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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
知るべき時

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110/246

#110 子供達

 辺りが暗くなり誰もいない訓練場で一人で剣を振るっていた。ここ数日の間かなりベルゴフさんに鍛えられ、竜剣術と魔術の使い方においてこの国に辿り着く前とは比べ物にならないだろう。ベルゴフさんが闘気を纏っていない普通の状態でならば同等の実力にはなっただろう。他の仲間達も自分と同じぐらいの実力になった。特にキュミーは父親であるキール様よりも武器術の練度的には強くなった。現時点で使える鱗槍術もキール様よりもモノに出来ているようだ。


「ここらへんにしておくか、これ以上はもう明日に響くな」

「こんな時間まで修練なんて流石は正統剣術の使い手ですね」


 後ろを振り返るとそこにはキール様がおりその手には黄金の三又の槍が握られている。他の人達は皆明日に備えて寝ている。自分は緊張しているのか眠ることが出来なかったので最後の仕上げをしていた。


「過去に私もゴレリアス様に竜剣術を教わりました。でもうまく形に出来ませんでした。その性質が槍に引き継がれて鱗槍術となり私は肆の槍で止まってしまいました」

「そうなんですね...」

「ですが、私の娘であるヒュリルに鱗槍術を伝えたら私なんかを追い越してしまった。貴方は武器術においてとても貴重な秘技を会得しようとしているのではないですか?」

「・・・はい、壱の剣である{撃竜牙(スティング)}、弐の剣{竜旋(ドラグーン)}、参の剣{渾竜斬(スラッシュ)}、肆の剣{渾竜砕(クェイク)}、そして伍の剣{竜獄爪(スクラッチ)}の合計五つの竜剣が使える。そもそも陸の剣のイメージすらすることが出来ないんです。これってもしかしてですけど限界ってことですか?」


 その言葉に対して口を開くことはなく何か考えているようだった。考えがまとまったのか、こちらに近づいてきてそのまま通り過ぎた。床に槍を突き立て止まりまたも沈黙の時が流れた。




「ゴレリアス様に剣を習い実際に竜剣を使えるようになった人は誰一人としていません。そしてその中で違う武器術として変化させられた人達が竜の子供と呼ばれています。獣剣術のゴルドレス・ビース、鳥弓術のルメガ・ゴース、鱗槍術のキール・ヒルドリア、竜剣術は他の武器術と違い三つの武器へと分かれ姿を変えました。その中で最も正統剣術に近かったのはゴルドレスただ一人。なので私には秘技と呼ばれる陸以降の武器術がどんなものなのかは分かりません」

「どうやったら武器術がどこまで使えるのか、限界か分かるんですか?」

「そうですね、それについては少し頼みを聞いてもらってからでもいいですか?」


 こちらに向き直り何故か槍を構えていたキールさん。なるほどそういう事かゴルドレスさんと会った時も似たような事をしたのを思い出す。自分もキールさんに対して剣と盾を構え魔力を込め戦闘態勢を整える。


「言わなくても分かってもらえたようで安心しました、では本気で行かせてもらいますよ?」

「もちろんお願いします、ここ数日でどれだけ強くなれたのか試させてもらいます」


 互いに距離を保ち右回りをしていく出るタイミングを伺っている。キュミーが使う鱗槍術とキールさんの使う鱗槍術は根本から違う。キュミーは活発に動き相手を惑わせたりして隙を誘う。だがキールさんは相手の攻撃に動きを合わせ反撃を行うという全く逆の動きをする。本当に手を出してこないな、埒が明かないので竜を具現化させながら自分からキールさんに飛び込んでいく。


「{竜獄爪(スクラッチ)}!!」


 カウンターを取られないように高速の剣戟を放ち襲いかかる。全ていなされてしまい逆にその力を利用され背中を取られ背中に攻撃を喰らってしまう。やはり速いだけでは鱗槍術特有の技術を突破することが出来ない。ゴルドレスさんのような重たくいなしきれない攻撃は自分には出来ないし、相手を確実に捉える正確性が高いネモリアさんのような攻撃も出来ない。自分が追撃に備えて急いで向き直すが何も来なかった。またも先程と同じぐらいの距離を保ち武器を構えこちらを見据えるキールさんが見えた。


「本当に動かないですね」

「私の鱗槍術は相手がどれだけの強敵でも勝ってきました。限界と気づいてしまってからはただ一つのことを貫くだけです。私は竜の子供と呼ばれた中では素の実力としてはないかもしれません、あの2人に負けたことはありません」


 これが最弱で最強の竜の子供キール・ヒルドリア・フィンシー。だが自分も策がないわけではない剣に魔力を込め直す。気合を入れこの国に来てから一度も発動していなかった魔の力を開放した。全力を出す両腕は魔族特有の鱗に覆われ両翼も生えてきた。


「姿形はまるで違いますけどその目を見ているとゴルドレス様のことを思い出しますよ。まだまだ気が抜けそうにないですね。より一層集中させてもらいましょう」


 キール様が纏う魔力の質が変化し待っている姿から既に海竜種を具現化しこちらの攻撃を伺っている。向こうも本気なのだろう、先程までと違い表情だけでものすごい寒気を感じるようになってきた。これから仕掛けようとしたタイミングで頭の中で何かが弾けた感覚に襲われた。


「ガハッ...ガアアァァァァァァ!なんだこれ何かがァァァァァァ!?」


 キール様に何か声をかけられているが自分の耳には聞こえない、頭の中で何かが暴れているようだ。耐えきれずその場に膝を落として頭を抱える。身体も熱くなってきて汗が止まらなくなってきて腕に激しい痛みを覚えた。段々と地面との距離が近づいて行くにつれて意識が遠のいていくのだった。

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