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死神ベイビー!  作者: 鷹
死神と地縛霊
2/14

状況整理 2

よほどの霊感がないと見えない俺たちは、近づいてみることにした。

薄手のストールを頭からかぶってるので顔は見えずらいが、細い手首から推測するに、かなり若い女だった。

ベンチに座り、バスケットの中身を撫でるような仕草をしている。

中身が気になるが女の影になってるので見えない。

女はバスケットの蓋を閉めしばらく見つめていた。俺の気のせいじゃなければこころなしか震えている。

「ごめんなさい…」

小さな呟きは本当に聴こえたかは解らない。

ゆっくり立ち上がると、しばらくバスケットを見つめその後、入り口の方へ歩きだした。


オギャ…キャウ…

『ん~? 赤ん坊の声か? どっから…』

その泣き声を聴いた女は、一瞬振り返ったが逃げるように走り去って行く。

『……まさか』

俺はバスケットの蓋をポルターガイストで無理やり開け、中身を確認する。

『ブリード、あの女追ってくれ!』

『突然何? って、それ…』

バスケットの中身を見たブリードは僅か眉を潜めた。

『頼むブリード。俺は公園ここから離れられない。お前しか、頼めない!』

『…わかった。ソレにれなかったようにね』

しぶしぶとだが、女を追っていくブリードの後ろ姿を見送る。


地縛霊の俺はこの公園から出られない。

歯噛みしながらも、バスケットの中を再度見る。

やはり、赤ん坊だった。

大きな眼をクリクリさせて、自分の左手を指しゃぶりしている。

ポケット型の毛布の上には、セピア色の時計塔のポストカードが添えられていた。

カードの裏にあの女、もしくはこの赤ん坊の手がかりあるかも知れない。風を起こして、カードを裏返してみる。


〔私には育てられません。どうか、この子を助けてください。──身勝手な母より──〕


あの女、この赤ん坊を捨てたのか。

どんな理由があるにせよ、少しは人の出入りが多くなったとはいえ、 いつ発見してもらえるかわからない、この奥まった場所に捨てた。

フルール国にだって、養護施設や赤ちゃんポストはある。教会だってある。

そこに預けないとすると、犯罪者か、未成年か、堂々と表に出せない理由があるって事だ。


いつの間にか、もう辺りは暗くなっている。

夏の盛りも過ぎたとはいえ、夜は冷える。赤ん坊は自分で体温調節ができない。風邪を引いてそのまま死ぬ事だってある。よしんば、脳にダメージが起きて、何かしらの障害が出るかも知れない。


カードを見ながら自分の考えにふけっていると、ふと視線を感じた。

ブリードが帰ってきたのかと、振り返るが浮幽霊や動物霊がいるだけで、誰もいる様子はない。


「たゃぁ」

赤ん坊が、鳴いた。違う、語弊。しゃべった。

俺は、じっと赤ん坊を見つめる。

まだ髪の毛も薄く、首は据わってない感じだ。

もしかしたら病院で産んですぐここにきたのかもしれない。

バスケットもよくよく見れば、ランチ様の大きめのやつだ。

赤ん坊は両手をバタバタさせている。


『腹、減ってるのか? 悪いが、俺は何もしてやれないぞ?』

幽霊の俺は、生者には触れられない。肉体が無いんだから当たり前だが。

うーん、でも腹減ったりオムツとかだったら大泣きするよなぁ、普通。

目の前の赤ん坊は、大きな眼をクリクリさせて何かしらに興味を持っている感じに見える。

はて、興味…。

え、まさか、俺? 俺が見えてるのか?


確かに、転生したばかりの魂は新しい肉体に定着するまで、3~4年はかかる。

ある程度成長して、小さい時の記憶を遡れば、幼稚園児以前の記憶が思い出せるかどうかが目安だ。

そこから徐々に、新しい肉体へと魂の定着が始まり、自我が確率してくる。

そこから考察するに、魂との会話が出来る死神達がいるんだから、幽体が見えていてもおかしくはない。

確かに、小さい子どもは何もない所をじっと見てたりとかよく聞く話だ。




一応確かめてみるか。

ポストカードを使って俺自身の顔を隠し、人様に見せられないような、変顔をしてみた。

カードをずらして赤ん坊と見つめあう。(まるでひょ○○りはんと思うべからず)


「キャッキャ、たゃぁい!」

うん、喜んでおる。

今度は手を赤ん坊の前で、スーッと左右にゆっくりと動かしてみる。

小さい手をバタバタさせて目の動きは、俺の手を追って来ている。やはり、見えているみたいだ。


『ヘンリー!』

遠くから、ブリードの声が聴こえてきた。帰ってきたみたいたな。

死神のカマに乗って、俺の方へ向かってくる小さな姿が見える。片手をあげて、ブリードが到着するのを待つ。

ふわりと地面に降り立ち、俺の方へ歩いてくる。

『──ごめん、見失った…』

顔をうつむかせ、小さく呟いた。

『…そうか。ありがとうな、追ってくれて』

見失ってしまうのは承知の上だ。古城跡地だけあって公園ここは無駄に広いし、死角になる場所だってあるのだから。

俺の我が儘で、ブリードは追ってくれたのは事実なのだからお礼は当然だ。


俯いていた顔をあげて、『でも』と、俺の顔をみて言う。

『ノルデン地区に入って行った所までは追っていけたんだけど、いり組んだ道に入っちゃって…、そこで見失っちゃった、ごめん』

『…ノルデン地区か。政界人や富豪が関わってるのかねぇ?』


ハイドランジアは時計塔を中心に、東はオステン、西はヴェステン、南はズューデン、北はノルデンの、4つの地区に区切られている。

時計塔は中心街だけあって、医療施設や学校、金融機関、商店街がある。

海に面した西のヴェステン地区は漁業や貿易が盛んな地区だ。

山と森に近い東のオステン地区は、農業や林業、酪農が盛んだ。ハイドランジアの衣食住の生産の要とも言える。

南のヴェステン地区は、あらゆる製造業が集まっている。紡績、工業、造船然り。

そして、北のノルデン地区。

ハイドランジアの政治や経済の運営等、国を動かす機関が多く集まっている。

情報機関も入っているが、情報は武器であり、弱点でもあるということだな。よって、防衛や警備も厳重だ。

あとは、それぞれの地区の境目。車や蒸気機関車等、主要交通機関が整っており、ハイドランジアの防衛、警備施設がある。ハイドランジア郊外は、ポツポツと小さな村があるが、貧富の差はあれど、差別は然程ないと思う。


『どうするの、この子? 絶対面倒事だよ。狩っちゃう?』

ブリードさん、狩るって。

『狩るなよ! つーか、冥界案内人がんな事したら大罪だろうがっ!? 』

『冗談だよ~』

と、ヘラリと笑うブリードだが、その笑顔が胡散臭い。

死神の大鎌、ゆらゆら揺らすな。怖いわ!

『あー、こいつ、俺達の事見えているみたいだぞ』

話題を無理矢理変えて、赤ん坊を親指で指さす。

『……マジ?』

『マジだ。見てろ』

先程と同じように赤ん坊の目の前で手をゆっくり動かすと、やっぱり視線は指を追っている。


『うん、やっぱり狩ろう』

真顔のブリードに、俺は無言でデコピンをかます。

『いっ、たいなあ…。よっぽど魂との繋がりが強いんだね。全世はかなり霊力があったのかな』

『かもな。ほら、アップップ~!』

赤ん坊に顔を近づけて変顔すると、キャッキャッとご機嫌に笑う。

そして、おれは油断していた。

赤ん坊のちっこい手が、俺の顔をペチペチしてきたのを。

『おー。元気いいな~!』

瞬間、何かに引き摺られ閉じ込められる感覚。

『──っ!? ヘンリー!』

ブリードが、俺の手を掴もうとしたが空をつかんで終わった。

何故か、ブリードを見上げてる俺。

硬直するブリード。

お互いに見つめ合うこと、数秒。

「なんちゅかこれえーっ!!?」

『ヘンリー! 君、とり憑いちゃったねえぇっ!?』

お互いの声が重なった時、ハイドランジアの古城公園にいた地縛霊が一体消え、冥界は大混乱におちいった。
























状況整理編は説明表現が長くて申し訳ないです。話のキーポイントになるためないとストーリーが進まないという。地区の名前はドイツ語の東西南北です。ハイドランジアのイメージは日本でいうなら、明治大正時代の東京あたり。背景は中世ヨーロッパな感じです。

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