#101 ヒルドリア騎士団
詰所に辿り着いたので正面から改めて見てみる。かなり大きな建物だということが分かった。詰所と言われなければ前線基地とも言えるほどの規模はあるな。門に向けて進み始めようとしたら自分の足元に術弾が飛んできた。
「貴様止まれ!どこの手の物だ?」
「どういうことですか!?自分はただ...」
「うるさい、私の魔能{術感知}で魔の力を持ってるのは分かってるぞ。そしてそこにいる女児を人質にしてここに攻め入ろうというのだろう!」
「話を聞いてくだ、」
「問答無用!」
槍を構えてこちらに突っ込んでくる衛兵らしき人が突っ込んできたので構えた。目の前にウォーターウォールが作られ互いに動きを止めたキュミーが自分達の間に展開したようだ。
「ねーおじさん少しは話を聞いてよ!そんなことしてるといつか痛い目見るっておじちゃん言ってたもん!」
「くぅ小癪な真似を...これしきの壁私にかかれ!?」
「やめなさい、あなたはもう少し周りを見ることを覚えなさい」
目の前に展開されていたウォールが突然消えた。槍を構えていた衛兵は突然伏せて地面にめり込んでいた。唱えたであろう術者は手を翳しながら階段を降りてきていた。
「団長何をするのですか!こやつはぁ!?」
「・・・少しそこで聞いていなさい」
伏せられてから少し身体を動かせていた衛兵。更に力を加えた為か衛兵の周りが少し歪んで見えていた。この人のこの力はもしかして個能か?五術でも聞いたことがないし何より魔力の流れが見えない。
「お待たせしました。彼は私の部下でヒルドリア騎士団副団長であるサーチャーと言います。仕事は出来て正義感が強いです。そのせいか思い込みが少々激しいのですお話を聞かせてもらって良いですか?」
「はい、自分は隣の球領に漂着した後ここならヒルドリアに行けると話を聞きまして」
「なるほどやはりそうでしたか。そしてその子は...行方不明になっていたヒルドリア王家第一王女ヒュリル・ヒルドリア・フィンシー様ですね」
この人なら話が通じるかもしれないというか、あの衛兵いつまで地面に突っ伏したままにさせているんだ。もうそこの人からは敵意を感じない。なんならようやくキュミーの存在に気づいたのかなんだか焦っている表情をしている。
「それではまずご挨拶をさせていただきます。ヒルドリア騎士団団長ジューグラと申します。都に行くまで少し時間がかかりますのでどうぞこちらに」
「ありがとうございます、でもこのままでいいんですか?」
「うん?ああそうでしたすっかり忘れていました。私が止めていなければ国家反逆罪で牢に入れるところでしたよ気をつけなさい」
手を翳すと歪んで見えてた光景が元に戻り衛兵が槍を拾いながら立ち上がる。頭を勢いよく下げ謝罪を受けた。もう過ぎたことなのでしょうがない、魔の適性を持った人なんて世界を探しても自分を含めても2、3人程存在しないだろう。それだけ間違えてもしょうがないものを自身の身に抱えてしまっているのだ。
「第三球領でヒュード族が女の子を助けてるという報告が届いた時は流石に驚きましたね。その報告を聞いてサーチャーが飛び出していって先程の不始末が起きたわけです」
「申し訳がない!いてもたってもいられずそのままの勢いのままあなたを疑ってしまった。よく考えてみればわざわざ一緒に来るわけないですな!」
また鈍い音が聞こえたが特に殴った素振りは見えなかったが副団長さんは頭を押さえて痛がっていた。
「さっきから使っているのはもしかして魔能か何かですか?」
「私の一族みんな使える個能で{重力操作}ですね。重たいものを軽くしたりその逆も可能です。私が先程からやっているのは風の術で濃く薄い膜を作って相手を地面に押さえつける。球体にして囲んだ中の空気を重くして物理攻撃を行うなど色々応用が効きやすい魔能ですね」
濃く薄い膜を形成するのは術において最も難しい。視認出来なくて人の力で壊せないほどの強度の薄い膜を瞬時に生成し、そのあとに自身の個能の力を加えることが出来るのは相当な練度が必要だ。術の才に優れたものでなければたちまちやられてしまう。流石は国の名を背負う団長だ。
「それでは私の魔能がたまたま誤作動を起こしたのか。確かに魔の力を持っていると思ったのだが?」
「いやそれに関しては合ってますよほら」
「ほおこれは綺麗な赤色な冒険者カードですな。どれどれ・・・確かに術適性{魔}と書かれていますな」
「でもお兄ちゃん魔族じゃないんだよ!その力で今までもたくさん助けてくれて、あとねお兄ちゃんは新しい勇者なんだよ!」
前を歩いていたジューグラさんが止まった。後ろを向くとまたも焦ったような表情をしてこちらにまったく目を合わせてもらえなかった。突然両肩を持たれてそのまま壁に押さえつけられた先程までの冷静な表情がどこかにいってしまった。
「それは!本当ですか!?」
「は、はい一応そうですよ。自分はヒュード・ソールって名乗ることを許可され、!?」
後ろの壁にひびが入るほどさらに押さえつけられた手から力を感じた。少し距離を取り背中に装備していた斧のような槍の様な武器を右手に構え、腰のポケットからノミを取り出した。いや待てなんでそんなものを持っているんだ?
「あ、あの、良ければ私の武器に名前を刻んでいただけませんか?」
「は、はぁ、いいですけど...」
「えー団長は普段は冷静なのですが、先代勇者ゴレリアス様のことがとても大好きでして。勇者に関する話をさせたら世界でもゴレリアス一行を除いた中で最も知識を持っている程のファンで。」
「へーそうなんだお兄ちゃん良かったね!」
良かったのかなぁ?いや、まぁこうやって喜んでくれてるならいいか。部屋に到着しノミを受け取り刻印を始めた。正面に座って熱心に向けてくる視線が痛い、今までここまでの対応をされたことがなかった。どうしていいか分からずただひたすらに集中して名前を刻んだ。




