第二章 空想話か現実か
逸見家の屋敷の広間で私は両親と家臣たちといた。
本当はこんなところにいたくはないけれど、両親に呼ばれたら仕方がない。今は従順な犬としていなければならないのだから。
「もうすっかり国民はお前のことも恐れるようになったな、紫乃」
父は少しニヤつきながらそう言ってきた。
「だから、そろそろ逸見家が完璧にこの国の支配をできると思う」
父は続けてそう言った。
私にはもう、何を言いたいのかがよくわかっていた。
「戦争、ですか?さらに勢力を伸ばして、他国も取り込んでいくつもりですか?」
私が静かにそう告げると、父は相変わらずニヤつきながら、そうだ、と言わんばかりに首をたてに振った。
「ですが、この世界にはファントムという化け物もいるのですよ?つい最近もどこかでやつらが現れたとかで、名もなき地が滅ぼされたとか」
私は父にそう反論した。父がそう言われて何と返事をするかわかっていながら。
「そんなものはまやかしだ。そんな空想話に付き合ってなどおれん。破吏ノ国は小国だ。もっと土地がいる。有能な人材がいる」
とにかく父はこの国を大きくしたいらしい。どんな手を使ってでも。
「一週間後だ。一週間後、隣国に攻め入る」
父はそう言ってきた。
この場に居る者たちは皆、父の言葉に歓声をあげた。ただ一人、私を除いて。
「紫乃、お前の力が必要だ。準備しておけ」
「・・・わかりました」
私はそう答え、部屋をあとにした。
それから三日後。逸見の屋敷内が少しざわついていた。
攻めようと思っていた隣国の領主がうちにやってきたのだ。
私はそれを知り、広間を出ようとすると、母が呼び止めた。
「紫乃、どこへいくの?」
「着替えるだけよ。もし、むこうが何か仕掛けてきたら困るでしょ?」
私は母のほうを見ずにそう言い、部屋を出た。
その後、両親は隣国の領主に対し、冷静に対応をした。他所の国に対してはいつだって表向きの態度。裏の顔は他所の国には知られていない。
「お聞きになったでしょうか。例のファントムのことを。近いうちにこの辺りにも現れると、私は思っているのです」
隣国の領主はそう言ってきた。努めて冷静に、そして隙も見せず。
彼が言いたいことは、ファントムが近いうちにやってくるからうちと一緒に退治しないか、というものだった。
「申し訳ないが、我らは我らのやり方でやりたい。だから、あなた方に協力はできない」
父はそう言い、隣国の領主を追い返した。
だが、隣国の領主は帰り間際に両親にだけ聞こえるように言った。
「逸見のやり方がどういうものかは知らないが、気を付けることだ。ファントムを侮ってはならない」
その瞳は鋭く、まるで両親の本性を見抜いているようだった。
そして、逸見の屋敷を出ようとしたとき、ついにそれは起こった。
突如、カンカンカンと鳴り響く鐘の音。
何事か、と誰もが騒いだ。
「誰かが攻めてきたか!?」
両親はそう騒いでいた。
だとしても、一体どこの誰が、何のために?
屋敷内はもちろん、国中が騒然とするなか、両親のもとへやってきた家臣の一人がこう告げ、その場に居た者たちは恐怖した。
「ば、化け物です!化け物がこの国のそばまで来ています!」
ついにこの日がきた。ずっと待ちわびていた。私の計画がやっと、完璧に遂行される。