#100 海底の盛り合わせ
町長さんの言うとおりに自分達が仮拠点にしていた小屋の近くを少し掘り返す。石造りの祠の入り口らしきものが出てきた。重い扉を開け術式の上に乗り転送するとまた違う祠に辿り着いていた。またも重い扉を開けると先程まで砂浜のような場所にいたのだが今度は遺跡のようなところに出た。
「ここが第三ヒルドリア球領てことでいいのかな?」
「さっきと違う所だねー」
もらった地図通りに道を進んでいると第四では全く見かけなかったとある魔物によく遭遇した。自分が初めて出遭ったのは村近くの川で遊んでいた時。一見無害にも見えるあの見た目には騙されたものだ。自分も成長して簡単に倒せるようにはなったがどうしても1点だけ許せないことがある。
「ここら一帯本当にスリイ多くないか?」
「もー槍がべとべとになっちゃったよー」
「うん本当にめんどくさいね。でも流石は海底といった方がいいのかな色々なやつがいるんだな」
地上で見たことがあるのはレッド、ブル―、イエロー、それに加えてレア種としてグリーン、パープル、オレンジ、最もレアではあるがとても不幸になると言われているブラックのスリイ。
ここにいるスリイは色は地上と同じだとしても色々と個性を持っているのだ。地上のスリイは基本体当たりしかしてこない。だがここのスリィはなんと身体の色に合わせて基本造形ランク1~4相当の術を行使してくる。おかげで相手をしているとキリがないのでいつも通り無視していたが見事にスパイラルウォーターを喰らった。
「そういえばキュミーの術適性は何があるんだ?」
「私?水1つだけ。造形はシューティングまで出来るよ!」
「へぇー基本造形の7まで出来るのはすごいな。確かミュリル様は水術と聖術においてはノレージ様よりも扱いに長けているんだっけ?」
「そうなの!水術は私、お母さんに教えてもらったの!だからほら!」
ボールを造形しそのまま前にかざすと正面に水柱を噴出し残っていたスリイを一掃する。
「今のはバーティカルの応用?」
「ううん違うよ。これねーヒルドリア王家の秘術で{水竜弾}ていうんだけどね。まだ修練が甘くて{水流砲}ていう水術になるの」
「へー秘術なんてものがあるんだなーもしかして他の王家にもあるの?」
「えーとね、確か時に関する能力を持っているのがアルドリア王家。他の王家もあるのかもしれないけど分かんないや!」
そういえばアルドリア現女王のフィオルン様の魔能は確か{未来予知}だったな。そう考えるともしかしてベルゴフさんも何かしら特別な能力を持っているのだろうか?
「正確に言うとね私達ヒルドリア王家は水を自在に操る力を持ってるの。えーとお母さんのお父さん、先代国王様は海の中なら絶対に負けなかったんだって。退位する時にその能力をお父さんに譲ったんだよね」
「能力を譲る?そんなこと出来るんだね」
「うん!王位継承問題で複雑にならないよう、一子政策をしてるの。ヒルドリアの血筋じゃない人とも結婚して王家にする為先代国王が継承するんだって。そうやって秘術が外に出さないようにしてるんだっけな?」
互いに雑談を交わしながら襲い掛かってくるスリイを捌いていく。数も多く確かに術による攻撃は厄介だが魔力を込めて攻撃をしたら正直敵ではない。
奴の身体は衝撃を吸収してそれを魔力に変換する。外部から魔力を直接流し込まれた場合身体の組織が霧散するのだ。まだ武器術すらまともに使えなった頃よく父親にスリイ狩りに連れてかれていた時のことを思い出す。
「そろそろここら辺にいるのは倒したかな?」
「特に見当たらないね!あとあそこに見えるのが王国警備隊の詰所かな?」
既に遺跡のような地帯は抜けかなりの距離を移動してきたようだ。狩りと話に花を咲かせていたら辺りの景色は第四球領でも見た木が生えた海岸線のようなところに辿り着いた。キュミーが指さす建造物は今まで見てきた中でかなり豪勢な作りをしていた。水面上に建造されておりその両サイドにはやぐらも建てられていて誰がどう見ても詰所と言って問題がないだろう。
「行こう!おにいちゃ、きゃあ!」
突然キュミーの身体が宙に浮き咄嗟に手を伸ばす。右腕に衝撃が走り砂埃を上げながら吹き飛ばされてしまう。段々と晴れてきて水面から顔を出す水生生物。延ばした触手で身体を縛り付けキュミーの身動きを取れなくしていた。
「今助けるぞ!」
剣と盾を構え多数生えた触手の内の1本に斬りかかる。なんと刃が通らず別の触手で自分も縛り上げられてしまう。こいつ今一瞬だけ硬化しなかったか!?もしかしてこの魔物はベルゴフさんが闘気で身体を固める技と似たような魔能を持っているな。
段々と縛る力が増しているのが分かり魔の力を開放しなんとか拘束を振りほどいた。そして魔物の上空からもう1度触手に斬りかかる。今度は剣に魔力を纏わせ難なく触手を切り落とすことに成功した。
「よしこれなら行ける、キュミーを放せ!」
別の触手も切り落とすがまたも反撃をしてくる。特に放す素振りを見せないので更に濃い魔力を込め本体に対して水平斬りを行う。
「{渾竜斬}!!」
やつのちょうど真ん中ぐらいの位置に竜剣術を放つ。真横に両断し身体が縦半分となり流石に息絶えたようだ。縛っていたキュミーが放され落ちるところを抱え込んで地上に降り立つ。
「お、お兄ちゃんありがとう...」
「ごめんな急に襲われたから反応が遅れちゃってさ」
「う、うんそれはいいんだけど・・・」
キュミーが顔を赤らめてそっぽを向いた。自分が今どうやって抱えているか確認してすぐに距離を取り、つい反対側に向き直った。今までの感覚でキュミーを抱きかかえたら意外と顔が近いのと世で言う所のお姫様抱っこという持ち方をしていた。そんなことをしてしまい互いに顔を見て会話が出来なくて空気が気まずくなりながらも詰所に近づいていくのだった。
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どうもここに書くのは久しぶりですね
今回で無事#100を迎えることが出来ました!
物語は自分の構想の中ではようやく序盤が終わりかけ
小説の完全な手直しも第2章まで進みました
これからも週1での最新話投稿をしながら
3章以降の物語も手直しを行っていき
より皆様にとっておもしろい小説
となるように精進していきますので
これからも皆様よろしくお願いします!
2022/04/30 新村夜遊




