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死神ベイビー!  作者: 鷹
死神と地縛霊
3/14

状況整理 3

虐待と思われる表現があります。ご注意下さい。そして現実にて決して、実際に実行しないようにお願いします。

『ともかく早く出てっ!?』

死神の大鎌を放り投げ、俺の体を持ち上げてガクガク揺さぶるブリード。

「うりぇ…気持ちわりゅぅ」

三半規管が~崩壊するぅ~。

赤ん坊特有の頭の重さと、遠心力で世界が廻る廻る~うぇ~。

口から出てはいけないものが込み上げてきた。

ヤバい。ギブです。

ブリードの手に降参の合図を送る。

『あ、ごめん』

揺さぶるのをやめ、赤ん坊(憑依中)の俺をベンチに降ろしてもらった。

ブリードさんや、赤ん坊にこんな事したら虐待になるぞ…。

つーか、揺さぶられっ子症候群で死ぬわっ!

生後6か月位までの赤ん坊を、揺すり過ぎると脳の血管が切れて内出血が起きる。赤ん坊の脳って頭蓋骨と脳の間に隙間がある。脳が発達する為だ。首の据わってない赤ん坊の頭の中は、頭蓋骨の中に脳が浮いているような状態なんだ。だから激しく揺さぶられると頭蓋骨の内側に何度も脳が打ちつけられ、脳の血管や神経に損傷が起きる。

とっさに、ポルターガイストで体を庇わなかったら死んでたぞ。

「殺ちゅ気きゃ、ぶりーちょ(殺す気かブリード)」

歯も生えてない、この舌ったらずの言葉が憎い。

どうやら、俺が憑依した事で言葉の発声気管や、身体機能にも干渉してしまっているようだ。

不可抗力だけど。

首の据わってない赤ん坊が、喋ったり立ったり出来るわけないもんな。

『ぶ、ぶりーちょ…。』

ずどーんと、両手両膝をついて落ち込むブリード。

俺は首が据わってない頭を、なんとか平衡にしブリードの頭を撫でてみた。サラサラだわ、こいつ。確かに[ぶりーちょ]ってのはなんか、微妙にカッコ悪いよな。


「わりゅい、ふきゃきょーりょきゅりゃ(悪い、不可抗力だ)」

『うん、解ってる。早くその体から出ないと、その子の身体が持たないよ?』

よろよろと立ち上がって放り投げた死神の大鎌を拾うブリード。

確かに油断してたとはいえ、赤ん坊に憑依しちまったんだよな。不可抗力だけど。


──憑依、か。久しぶりだから忘れてたな…。

憑依は生者の魂に触れる事でとり憑く事ができる。

もちろん簡単ではない。

憑依するのにもある程度条件があり、その1つとして、生者と霊との相性がある。生者との血の繋がりがあれば憑依しやすい。守護霊なんかそうだな。だが、逆も然り。血縁の怨みの憑依は強い。繋がりも強いから、強制的に憑依出来てしまう。一番厄介なのは生者の魂に寄生し、徐々に侵食憑依される事だ。

自分でも気付かないウチに根をはり、水を吸い上げるように、魂に侵食する。すると、だんだんと体内に[厄]がたまってゆき、身体機能の低下、体調の変調など起きる。病魔にもおかされやすい。


血縁関係がない憑依は、生者の念の強さに霊が惹かれてやってくる。これも押して知るべし。

興味本位で肝試しなんかに行くと、顔に生気がなくなって数日後には、いきなり自殺って事もある。

病院とか樹海は特に危ないぞ? 自分と同じようにあわせてやるー! っていう霊がてんこ盛りだからな。


ああ、それと動物霊もなかなか危ない。何らかの事故での救出や保護、ちゃんと世話をして天寿を全うした動物なら、人に恩を感じ守護動物霊として守ってくれるが、虐待や多頭飼育などで飼育放棄された動物は人間を信用していない。野生ならその環境で育って、自然界の弱肉強食、食物連鎖ヒエラルキーを本能で知っているからそんなに危険は無いんだがな。他にも、蛇や狼なんかは神と祀られている所が多い。動物信仰はどの国にもある。生け贄信仰は怨みや後悔が強いから強力だ。

とある国では、妊婦がワニやトカゲ、魚を産んだって話もある。7ヶ月~8ヶ月の早産か、出産予定日が1ヶ月過ぎても産まれず、やっと産まれればそれは動物でどれも一週間ともたずに亡くなったって話もある。


まあ、そういう訳ではやく赤ん坊からでなきゃな。

憑依中は身体の体温が低下する。赤ん坊の体力では持たない。

魂に根付いてなければ、浮かびあがるイメージで離れられるはずだ。

ジェットコースターでふわってなる感じを思い浮かべてもらえばわかりやすいか。眼を閉じてイメージする。


ふんっ!

「ありぇ?」

ぬんっ! むぎぎぎぎぎ…!(イメージ集中)

『ヘンリー…?』

ピョン、ピョコピョコ!(ジャンプしてみる)

うももももも…っ!(精一杯背伸びしてみる)

ぜーぜーぜー。(疲れた)

「……でりぇない(…出れない)」

ギギギっと、油の切れた機械みたいにブリードを見上げる。

『え?』

「でりぇないでちゅ…。(出れないです…)」

『何だって~っ!!?』

叫ぶや否や、ブリードは俺の、いや赤ん坊か。両足をガシッと掴み逆さまにシェイク。

「ぐりぇ」

ブリードさん、俺は調味料じゃないぞ。

そしてそのままジャイアントスイングで振り回す。

「やめりぇ~っ!?」

ブリードさん、乳幼児虐待です。死んでしまいます。赤ん坊にこんな事したら捕まりますよ。

またしても揺さぶられっ子症候群になりかけ、ポルターガイストでガードする。(ポルターガイストは霊的現象をさすが、俺たち幽霊の能力みたいなものだ)


それでも憑依から抜けだせない俺の様子に、今度は俺を抱え高く上昇し、イメージングジェットコースターではなく、リアルジェットコースターを始める。物理的に。


ブリードさん、アトラクションの身長制限知ってますか?

身長が低い程、耐えられるGが少ないんだぞ。

Gに耐えられないと、失神する寸前の状態をグレイアウトっていう大きなGが体にかかることで血液の循環が滞って、脳内の血流量が低下するんだぞ?

脳ミソの血流が低くなると、視野が極度に狭くなったり、意識が突然薄れたりする。

特に子供の場合、脳が未発達なんだから、大人より小さいGでグレイアウトするんだぜ。大人でもなる事があるのに、赤ん坊にやるんじゃないっ!

虐待から殺人になるわっ!

リアルジェットコースターが終わる頃には、俺はもうぐったりしていた。多分白目も剥いてただろうな。

正気に戻ってから、ブリードに赤ちゃんパンチをしたのは言うまでもない。


『なんで、出れないのーっ!?』

ブリードが喚くが、それは俺が知りたい。

以前興味本位で何度か憑依した時は、すんなり出れた。

もちろん、肝試しに来た奴らにだけど。でも、俺が憑依すると、逆に俺の方が追い出される感じなんだよな。

俺とこの赤ん坊、なにかしらの原因があるはずだ。冥界で調べてもらった方が俺達があれこれするより確実か。同時にすんげー説教が待ってると思うが。


「ぶりーちょ、いっちょめーかいにいっちぇちらべたほうがいいちゅ(ブリード、一度冥界に行って調べた方がいい)」

ブリードの頬には赤い小さな紅葉の跡があるが、気にしないように。

『……やだ』

返事はNO。

「なんりぇ?(なんで)」

『確かにその方が確実だし、速いと思うよ? でも、僕が冥界に報告に行ってる間ヘンリーは? 独りになっちゃうでしょ?』

まあ、そうなんだが。

『それに閻魔様の指示が出るまで、どれだけ時間がかかるかわからない。今のヘンリーは肉体があって、生者には赤ん坊にしか見えないんだよ? この子の中に君の精神が入っていても、体力や筋力はほぼ赤ん坊のままだ。この辺りには野犬も出るし危ないよ?』

「それちゃあ、いちゅまでたっちぇもこのままりゃ。(それじゃあ、何時までたってもこのままだ)」

『だけどっ!』

「ぢかんがない、ちゃのむぶりーちょ(時間がない、頼むブリード)」

じっと、ブリードの瞳を見つめ返事を待つ。

数秒、数分。感覚的には長いように感じた。

何を言っても折れる気配を見せない俺に、はあ…とため息をつき、眉尻を下げ仕方がないといった表情で、俺と目線を合わせるようにしゃがみこむ。

『…絶対、ここから動かないでね? 』

「ぶりーちょ…」

『なんでこの赤ちゃんに拘るのかは僕には理解出来ないけど、人間としては間違ってはいないんだよね。君は優しいから…』

何かを考えるように、一度眼を伏せる。

『ちょっとじっとしてて』

ブリードは俺の左耳の裏側に指先を当て、何か呟いた。

『さ迷える魂達ローグウィスパーの目印。僕の管轄にしておいた。この印があればもし迷子になっても僕にはわかるから』

ソレって…。

「ばきゃきゃっ!? あんにゃいにんがちょんなきょとっ…! (馬鹿かっ!? 案内人がそんな事っ!)」

『僕の事は大丈夫だから。ヘンリー、いい子で待っててね? それじゃ行ってくる。絶対ここから離れないでね』

いうが速いか、ブリードは闇に溶ける。大鎌を空中でひと降りして、消えてしまった。


あいつ、さりげなく俺の頭撫でやがった。

そんで、大馬鹿野郎だ。

冥界案内人がさ迷える魂達ローグウィスパーでもない、生者に印を与えるのは、冥界の条例違反になる。下手をすれば反逆行為だ。死を見守る、告死天使アズライールに睨まれ兼ねない。

「ぶちでいてくりぇ、ぶりーちょ…! (無事でいてくれ、ブリード…!)」

俺の小さな祈りのような呟きは、夜の帳に溶けこむように紫陽花公園の中に消えていった。


































ヘンリーの言葉は状況整理編4から少しずつ、変わっていきます。赤ちゃんの身体になじんでないため状況整理編の3では捕捉をつけてますが、大分読みづらいと思いますので。

首の据わってない赤ん坊が立ったり跳ねたりしてますが、ヘンリー君が憑依しているからであり、実際の赤ん坊は出来ません

虐待表現、申し訳ございません。



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