第一章 兵器の少女
私がまだたったの五歳の頃、両親は冷たくこう告げたのだ。
────生きていきたいのなら人を殺せ
────恐怖で誰も逆らえないようにしろ
────何に対しても恐れる心を持つな
転がる死体や血の海の中、恐怖で足がすくみ、座り込んでいた私に。涙を浮かべて今にも気絶しそうな私に。
私の両親はこの破吏ノ国の領主でありながら、とても残虐的な人だった。
だから、国の人々に恐れられていた。
逸見家の人間、及び、それに関わる人間に近づくな、と────・・・
「紫乃、仕事よ」
母は私の部屋に入るなり言った。仕事というのは人殺しのことである。
あれから十年。私はずっと両親によって殺しを強いられてきた。
「わかったわ」
私はそう答えて仕事内容の記されている紙を受け取った。
あの日から私は眼鏡をかけて、感情の一切を殺している。何も感じなくなっているのだ。
そのかわり、眼鏡をはずせばある程度の感情を出すことはできる。
私は両親が大嫌いだ。こんな家庭に生まれたくなどなかった。
だけど、そんなことを考えていても何も変わらない。そう私は諦めている。
私は仕事のため、前髪と後ろの髪を同じ長さにしている黒く長い髪を束ね、仕事用の服に着替えた。身動きのとりやすい服だ。
短刀や銃も隠し持ち、剣を腰に二本携えた。
準備完了。あとは殺しの場所へ時間までに行くだけだ。
私は静かに部屋を出た。
殺しの場所はだいたい人の少ないところだ。当然と言えば当然だが。
だから、人通りのないところをひたすら走っていく。
時間も夕方から夜にかけてだから、ほとんど気づかれることなく殺すことができる。
私が普通よりも身体能力が高い、というのもそれに影響しているのだろう。
今日の殺しもいつもと変わらなかった。
暗闇に乗じて相手が何もわからないうちに刀で刺し殺す。ただそれだけだ。
(また、何の罪もない人を・・・)
殺す相手は何の罪もない人ばかり。両親はそうやって国の人々を支配しているのだ。
だけど私が感じているのも罪悪感ではない。ただドロッとした血を感じるだけだ。
私が感じるのは両親の残虐さだけ。他には何も感じない。眼鏡をかけているあいだは。
私は殺しを行った日は必ず、帰ったら眼鏡をはずすようにしている。人としての感情をできるだけ忘れないようにするためだ。
昔は、何とも言えない複雑な感情が溢れてきて涙がとまらなかった。
だけど、今は涙が流れることはなかった。罪悪感などに押し潰されそうになるのは変わらなかったが。
成長とともに人としての感情が薄れていっているのは確かだ。
でも、もう今さらどうしようもない。これが私の人生だ。
ファントムという得体の知れない化け物がいるにも関わらず、人間を殺す為だけの“兵器”として育てられた私の運命だ。
両親はファントムの存在なんて、見たことがないというだけで信じようとしないのだから。
だから私は両親が目指す“兵器”と自分がやるべき、両親とは全く違う方向を目指して進んでいくことを決意した。
私は、人間を殺す“兵器”としては終わらない。