#113 二度目の大戦
「ソール君大丈夫か昨晩は眠れなかったのか?」
「はい少し緊張してしまって...」
緊張で眠れなかったというよりかは衝撃過ぎて少し考えこんでしまい眠ることが出来なかった。そんなことを言った、当の本人からは朝から『おはようございます!今日弓の調子がいいんですよね。女王様の救出一緒に頑張りましょうね!』と機嫌は直っているようだった。
「お兄ちゃん今日お休みするの?」
「いいや大丈夫だよ、頑張ってフィオルン様とフォルちゃんを助けに行こうね」
「うん!あっお姉ちゃん達あそこにいるよ!」
キュミーの後を着いていき2人の元に辿り着く。地図を広げてあれこれ話し合っているようだったので自分は辺りを見回してみる。大戦前の殺伐とした冷たい雰囲気を味わうのはこの国の為に戦った時以来人生2度目の経験だ。今回は形式的に見ればアルドリア獣国対海底王国ヒルドリアという国同士の戦い。この中に本心から戦いたいと思う人は誰一人としていないはずだ。だがどこまでが魔王軍の手の者でビース族なのかは誰にも分からないし、そもそも本当にクーデターなのかもしれない。
「ソールさん?話聞いてますか!?」
「ネモこの顔をしている時のソールはね、大概考え事してて何も聞いてないから」
「えっ?何なんか言ってた?」
「ほらね、ネモもう一度言ってあげて」
「もういいですか!作戦についてもう一度だけ話しますからね!」
「は、はい!」
考え事をしていると周りの音が一切入らなくなるのは本当に悪い癖だな。今回はネモリアさんがフィオルン様とフォルちゃんを助けるために策を練ってくれたようだ。
まずアルドリア城の南西にあるオアシスからアルドリア城の隠し通路に侵入し、城内へと潜り込み監視の目を搔い潜る。2人が捕らえられているアルドリア城地下の牢獄エリアまで侵入し、2人のことを見つけ出す。その後隠し通路まで戻りもう一度オアシスまで引き返せれば作戦は成功だ。
表ではアルドリア軍対ヒルドリア軍の戦いが行われる。その中でミュリル様とキール様とベルゴフさんの3人で今回のクーデターの首謀者である、エクスキューション三闘士である剛力のドーガ・べレイスを倒す手筈となっている。
「ここまで大丈夫ですか?」
「はい問題ないです」
「仮に途中で私、ソールさん、ウェン、キュミーの4人で倒せない敵に遭遇した際は...」
「誰かが残って救出に向かうで合ってる?」
「はいその通りです。あくまでも私達の目的はフィオルン様と第一王女を敵地から無事に保護することです。戦闘が長引いて2人の命を危険に晒すわけにはいきません。ここまでで質問が無ければもう向かいましょう一刻を争います」
その言葉に自分達3人は頷きオアシスに向かうことにした。ネモリアさんの背中にはキュミーが乗り自分の背にはウェルンを乗せオアシスへと飛びだつ。
「大丈夫?重くない?」
「いいや全然重くないよ自分もかなり強くなったからね」
「いいなー今度お兄ちゃんの背中に乗せてもらおうっと♪」
「ふふふ、いいですね。私もたまには乗せてもらいたいですね」
「勘弁してくださいよウェルンはいいとしてもネモリアさんは自分の翼があるじ...」
「ソール前見て!」
鬼気迫る声に反応して前を見ると大岩が目の前まで迫っていた。既の所で避けなんとか衝突を回避し元の航路に戻る。
「私が言ってなかったら危なかったよ。もうソールが調子に乗ってそんなこと言ってるから!飛ぶことに集中して、あと女心が分かってないからこの作戦が終わったらネモとデート決定ね!」
「えっ!?なんでそんな話に繋がるんだ!?」
「いえ私は大丈夫ですからウェンが代わりにい...」
「い、いいから。ソールもそろそろ知らないといけないんだからね。そうじゃないと女性とつ、付き合った時に絶対に痛い目を見るんだからね!」
ウェルンの言葉につい納得してしまう自分がいた。確かにこれまで仲良くなった女性はウェルン以外では初めてネモリアさんが初めてだ。もし仮に今後ウェルンと付き合う可能性があるならば予行練習も大事だろう。だが大丈夫だろうか、この前妙なことがあったばかりで少しどころかかなり気まずいのだが...
「ネモお姉ちゃんがしないなら私がお兄ちゃんとデートしちゃうよ!」
「なんでここであなたがおに、ソールさんとデートするのですか!?一番意味が分からないですよ!?」
「そうだよ、これは前に気まずい雰囲気になってどうしたらいいか分からないってネモが言うか...」
「何を言ってるのウェン!?それは内緒のことでソールさんにはバラさないって約束だったでしょ!」
ここまで女性陣が口を滑らすのはどうしてだ。みんな緊張でもしているのだろうか?先程から自分以外の女性3人の表情が赤めなことに気がついた。夜の砂漠は冷えているので熱が出るのはおかしいんだが大丈夫か?
もう少しゆっくり行くことを提案したが拒否され、既に全員の表情が元に戻っていることに気づいた。どうやら熱があるように見えたのは自分の見間違えだったようだ。そんなことをしている間にオアシスまで辿り着きアルドリア城に続く隠し通路へと突入していく。だが通路というには天井が低くどちらかと言えば排気口に近い坂道を中腰で進むので地味に脚が辛い。
「にしても狭いな...身体の小さいキュミーとかが先に行った方が良かったんじゃないか?」
「いいの?じゃあ先に行くねー」
「本当にキュミーは身軽に動きますよね」
「うん、この前鬼ごっこしたんだけど私がずっと鬼だったよ」
キュミーは素早くてウェルンは術の扱いに長けているし、ネモリアさんは攻撃とサポートに長けている。今回自分は3人を守りながら前線で敵の注意を引き付けるという一番重要な役割をしている。
万が一があった時に他の3人を活かすも殺すも自分の動き次第と言ったところだ。絶対にこの作戦を成功させようと思い、さらに気持ちが引き締まりながら通路を進んでいく。




