7.状況整理、再び。
遅れてすみません。そして短いです。
チュン、チュン、ピチチチチ…
雀…、だろうか? 鳥の囀ずりが聞こえる。
朝になったのか…。
なんだろう、体中が重く感じられ、上手く動かす事が出来ない。
微睡みの中で、深呼吸をした。鼻で吸って口で吐く。数回繰り返してふと鼻腔に違和感を感じた。
なんで石鹸の香り?
ゆっくり目を開ける。
キラキラと太陽の光を浴びた黄金色。
薄く開かれた海を思わせる碧色の双眸。
目があった事で、薄く微笑みを浮かべた唇。
知らない人間だ。
「目が覚めた?」
なんか、話しかけられたぁっ!
寝起きなのか、かすれた声がセクスィー!
はだけたシャツはオプションですかあっ!?
頭撫でないで~!?
驚きを通り越して、思考は暴走、体は硬直中。
「おはよう?」
俺の頭を撫でながら挨拶する、素敵紳士。見た目は若いけど20代後半位…か?
動けないと思っていたら、腕枕で俺を抱っこしてたよ!
赤ん坊姿でも抱き枕じゃありません!
と、とりあえず赤ん坊の振り…。
いや、赤ん坊なんだけどね! 中身は地縛霊だから!
笑ってみる。若干顔がひきつってる気がする。
何が面白いのか目の前の素敵紳士は、フフっと朗らかに笑っていらっしゃる。
う、赤ん坊の振り、赤ん坊の振り…。
と、とりあえずなんか、声出さないと!
「あー、うー」
悩んでたら、声出てたあっ!?
「あ、お腹空いた? それともオムツ?」
確かにミルクは必要だし、トイレも行きたいけど!
「よいしょ」
素敵紳士は、俺を抱きあげベッドから降りた。
目線の高さが怖えです、旦那! 意外と長身でらっしゃいますね!
「怖くなあーい、怖くなーい」
背中を軽くトントン叩いて安心させるように優しく声をかけてくれる。その後机の上にあるベルを軽く鳴らすと程なく、使用人と思われる初老の男性が入室してきた。
「おはようございます旦那様。今日はお早いお目覚めなのですね」
「なんだかわくわくしちゃってね。目が覚めてしまったんだよ。」
「さようでごさいますか。モーニングティーでございます。本日はフルールドロゼの茶葉をご用意いたしました」
「うん、花の香りが素敵だね。例のものの用意は?」
「食堂にてご用意出来ております」
「ありがとう、着替えたら行くからみんなに伝えておいて」
「かしこまりました。」
一礼して去って行く初老の男性。
流れが流麗過ぎて突っ込むヒマすらなかった。
初老の男性と話している間も俺を抱きあげ、あやしながら話していた素敵紳士は、椅子に座り俺を膝の上に乗せモーニングティーを飲み初めた。
ふんわりと花の甘い香りが漂う。
じーっと、素敵紳士をみていた俺に気づいたのか、文字通り花がほころぶような笑顔で微笑み返してきた。
まぶし過ぎて直視できません。
たーすーけーてー!?
「ふふっ、おとなしい子だね?」
ほっぺたくすぐらないでー!?
おとなしいというより状況が飲み込めてないんだよ!?
ここはどこなんだー!?
「ぷうっ」
ぐふっ、変な声を出してしまった。不覚!
「ご機嫌損ねちゃったかな?」
赤ん坊らしくない思わず死んだ魚の目になった自覚はある。
素敵紳士はこの際無視して、もう一度状況の整理をしよう。
えーと、ミルク貰う為に声をかけたはいいが、頭の怪我のせいか中々貰えず、とりあえず噴水で怪我を洗ってたら教会の子供にドナドナされて一時的に保護。安心したのもつかの間、自分から墓穴を掘って騒ぎになって、逃げてきたのはいいが、どっかの家の塀の所で力尽きて寝た。
その後の記憶がありません。以上!
って、積んでるじゃん!
俺、拉致られたの!?
ぐるぐると考えこんでいたらまた、抱きあげられた。
いつのまにか着替えたらしい素敵紳士によって部屋の外へ連れ出される。
広くて長い廊下をしばらく進み階段を降りて、左手の奥の広い扉をくぐれば、そこは広々とした食堂だった。そこから見える庭の風景がなんとなく記憶の隅に引っ掛かる。
竹や池がある…。
力尽きる前に見た気がするんだが…。
「まずは朝食のまえに、キレイにしよっか?」
なん、だと…!
食堂の側にある洗面所に連れていかれ、服をむしりとられそうになり、暴れるが抵抗むなしく真っ裸にされた。
ぎゃああっ!?
ハガキ返せえっ!
「かう~!」
服の中からハガキを見つけた素敵紳士は少し眉尻をさげ、俺の頭を撫でる。
「そっか」
何かに感づいたのだろうか?
「…草?」
靴下の中から出てきた草に首をかしげる素敵紳士。
「怪我もひどいな…。少し染みるけど体を洗ってから治療しようか?」
真っ裸状態の俺を抱きしめ、背中をトントンと叩いてあやす。
そのまま洗面所の先にある、浴場に連れていかれ中で待機していたと思われる使用人に隅々まで洗われました。
ちなみに素敵紳士は、洗われている俺を横目にニコニコしながら自分もお風呂に入っておられやがりました。
精神的にも肉体的にもぐったりした俺に、更に治療という名の地獄が待ち受けていた。
暫く放心状態になったのはいうまでもない。
次回もヘンリー君がんばります。