#106 未来の為に
「あっお母さま!どうしたの?」
「ええ少しあなたの顔を見たくなってしまってね、ごめんね寝る前にお邪魔してしまって」
もちろん負けるつもりはないが相手は魔王軍幹部だ。相手は三魔将軍でしかも魔王の右腕と言われているほどの実力者...生きて帰れる保証もない。この前の魔王軍との戦いでは少し気を抜きすぎてしまい迷惑をかけ倒れてしまった。
「ねぇお母さま1つ聞いてもいい?」
「うん?いいわよなんでも聞いて」
「次にフィーザー様と会えるのはいつ?」
メルクディン大陸にある隣国サルドリアと我が国アルドリアは魔王を倒すために共に旅をした。私とフィーザーが仲が良かったのもあり交流をよく深めていた。そこでフォルがフィーザーから闘い方や闘気を教えてもらっている。
いつもの周期ならそろそろ会う時なのだが彼はもう既にこの世にはいないのでそれは叶わない。ソール達が私の元に辿り着く数日前、予知で視たものと同じであろう眩い光が私の目に飛び込んできた。あの時視ていなければもしかしたら今もフィーザーは生きていたのではないかと思ってしまう時がある。
私に個能{予知}を自身でコントロールが出来ない、この後突然視るかもしれない。全く関係がない時に視ることが多い。魔力はごっそり持ってかれてしまい、その日は身体の調子が悪くなってしまう。自身が望んだ未来だけではなく望まない辛い未来を視るかもしれない。
「フィーザーはしばらく忙しくて来れないってこの前連絡をもらったわ」
「そうなんだ残念...フィーザー様のおかげでやっと武器に魔力を纏わせられるようになったの。教えたかったのに・・・」
「そうなの!?すごいじゃない!!」
親目線で見なくともフォルはとても才能がある子だと思う。武器に魔力を纏わすのは私でさえ苦手なのに生まれて十年しか経っていない。それにも拘わらずもうマスターしたのでやっぱり血は争えないのかもしれない。
私には夫がいる、だがそれは書面上でビース族の誰かという事にしている。だが実はフォルはフィーザーとの子供なのだ。元々は一緒に旅をしていくうちに段々とゴレリアスに対しての思いが膨らんでいき、彼が失踪する晩にこの想いを伝えようとした。だが彼は消えてしまい伝えることが出来ずに国に帰ることとなりそのままアルドリア第五代女王に就任した。この前の戦いで亡くなった大臣がやたらと縁談話を持ってきて私は嫌な思いを三十年近く味わった。
フィーザーとの酒の席でそのことをつい漏らしてしました。フィーザーも同じことにあっていたこともあり意気投合して誰にも知らせることなく交際を開始。しばらく経った頃に私は彼に命の次に大事にしていた物を与えて十年前フォルが生まれた。このことは私とフィーザーのみの秘密としてアルドリア王家の第一王女とした。
その際父親は誰かと問われた、今は亡き旅の中で知り合ったビース族の若者だと答えその先の質問を禁じた。フォルの父親は既に亡くなったビース族の中でも特に珍しい種族の青年。ということにされたが実は私の従妹だし、この子が親戚の感覚で接していたフィーザーは実は父親だったのだ。
「今日は夜遅いから明日お母さまに見せてあげるね!」
「そうねまた明日見せてちょうだい。だから今はおやすみなさいよ」
布団に戻った我が子を撫で寝たことを確認して部屋の外に出る。この場所は認められた一部の者しか場所を知り得ない王宮の秘密の部屋。ここにいる限りは安全で三魔将軍も手出しは出来ない。何があってもこの場所とこの子だけは命に代えても守ってみせる。
廊下を曲がると騎士団が待ち構えており、そのすべてを倒し意識がなくなった身体から出てきた紫スリィの後を追っていくと玉座に辿り着いた。そこには私に化けたドリューションが玉座に座っておりその身体にスリィが吸収されていた。
「あら自分の部下をそんなに倒して大丈夫?」
「倒さなくても彼らはもう既にあなたに吸い尽くされていて生きていないでしょう?」
「そこまでお見通しなのね」
「スリィが寄生することで心臓の代わりを果たしているのでしょう?生命の危機に陥ったらすぐさまあなたの元に意志を持って戻ろうとするか、すぐ近くの人間に寄生して分裂体を作り仲間を増やそうとする...合ってますか?」
「まぁ、そこまで自力で解けるなんてすごいわ!流石は私達の同胞を血の海に沈めた血飢姫様ね」
ドリューションが顔の前を手で通過させると返り血に染まった私の顔に変わっていた。そのいやらしく笑う顔を見て腹が立ったがすぐさま平常心に戻した。昔の様に血気盛んだった頃の私ならやつに跳びかかっていただろう。
それでよく窮地に陥って仲間に迷惑をかけたわね。そういえばミュリルはどうしてるかしら?そういえばソール達がこの前フィンシーの子を連れていたけど、あの子は小さい時のミュリルの娘に似ていたわね。
「そろそろ決着をつけましょう?私は2人もいらないわよ」
英具を呼び出して戦闘態勢を整えると驚くことが起きていた。この世に2つは存在しないはずの特別な武器である{マスターオブアームズ}。なんとドリューションも呼び出していたのだ。
「どうして私の英具を!?」
「何を驚いているの、同じことをしているのではなく全く同一の個体。私はあなた、あなたは私なのよ?」
私と鏡合わせの戦闘態勢を整えてこちらに笑みを浮かべていた。三魔将軍夢幻のドリューション、これほどまでに恐ろしい相手と対峙してしまうとはね。こんな時フィーザーならきっと奴にこう言うでしょうね。
「うるさいわよそんな難しいことはどうでもいいわ。かかってきなさいアルドリア第五代女王血飢姫フィオルン・ビースが相手よ!」




