#112 上陸
潜水艦から地上を伺い安全を確認する。ヒルドリア騎士団が続々と上陸し、水中で呼吸が出来ない自分達と共に一緒に乗ってくれていたキュミーとミュリルさんが降りていく。
「この国に来るのも地上に来るのも久しぶりですね」
「お母さん来たことあるの?」
「ええあなたが本当に小さい頃に来たことあるのよ?多分あなたに会った時フィオルン気づいていたんじゃないかしら」
「えーそうなんだ全然覚えてないよ」
「小さい時の記憶って何故か全く残らないよね私も覚えてないんだよねー」
そんな雑談を交わしあいながらいつ襲われても大丈夫なように警戒しつつ、砂漠を越えアルドリアへと辿り着く。自分達が数週間前に見た光景と何ら変わりはないはずなのだが何かが違う。空気が淀んでいるのか、誰かにずっと見られているような...
「このままアルドリア城に殴り込みだ!と言いたいところだが今回ばかしは少し慎重に行った方がいいかもしれんよな」
「相手はエクスキューション三闘士剛力のドーガですからね」
「確かにあいつは強いやつだったかもしれない、だが姉貴を退けるほど強いとは思えないんだよな。ましてやゴルドが負けるとは思えねぇんだよな」
「それってまさか剛力のドーガが魔王軍側に加担していると?」
「そうかも知れないな。坊ちゃんと違って魔の力で強制的に力を引き出されているか、全く別の奴かもしれないな」
今回のアルドリアで起きた事件は深刻なことが良く分かる。ここまでベルゴフさんが考え込むのも珍しい。自分達も確かにこの国に初めて着いた日と比べるとかなり力がついたかもしれない。だがまだ魔王ラ・ザイールを追い詰め、世界を救ったとされるかつての勇者ゴレリアス一行程の実力は自分達にはないだろう。そして今回行方不明となったフィオルン様はその内の1人なのだ。
「勇者様方女王が呼んでおります」
「ジューグラさんそんなかしこまらなくてもいいんですよ?」
「いえ滅相もない、勇者様は勇者様ですから!この前までの私の態度がどうにかしていたのです!」
と最初に出会ったヒルドリア騎士団団長としての威厳ある姿は一体どこにやら...部下であるサーチャーさんの前に戻ると瞬時に凛々しい姿になる。切り替えの早さに感心しながら自分達はミュリル様とキール様がいる廃屋を改装した仮拠点へ入っていく。
「来ましたねそれではこのあとの作戦を説明していきます。まず第一にアルドリア城の奪還をする、二つ目は今回のクーデターの首謀者であるドーガ・べレイスの捕縛、そして三つ目に第五代女王であるフィオルン・ビースの救出」
「ベルゴフさんは私達と一緒にドーガ・べレイスの相手をし、ジューグラが率いるヒルドリア騎士団にはアルドリア城の奪還。そしてソールくん、ウェルンさん、ヒュリルさん、ネモリアさんにはフィオルン・ビースの救出と三つに別れてもらおうかと」
それぞれが妥当と言える場所に配置され自分達は各々が最後の調整をする。辺りが寝静まった頃屋上に寝転がり夜空を眺める多数の煌めく星を眺める。
「ソールさん隣いいですか?」
「大丈夫ですよ、ネモリアさんも眠れないんですか?」
「はい、少し寝苦しいのと怖くなってきてしまって...」
寝ている横に座ったので自分も体育座りになり目線を合わせる。ここ最近訓練以外でネモリアさんといる時間がなかったので何か話題を探そうとするも言葉が出てこず緊張が増す。
「ソールさんて好きな人はいますか?」
「へっ!?ゴホッゴホッ、す、好きな人ですか?」
「いややっぱり答えなくて大丈夫です、ちなみに私はいますよ」
「へぇそうなんですね・・・」
普段ネモリアさんとそういう話をするわけではないので突然その話題が出てきて驚いてしまう。上空からは月明かりが落ち雰囲気も相まってさらに緊張する。視線が自然とネモリアさんへ向けてしまう。自分達と同い年ぐらいなのだがウェルンと比べてもかなり大人びて見える。ヒュードとウィンガル族という種族差は多少あるのもそうだが、動きやすさをかなり重視した装備のため身体のあちこちから肌が覗いているからなのか?
「あのあまりまじまじと見られると恥ずかしいのですが・・・」
「ご、ごめんなさい!」
どうやら物凄く凝視してしまっていたようだ。いやまぁ綺麗なものは眺めてしまうよねー本当に気を付けないと...
「やっぱり私みたいな人よりソールさんウェンみたいな可愛い子が好きですよね?」
「いやそんなことはないですよ!いつもドキドキさせられて大変ですよ!」
「そうですか、私そろそろ寝に行きますねおやすみなさい...ふーんそうなんですね」
自分は一体何言ってるんだ、最後何か言っていたような気がするが怒ってどっか行ってしまった。異性の扱いはやはり分からないな、そのうち仲間に刺されるのではないか?女性の扱いを間違えてしまったら、2人に何かされるというよりも先にベルゴフさんにボコボコにされるような気がする。
そろそろ寝ないと明日の作戦に響いてしまうだろう。少し重い足取りで屋根から降り自分の部屋へと戻っていく。フィオルン様は無事なのか、それにフォルちゃんも大丈夫だろうか?まさかキュミーみたいに突然成長していないよな。今まで出会った女性や少女のことを思い出しながら眠っていった。




