
「キュミーあんまり大きな声出すと...」
キュミーが大きな声で呼ぶ。それに呼応するように辺りで横たわる死体が立ち上がり始めた。まさかとは思っていたけど、ここに倒れている死体が全てもう既に魔王軍の手に落ちているとは。
「気づかれてしまいましたね流石にこの量は皆で倒しましょう」
「お兄ちゃんごめんね私が叫んだから」
「いいや、しょうがないよ。心配な気持ちは自分も良く分かるからね」
「帰りに気づいかれて囲まれてたら、傷ついた女王様とフォルちゃん連れながらだと厳しかったから先に気づけたのはナイスだよ!」
「うん、私頑張るね!行くよー、{大鱗群}!!」
キュミーが颯爽と飛び出していきながら槍に魔力を込め巨大な魚に擬態した魚の群れを具現化させた。起き上がったアルドリア兵を片っ端から身体そのものごと削り落としていく。
鱗槍術、弐の槍{大鱗群}、キールさんによると一見魔力を込めて穂の部分に巨大な魚を模した刃を纏わせてているように見える。名前の通り小さな魚の群れが纏われており、ノコギリの様に細かい刃が付いているので斬るというよりかは削る行為に近い。しかも相手の魔力量が少なければ少ない程威力を発揮する、という特殊な武器術で、相手が死体となれば魔力を持っていない相手なのでこの場においては真価を発揮するのだ。
「それにしても随分と容赦ないなぁ...」
「そうですね水を得た魚とはこのことを言いますね」
「よーし私達も続くよ!ほらネモ、ソール行くよー!」
自分達も武器を構えて辺りのアルドリア兵に向かっていく。血が溜まっているところを潰すと相手が動かなくなったのを確認し次々と倒していく。表の方が明るくなりアルドリア軍とヒルドリア軍の戦いが始まったことがここまで伝わってきた。自分達もここで止まっている場合じゃない早く王宮に突入しなければ...
「あと少しで辺りの敵が終わります!このまま押し切りましょう!」
勢いそのままになぎ倒していくが自分はここであることに気づく。今相手しているのは倒されてしまったアルドリア兵達、この中にあの人達もいるはずなのだ!
「きゃあ!って...おじさん達だー何し、」
「ダメキュミー!」
攻撃の手を止めて無防備の状態になったところに大剣が振るわれた。ウェルンが横に飛びしてキュミーのことを庇い攻撃を喰らってしまう。次の一撃が放たれようとしている間に自分が割って入り攻撃を防ぐ。なんて重い攻撃なんだ...
「ソール、ウェン!今助け、」
「お姉ちゃん!後ろ!」
自分達に気を取られたネモリアさんは背後からの攻撃に気づかず背中に攻撃を受けた。翼が傷つけられてしまいそのまま空中から落下する。ベルゴフさんと同じぐらいの背の高さのビース族が2人おり、どちらも自分達が良く知る人物だったが味方ではないようだ。刃を交えながら聞こえるはずのない相手に訴えかける。
「どうしてあなた達と戦わないといけないんですか!答えてくださいゴルドレスさん!それにアルドリア王!」
衝撃波を放ちゴルドレスさんを突き放す。先程までの死体と様子が違い、肌の色も良く目に生気がある。まるで生きているように見える2人だがおそらく先程まで戦っていた奴の上位種にあたる何かだ。
死んでいるはずなのに過去に自分が稽古してもらった時となんら変わらない重さで剣を振るってきたゴルドレスさん。もう1人はビース族の中でも希少である白虎種に分類されるアルドリア王だ。
前回自分達がこの国を訪れた時は覚醒の儀の真っ最中だった。その為一切の接触が出来ず顔を見ただけで直接話すことはなかった。アルドリアで女王フィオルン・ビースに最も近しい実力者。女王自らがより強い子を残す為に夫となり、その結果歴代最高の王族を生むことに貢献した人物である。
王族になった際に名を捨て自身のことをアルドリア王と名乗った。本当の名はフィオルン様しか知らないという。
「ごめんソールちょっと回復時間かかるかも」
「ウェルンは自身の回復と翼を引き裂かれたネモリアさんの回復、キュミーみんなのこと任せたよ。自分はこの2人を何とかして食い止めてみるよ」
「そんな無茶だよ!私も戦うよ!」
宙に手を翳してシーウェーブさんがやったのと同じように、自分と目の前の2人を囲むようにして魔の壁を展開する。
「何この壁!?ねぇソールこれ解いて!私も一緒に戦わせてよ!」
「作戦開始してからかなり時間が経ってる...流石にそろそろフィオルン様とフォルちゃんが無事かどうか心配だ。自分達は2人の安全を確保して帰るのが最優先事項だ。ここで時間をかけてたら駄目だ!」
「・・・分かった。でも絶対にあとで合流するって約束してじゃないと私ここから動かないよ!」
「うん、絶対にこの2人を倒して追いつくよ。例え死人になっても追いついてみせるから」
ウェルンが自身の身体にも回復術をかけて受けた傷を塞ぐ。キュミーと協力しながら王宮の方に移動していった。さぁここからは全力でやろう。まだ自分もデビアに覚醒してからは一度も本気で戦ったことがないんだ。相手にとって不足はない、思い切り戦おうじゃないか。これで今の自分がどれくらい強くなれたのかが分かるはずだ。




