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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
知るべき時

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105/246

#105 照らされた影

 スリイ種は環境によって姿を変え適した能力を得る。例えばアルドリアがあるここマクイル大陸のスリイは砂に擬態し、気づかずに真上を通過すると脚に纏わりつき魔力を吸収するサンドスリィがいる。

 どのスリイにも共通事項として身体を組織している液体状の部分には自分達で言う血液の代わりに魔力が蓄えられている。魔力切れを起こした際はスリィを食べれば魔力が回復する、まぁ味はそこまでおいしくない。ちゃんと魔力分だけを抽出したエーテルと呼ばれる飲み物がある。


「紫スリイの術適性は魔ってことね?」

「さっきの様子を見てもそう見えるな。しかし魔の力を持ったスリイなんて俺初めて見ましたよ」

「ええ私も初めて見たわ。今までのことを整理すると魔の力を持たない人が紫スリイに寄生されてしまうと軽い興奮状態になって意識を乗っ取られる」

「だから騎士団員が俺のことを襲ってきたのか」


 先程公衆浴場で襲ってきたのもゴルドの部下の騎士団員達だ。市民ではなく兵士が女王である私に刃を向けてくることに納得した。魔力を回復する際に間違えて自身が持っていない適性のエーテルを誤って服用した場合も軽く混乱状態になる。


「だけどあれはスリイであってスリイじゃないな。千切れた身体が意思を持ったスリイに変わるなんてそんなこと出来るのは夢幻のドリューションなのか?」

「だとしたら一つだけどうしても腑に落ちないのよ」

「腑に落ちないこと?」

「夢幻のドリューション...私達が魔王を倒す旅をしていた当時から姿を一切現さなかった。魔王城を後にした後も邪魔をしてくることはなかった。その後も五十年近く世界のどこにも姿を現さなかった。なのにどうしてこのタイミングで姿を現し始めたの?」


 考え事をしていて背後から何かが飛んできているのに気付くのが遅れ、何かに当たりそうになったのをゴルドが弾いてくれた。矢にしては速かったので弾いた先の物を拾うとそこには少し焦げ臭い奇妙な形をした先端が尖った筒状の物だった。確認をした後ゴルドが向いている方向である王宮へと急ぎ辿り着くと妙な静けさに襲われ背中の弓を構え英具も呼び出す。


「あの場所を打てるのはこの場所しかないの。誰かいるでしょ、隠れてないで出てきたらどう?夢幻のドリューション」


 柱の陰から見覚えのある黒鎧が英具を呼び出しながら出てくる。確か彼はこのマクイル大陸担当のエクスキューション三闘士のドーガ・べレイス。先の暴動で私が拘束して城の地下の牢屋で捕らえていたはずだ。


「答えなさいドーガ、エクスキューションはそっち側なの?」

「・・・」

「もう手遅れみたいね私が責任を持って屠ってあげる」

「その必要はないぜフィオルン様。何故ならあんたはここでやられるからな」


 ゴルドが王宮で待機していた騎士団員達を引き連れてきた。やはりそういうことだったのね


「やっぱりねあなたが裏切り者。いや...夢幻のソリューションだったのねゴルド」

「どこで気づいたんだ?口調も性格もすべて真似できていたはずだぞ」

「そりゃ気づくわよ。何年の付き合いだと思っているの?女の勘を舐めない方がいいわよ」

「おおやっぱ一筋縄じゃ行かないか。なら今度は・・・こんな姿になってみようかしら」


 喋りながら身体が変化し最も知っているビース族の女性に変化した。毎朝鏡で見る私自身の顔そして体型、声色と何一つ寸分の狂いがないくらいに変わっていた。


「それがあなたの能力ね、{擬態}ってところかしら」

「そう私はどんな姿にもなれる例えばこんなことも出来るの」


 服が溶けて私の生まれたままの姿が月明かりに照らされる。ここまで再現されてしまうと見事ともいえるだろう。


「そしてあなたはスリイの上位種ってところ?」

「あらわざわざ辱めたのにそこには無反応なの?」

「歳を召した女の裸を見られても何も恥ずかしいことはないわ」

「あらそう残念、でも周りの人達は皆顔を真っ赤にしてるわよ?」

「意識があるはずないでしょ。これもすべてあなたが操作しているの?」

「ご名答、私はあの方に生み出された奇跡の生物、人は三魔将軍夢幻のドリューションと呼ぶ。世界で最も気高いロイヤルスリイ。身体の隅から隅まですべて私、私が寄生した生物は皆私の手足となり永遠に働き続けるの」


 その言葉を発した後、私以外の人が皆ドリューションに片膝をついた。まさかここまでの力を持っているとは予想も出来なかったがここは腹をくくるしかないだろう。


「残念もう味方はこの国にはいないわよ。本物の騎士団長様は今頃どこかで私の別の手足によって亡き者にされているはずよ。安心してこれからこの国は私が代わりになって納めてあげる」

「あらそう、それはうれしいわなら最後に教えてくれる?一度だけとある予知を見たことがあるのだけれど」

「ええいいわよ。最後の私の質問だもの聞いてあげる」

「四十八年前私達が旅の末に封印した魔王ラ・ザイールは実は覚醒前で、わざと封印されることによってゆっくりと力を蓄えていたのって本当なの?」

「...ふふふふふ、あははははは!そうよその通りよ。気づいてもどうしようもない予知を運よく見れたのね。その予知いつ見たの?」

「教えない、でももしこの周りにいるみんなを片付けたら教えてあげる」

「この人数を、たった一人でどうにかしようっていうの?なんでこうも馬鹿な事を考えるの?」

「もう質問の時間は終わったわよドリューション。あなたのような人ですらない良く分からない存在には分からなくて当然よ」


 ソリューションが手を挙げて微笑みながら私目掛けて下ろすと膝立ちをしていた騎士団員達が襲い掛かってきた。だがそこで足元に組み込んでいた術式を発動させ煙幕をまき散らす中で私はとある場所に転送された。

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