第九章 機械技師
「ファントムが襲ってきた際に国民を守れて逃げることの出来る列車のようなものを造りたいと考えているのですが」
ある日、いつものように武器製作所で武器作りの指導を行っているところに京香がやって来て言った。
「そこで、この中からそれに携わってくださる方を募りたいのですが・・・どうでしょう?もちろん、ここで働いていない国民も父上のほうで募ります」
製作所内は少しざわついた。
「一般国民もってことは、俺たちの地位が下がるみたいなものじゃないか?」
「給料も減るだろうな」
「けど、わざわざ泉水家が直々にやってきてるぞ?もしかしたら逆に良い話なんじゃ」
意見は様々だったが、あまり良い返事は聞こえなかった。
京香はそんな様子を見て、困った顔をしていた。どうしようか考えているようでもあった。
「私はいいですよ」
そんな中、私はそう返事をした。
「え・・・紫乃さん?」
京香が驚いたように、また、弾かれたように私を見た。
「もう私がここで指導することはないですし。ちょうど仕事を探そうと思っていたところなんですよ」
私がそう言うと、京香はパッと明るい顔になって
「ありがとうございますっ・・・!」
と、礼を言ってきた。
結局、この中から列車製作に携わることになったのは私を含めてほんの五人程度だった。武器製作に携わっているのは百人ほどいるから、とても少ない。
だから、ほとんどが素人の国民ということになった。
そして、早速一週間後に集まることになった。場所は物資を乗せた列車が行き来するそばの広い土地だ。
「と、いうわけで、こちらからいくつかの条件は出すが、設計からすべて君たちにやってもらう。だが、ほとんどが素人なので、しばらくはこちらから役に立つであろう人材を派遣する。あとは君たちに任せることにする」
領主はそう言って、この場を去っていった。
「なんか、すごい適当だな。放任主義ってやつ?」
「私たち女でもやっていけるのかしら。何だか不安だわ」
「もうちょっと説明してほしいよな。忙しいんだろうけどさ。これって結構重要な仕事なんじゃないの?」
不安を募らせた人々は口々にそう言っていた。
少しして領主の部下たちがやって来て、仕事着が渡された。
仕事着といっても、くすんだ黄色っぽい緑のフードつきの羽織るものだが。その下は基本的に動きやすく、汚れても構わないものなら何でもいいらしい。
だけど、だいたい男性が寒色系で女性が暖色系のものを着るようだ。
私は橙色の裾が膝あたりまでのものを着ることにした。
みんなはフードつきの羽織るものは邪魔にならないように腰のところで紐で縛っているが、私はそのままだぼっとした感じで着ることにした。また、仕事中は髪を一つに結ぶことにした。
次の日からさっそく仕事で、設計図を作ることになった。主に私を含めた武器製作所から来た五人が中心となっていろいろな案を出していく。
「領主さまからの条件は、簡単に壊れることのない頑丈な造りで、外からの侵入を防げるものであること。それから、速度が速いものであること。このあたりが重要だったかな」
一人の男がそう言う。
「だけど、速度を出したら脱輪する可能性も高くなる。速度を出すのにも限界があるのでは?」
また別の男がそう言った。
「それに、頑丈なものとなると鉄とかで造ることになるけど、そうなったら重さも考えると速度を出すのは難しくはないか?」
また別の男が言う。
「君はどう思う?」
私はそう聞かれたので、自分の意見を述べた。
「そうですね。領主さまはできるだけ早く造るようにともおっしゃっていたので、あまり難しいことはできないでしょう。とにかく、材料が重要だと思いますが」
私の意見に周りは顔を見合わせ、頷きあった。
「そうだな。とりあえず、この国で頑丈でできるだけ軽いものを調べよう」
そうして、その日は材料探しを手分けしてやった。
これから機械技師として、人々を守れる列車を造ろう。とりあえずはそれが、私のやるべきことだ。