第五章 頼みの綱
廃線となった列車は古い車庫の中にあった。
私が車庫の鍵を開けると、そこには十年ほど前まで他の国との架け橋となっていた列車があった。
「一通り調べたところ異常はなかったので、使えるはずです。どうぞ、乗ってください」
私がそう言うと、人々はゆっくりと列車の中へと足を踏み入れた。
中のほうも、ときどきやってきて掃除をしたので、まあまあきれいである。
「あの、この列車の元運転手なんですが、運転しましょうか?」
五十代くらいの男性がそう言ってきた。
「では、ぜひお願いします」
私はそう言い、彼に運転を任せることにした。
「紅望ノ国へ向かってください」
私はそれだけ伝えて、展望台へとのぼった。
列車が通るところにファントムがいたら倒さなければならないからだ。
だけど、前にはいなかったし、後ろからの追手もこの列車には追い付けないようだった。
私は安全を確認すると、再び車内へと戻っていった。
「とりあえず、紅望ノ国へは近いうちに伺うことを伝えてはいます。でも、私たちを受け入れてくれるかはわかりません」
私は冷静に乗客に伝えた。
乗客はざわつきながらも私の話を聞いてくれていた。
「私たちを受け入れてくれるかは私の対応次第です。必ず、受け入れてもらえるようにするので、どうか安心してください」
紅望ノ国は両親が以前からお付き合いをしていた国だ。国と国との距離は少々あるが、両親はうまく付き合ってうちが一番仲のいい国となった。
もちろん、両親は紅望ノ国も取り込むつもりで仲良くしていたのだが。うちよりも国土が大きいから、両親は欲しがっていた。
「とりあえず、紅望ノ国までは時間がかかるので、みなさん体を休めていてください」
私はそう言って、運転席のほうへ向かった。
「靖志さんも、途中で休憩を挟んでください。どんなに急いでも三日はかかりますから」
運転している男性、靖志にもそう伝えた。
とりあえず、食糧や水は五日分程度なら積んである。紅望ノ国まではもつだろう。
問題は紅望ノ国に着いてからだ。
近いうちに伺うとは伝えたが、そもそも私と話をしてくれるかどうか。あれだけ乗客には安心してと言っておきながら、そんなところでつまづくわけにはいかない。
いろいろな可能性に対処できるように、策を練らなければ。
紅望ノ国には四日で到着することができた。靖志がほとんど休まずに運転してくれたからだ。
私はここに着くまでに服を着替えて、準備万端にしていた。電車を降りる直前には眼鏡もかけていた。
「みなさんは車内で待っていてください」
私はそう伝え、電車を降りた。
紅望ノ国の入り口である門のところまで歩くと、門衛が声をかけてきた。
「何者だ。この国に何の用がある」
私は逸見の家紋を手にして言った。
「破吏ノ国、逸見家の紫乃と申します。こちらの領主、泉水家にお話があって参りました。どうかここを、通しては頂けないでしょうか」
私の言葉に門衛は驚いた顔をしたが、すぐに真面目な顔になり
「少しお待ち下さい」
と言い、人を呼んできた。どうやら、泉水家に確認を取りに行かせるようだった。
私は言われた通り、おとなしく待つことにした。
やがて、さっきの人が戻ってきて私は無事に紅望ノ国へと入ることができた。案内されるがままに、この国の領主である泉水家へと向かう。
活気のある国だ。
泉水家まで町を通りながらそう思った。みんな笑顔が溢れている。破吏ノ国とは大違いだ。
領主が違えばここまで国の在り方は変わるものなのだと感じた。いや、ずっと知っていた。うちの両親が領主でなければ、と。
そんなふうに思っている間に泉水家へと到着した。
私の計画もいよいよ大詰め。最後までうまくいくことを。