#104 不埒な輩
正気な状態だった兵士達に細心の注意を払って監視をさせながら私達は1人1人に事情聴取をしていく。すると奇妙なことに一部の人物の行動が一致しなかった。その為施設の利用記録等を確認するが特に不審な点はなかったのだ。本人はその場所に行っていないと言っていても利用記録では残っていたり目撃証言が残っている...?
「うーんこれは本当に奇妙です」
「そうね魔道具の故障も疑ったけど目撃証言もとなると...」
「まるで自分が2人いるみたいですな」
まるで自分が2人いる?その言葉に一瞬何か閃きかけたので昔ゴレリアスと共に旅をしていた時のことを思い出す。旅の途中で遭遇した魔物や魔獣を片っ端から思い出していく。ここまで強力な寄生能力を持った生物や姿を変えたりするのに特化した能力の生物は...一つ、該当する答えに辿り着いたがそもそも本当に存在しているのかどうかが怪しい。
「まさか夢幻のドリューション?」
「えっ?夢幻のドリューションってあの三魔将軍のですか?」
「ええ、でも確証はないわ」
辿り着いた答えそれは三魔将軍夢幻のドリューション。何故怪しいのかというと私達の誰もが奴の本当の姿を知らない。初めて知ったのはアンクルが魔王軍の戦力について教えてくれた時。彼女自身も素顔を見たことがなく、三魔将軍であるサピダムとフュペーガも知らない。顔を知っているのは魔王ラ・ザイールのみらしい。
「だとするなら、今目の前にいる女王も実はってこともあるんだろう?」
「そうね皆を疑わないといけないわね」
もし奴がここにいるなら今目の前にいるゴルドすらも疑わなければならない。自身に近づく者は皆怪しく見えてしまう、噂だけで脅威となる存在なのだ。その情報が頭に入っているかによって混乱が起きてしまう。ここであえて公表をしてしまえば逆に不味いことになるので秘密裏に調査を進めるしかない。
「ここからはそれぞれが行動が噛み合わなかった者達を調べましょう」
「そうですな。ここでもし一緒に行動してどちらかがやられてしまうようなことがあれば一大事ですからな」
と別れたのがつい先程で今現在置かれている状況になるとは思いもしなかった。街にある公衆浴場を利用した男性研究員を調べに来たついでに入浴しに来た。すると武装した兵士に囲まれたが姿を隠していた聖獣が一網打尽にした。だがその隙を見て例の紫スリィによってまさか聖獣が乗っ取られてしまうとは。
「いきなり大当たりね。この感じだともうこの国の大体の人が寄生されてそうね」
「グルルルル!」
「聖獣ですら操るなんてこれは細心の注意を払わないといけないわね」
自信の周りに英具{マスターオブアームズ}を展開する。その様子を見て跳びかかってくるが首筋に鉈で深い傷を作りさらにそこに斧を入れて一刀両断にする。身体の中からスリィが飛び出してお湯で膨張してかなり巨大な姿になった。傍から見たら絶体絶命な状況だがここまで辺りに血が飛び散っていて尚且つこの英具を展開している。
「知能があって私のことが分かるなら絶対にこれだけの血を流させないものね」
昔魔王軍との闘いの最中にとある魔族が持っていた狩猟具を片っ端から奪って全ての所有権を無理やり自身の物にした英具{マスターオブアームズ}。鉈に斧、弓矢など種類がとても豊富で武器としての出来は最高の品質。それでも十分に強いのだがこの武器の真価は別にある。周りにある血から英具をどんどんと複製していく。次々とスリイ目掛けて放っていき、浴場の壁に貼り付け身動きを取れなくし血の膜で覆い閉じ込める。
「ふぅこんなものね...やっぱり使い心地はよくないけども」
なんとこの武器は血を使えば自由自在に操ることが出来る。尚且つ武器を複製することが可能で自他共に認める強力な英具。だがこの力を使い過ぎて血の香りが頭から離れなくなったり誠に不本意ながら{血飢姫}なんて二つ名を付けられた。
「まぁしょうがないわね。お風呂に入ってる女性を取り囲んだ上に負けるなんて鍛え方が足りないわね」
血の膜に手を翳して握りこぶしを作り中にいるスリイと混ぜ合わせて破裂させる。辺りに飛び散り動かなくなったのでゆっくりと湯船に浸かりスリイの様子を眺める。特に動く様子は見えない、一体どういう原理で動いているのかしら。こういう魔物を研究するならノレージのおじさまが最も向いているだろう。足を延ばして両手を上に上げて完全にくつろぐ態勢をとる。
「この感じだとゴルドの方も中々苦労していそうね。まぁでもそう簡単にやられるわけないわ、じゃないとアルドリア騎士団長の名が廃るわ」
その後襲われることもなくゆっくり出来たので湯船から上がり服を着る。外に出るとゴルドが待っていたので引き続き一定の距離感を保ちながら城へと戻る。
「だいぶスッキリされたようで良かったです」
「ええいいリフレッシュになったわそっちはどうだった?」
「多分全く同じかと思いますがスリイに寄生された騎士団に襲われて蹴散らしてきたとこですよ」
「やっぱりねそれで何か収穫はあったの?」
「へい、一人だけ様子が違ったんで捕らえたんです。そこでなんと不思議なことが起きたんですよ」
ゴルドが城とは別の方向に曲がったので着いていく。そこにはこの国では見慣れないどころか見るはずもない縄で縛られた魔族の姿がそこにはあったのだ。
「どうやって国内に魔族が?」
「いやぁ一つ分かったことなんですけど、自分らがスリイだと思ってたこれなんですけど」
瓶詰めされた一番最初に捕らえた紫スリイを取り出して魔力を込める。すると活発に動いていたスリイは突然動かなくなりただの液体に変わった。
「これスリイなのはあってたんですけどほとんど中身が魔の力で出来ていたんですよ」
「ほとんど魔力で出来ていた?...ということはもしかして!?」
「ご察しの通りで小さいスリイなんじゃなくて、これ自体が意思を持ったスリィの身体の一部なんですよ」
これだけの寄生能力を持った小さいスリイではなく、まさかスリィの身体の一部だとは思いもしなかった。これでこの国にいる三魔将軍夢幻のドリューションは少なくともスリイ種であることが発覚した。




