#103 獣の暗い影
時は少し遡りソール達がヴァル大陸に辿り着いた時へと戻る
弦に手をかけ限界まで引き絞り空を飛ぶ怪鳥目掛けて矢を放つ。距離として数えるならば200Mぐらい先の獲物に矢が命中して空中で墜落させる。予知によって消耗した身体に鞭を打ってエクスキューションが城内で暴れたのを抑えるため、久しぶりに過度な力を使ってしまったがようやく力が戻ってきた
「おお流石フィオルン様!弓であんな遠い距離の鳥を正確に射抜くなんて世界のどこ捜してもいないですよ!」
「ありがとうゴルド、これならまだあの子に力を譲らなくていいかもね」
「お母さまー」
駆け寄ってくるのは我が愛娘アルドリア・フォル・ビース。この子は我がアルドリア王家歴代最強になりうる可能性を持つ個能を持っている。だがその使い方を間違えてしまったら取り返しのつかないことにもなりえてしまう。
「いやぁしかしソール達が旅立って一週間程経ちましたけど、特に何か変なこと起きてなければいいですなー」
「そうねでもまだまだ気を抜いてはいけないわよ。ここ最近の空気感が魔王がいた時代の空気となんら変わらなくなってきたのよね」
「と言いますと?」
「日常は崩れ去り混乱が巻き起こる。そして世界の崩壊へのカウントダウンがまた始まってしまうのかもしれない。この子が女王としてこの国を治める姿を見届けることが出来ずに私が亡くなってしまうなんてこともね...」
「先代アルドリア王もそうでしたね。異変が始まった時にフィオルン様を守るために身を挺して逃がしましたね」
父も母もまだ私自身が王の器でない時に魔王軍によって亡き者とされてしまった。力さえあれば2人を救えていたのかもしれない。そう、今でも夢見てしまう時がある。だがそれが同時に両親が私のことを最後まで愛してくれていた。という証明にもなった。
その後私は国を治め始めたが協力しなければならない状況。なのにビース族は手を取り合うことが出来なかった。どれだけ手を差し伸べても振り払われてしまい段々とマクイル大陸そのものが終わりを告げようとしていた。そんな時ゴレリアス、ウヌベクス、フィーザーの3人がやってきた。
彼らは事情を知り種族が違う私達を一つになるために手助けをしてくれた。例え、相手にされなくても何度も通い続け多くの人々を救いたいという思いを伝え続けてくれた。その後魔族が攻めてきてアルドリア王家だけではどうしようもない時に他の種族を連れて助けに来てくれた。
私はそんな彼らに惹かれ共に魔王を倒し世界を守るための旅に出た。その途中でノレージとミュリルが仲間になったり、ひょんなことから魔王の娘であるアンクルを助け仲間として受け入れた。順調に思えた旅の中で私の呪われた魔能である{予知}が覚醒した。
一番最初に見たのは夜襲を受け近くの村が崩壊する夢。最初は冗談だと思った、後日野宿した場所の近くで廃村が見つかってしまった。私はたまたまだと思いそのことを忘れ、しばらくした後に見たのはフィーザーがとてつもない程魔力が光に包まれていく姿だった。流石に警戒をしたが特にそんなことは起きずにフィーザーは無事で少し安心してしまった。その予知は約五十年も先の未来のことだった。
そして魔王城に突入する前夜に見たのは倒れた私達とゴレリアスが片腕を失い片膝をついていた姿だった。例えこの予知が本当ならば分かっているならば事前に防げるはず。そう思い懸命に戦ったがいつの間にか予知で視たものと全く同じ光景がひろがってしまっていた。
その後ゴレリアスが最後の力を振り絞り、なんとか封印術を使いスクロールに魔王を封じ込めることに成功した。持って帰ろうと試み、魔の力が濃すぎて私達は愚か、力を失ってしまったゴレリアスでは持ち帰ることは叶わず魔王城に置いていき脱出した。
すると姿形もろとも消え去ってしまいそのためスクロール自体は魔王軍が保有しているはず。報告で聞いた通りだと叡智のサピダムは生き延びたらしい。奴ならば封印術の解析を済んでしまっているだろう。私とミュリルが協力して封印した凶猛のフュペーガも既に復活を果たした。尚且つ最後の三魔将軍に関してはゴレリアスと共に旅をした私達も魔王の娘であるアンクルも知らなかった。
「それで見てくれよ」
「なにこれ?」
「いや何フィオルン様がボコしたエクスキューションの団員に付いてた物質だな」
瓶の中には紫色の小さなスリイが動き回り瓶を壊そうとしていた。紫色なんて初めてみたしそもそもこれはスリイなの?どこにも核が見えないけど一体なんなんだろうか。
「研究部には回したの?」
「はい回して解析しているのですが未だけっ、」
突然研究部がある方で爆発音が響き黒煙が上がった。口笛で聖獣を呼んでフォルのことを任せ現場に急ぐ。そこでは何故か城の研究員と騎士団が戦いあっており既に何人か死傷者が出ていた。
「どうなってるんだ?!おいお前ら正気にもど、」
「うおぉぉぉ!」
「何してんだ敵味方の区別つかないのかお前ら!」
騎士団員がゴルドに斬りかかる姿を見て魔王軍の手の者による確信した。英具を呼び出しとりあえず庭に出て戦っている兵士と研究員を皆捕縛する。
「よしこれで一旦大丈夫ね」
「おー流石はフィオルン様。でもよぉ俺まで縛り上げる必要あったか!?って、なんでナイフなんか投げるんですか!?」
「待ってナイフの先を見て」
咄嗟に気づいてゴルドの皮膚を抉りながら付着していた紫色のスリい7を無理やり剥がすと動かなくなった。この騒動はもしかしなくても、この騒動に乗じて誰か怪しいものがいないかの確認をしたがそれらしき影は見えなかった。尚且つ絶対にこの物体の正体を掴まないとね。




