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死神ベイビー!  作者: 鷹
死神と地縛霊
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閑話 6-02. アリエルの不安 2

お待たせしました。

各地に散らばっていた死神達が冥界の門の上空で、怨霊レムレース達を凪ぎ払ってます。ハデス様から怨霊レムレース討伐の指示が出たのでしょうか?

冥界の門の前まで飛んで行きましたら、人の体に鹿の頭のアクタイオーン様がいらっしゃいました。

手が蹄ですが器用に何か書いていらっしゃいます。

『アクタイオーン様』

『門をでるのはダメだめえぇ』

『あ…、いえ。アクタイオーン様』

子ども位の小さな体とつぶらなお顔を、かしげて近づいてくるお姿は大変可愛らしいですが、こう見えても邏卒らそつですからね、あの可愛らしい蹄から繰り出される蹴りはとても強力なのです。

『何かご用なのめえぇ?』

首を反対にかしげ話かけてきてくださいました。

『ええ。死神統轄科所属、死神案内人ブリード・マクスウェル様がお着きになっておりませんか? こちらに向かって来ているはずなのですけど…』

『めめめ? 捕まえましためぇ?』

『はい?』

捕まえたとはどういう事でしょうか? その時マンティコア様とカリュドーン様がいらっしゃいました。

『アリエルではないか。ハデス様の指示通り真経津鏡まふつのかがみで違反者を捕らえたぞい』

マンティコア様が、ゴズ様とメズ様をしっぽの先で指しています。ゴズ様が鬼棒を地面につけて、牢屋変わりの禁固室の前に立っていらっしゃいます。メズ様はその禁固室の中に容れられた違反者に何か話していらっしゃるようです。


『違反者第1号だプイ。指示を受けて4分後の最速違反者だプイ』

カリュドーン様が土を蹄で掻きながらおっしゃっられました。少しご機嫌が悪いみたいです。

今にも突進して来そうで怖いです。

真経津鏡まふつのかがみの裏鏡を門の上に仕掛けたらソッコーじゃ。やはりメズにレプリカを持たせたのが正解じゃったの』

あああぁっ、マンティコア様の悪いクセの犠牲者がっ!

『そう、なのですね。違反とは何をしたのですか?』

なるべく表情に出さずにしていますが顔がひきつってしまいます。


それにしても…、真経津鏡まふつのかがみに照らされた違反者ですか。

内面を映し出す真経津鏡まふつのかがみの裏鏡は、一部の官吏にしか伝えられていませんが、冥界仕様に設定されてます。真経津鏡まふつのかがみには鏡作神きょうさくしん温羅うら様という鏡の神が宿ってます。


鏡に映るものは全て裏返ります。この裏返るという言葉は本来、温羅うら返るという言葉から来ています。東の大陸にある鬼退治物語の鬼のモデルとされた温羅うら様は、鏡作りの高い技術を持っておられました。ある日お国争いか何かは資料が不足しているので定かではありませんが、相手方に信義を無視され、温羅うら様は切り殺されてしまったのです。この事から裏切り=温羅うら切りという言葉か生まれたそうです。


話がそれしましたが、鏡作神きょうさくしん温羅うら様が冥界にいるもの全て、死神や亡者、餓鬼、十王に至るまで冥界の規律、法律に違反したものを知らせるために、発光して知らせてくださいます。

軽いものなら淡い光、重いものなら太陽のようにまぶしく、光の度合いでお知らせしてくださいます。

常ならばここまで厳しくはないのですが、今は冥界の非常事態の為かなり厳しく判断しているのでしょう。

信義が強い方ですからね。

カリュドーン様が、持ち運び用の浄玻璃鏡じょうはりきょうを私に見せてくださいました。

この持ち運び用の浄玻璃鏡じょうはりきょうも普段はマンティコア様がしっかり管理して、余程の事かない限り冥界の外には出ないのですけれど…。


『死神案内人が馬鹿をやらかしたプイ。アリエルは怒っていいプイ』

『私に関係があるのですか?』

カリュドーン様が地面をまだ掻いていらっしゃいます。掻きすぎて30センチ程の穴になってます。後で埋めてください。

『そうだプイ。無断でまだ死ぬ予定ではない生きている赤ん坊に、さ迷える魂達ローグウィスパーの印を付けたんだプイ! 』

ピキっ。

告死天使アズライールに喧嘩、売ってます…?』

思わず低い声が出たせいか、カリュドーン様が地面を掻くのを止めてマンティコア様の後ろに隠れてしまいました。あ、浄玻璃鏡じょうはりきょうもマンティコア様に渡してます。


『お主が怒るのも無理はないがの~。しかもその馬鹿はブリード・マクスウェルじゃ。何か理由があるのかも知れんぞい。たしか、〝あやつ〟とよき友じゃったろ』

ピタリと、動きが止まってしまいます。

『違反者はブリード様、なのですか?』

『そうだめぇ。捕まえましためえぇ』

アクタイオーン様がゴズ様とメズ様がいらっしゃる場所を可愛らしい蹄で指していらっしゃいます。

『……後でお仕置きしましょう…。フフフッ(ボソッ)』

あら、何故アクタイオーン様までマンティコア様の後ろにお隠れになっていらっしゃるのですか? マンティコア様もお顔がひきつっていらっしゃいますが、大丈夫ですか?

顔面神経痛でしょうか…。 無理はなさらない方がいいですよ?


『そ、それより、ブリード・マクスウェルにご用があったんじゃなかったのかめめぇ?』

生まれたばかりの小鹿さんみたいにプルプルしながらアクタイオーン様がおっしゃっられました。

何故震えていらっしゃるのでしょうか? お花摘み(トイレ)なら我慢はいけません。

『ブリード・マクスウェル様を閻魔様がお呼びなのです。取り次いでもらえますか?』

『ふむ、ワシが取り次いでこよう』

マンティコア様がのっそりと立ち上がってゴズ様とメズ様の方に向かって行かれました。

アクタイオーン様とカリュドーン様は何故か顔をひきつらせてプルプルしていらっしゃいます。

『アリエル、オイラは仕事に戻るプイ!』

『ミーも、戻るめえぇっ!』

『あ、はい。お疲れ様です。カリュドーン様、掻いた穴は埋めていってくださいね! お仕事頑張ってください!』

ニコリと微笑むとお二方ほ何故か顔を青ざめさせて門の方に走って行ってしまわれました。お仕事熱心です。私も見習わないといけませんね。


一人決意を新たに握り拳を握っていると、マンティコア様がゴズ様とメズ様の前で右前足で手招きしていらっしゃいます。

『アリエル、こっちじゃ』

取り次いでもらえたようです。

『お疲れ様です。アリエル様』

メズ様が挨拶してくださいました。

『今、倶生神に連絡を頼もうと思っていたのです。アリエル様が来てくださって助かりました』

『ぬん』

ゴズ様、ぬんっていうのは挨拶ではありませんよ。

『ブリード様が違反したというのは本当なのですね?』

『残念ながらそのようです。こちらをご覧になってください』

そう言ってメズ様がマンティコア様にお願いし、持ち運び用の浄玻璃鏡じょうはりきょうを私に見せてくださいました。


そこにはしっかりとさ迷える魂達ローグウィスパーの印をつけているブリード様の姿が映し出されています。赤ん坊に何か話していらっしゃるようですが残念ながら声は聞こえないのでよくわかりません。

でも、ブリード様は今まで違反等した事がない、真面目な模範とも言える死神案内人です。

頭の回転も早く状況判断も早いエキスパートととも言える方が何故違反をしたのでしょう?

この赤ん坊に何かあるのでしょうか。

『ブリード様は何かおっしゃっておりましたか?』

『……。閻魔様に重要な話があるとしか。詳しい事は話されていません』

メズ様がお耳をしゅんと垂れ下げて申し訳なさそうに言われました。

『問題をおこしている以上釈放は難しいですよね。ですが閻魔様もブリード様をお呼びになっていらっしゃるので、問題ありません。私を中にいれてください』

メズ様はゴズ様に目配せをすると、ゴズ様が禁固室の錠を開けてくれました。

『ブリード・マクスウェルの死神の鎌はどうする?』

ゴズ様か取り上げた鎌を私に見せ聞いて来ます。

『私が預ります。逃げられたら困りますから。すみませんが一緒に中に入ってください。隙をつかれて脱走も考えられます。マンティコア様はその大きな体で入り口をふさいでくださいね。では、いきますね…』


錠をはずし、持ち手のついた長く分厚い鉄板を横スライドさせた後、更に上に窪みに嵌め込みます。

嵌め込んだ棒は下に落ちた後持ち手部分を更に窪みに入れるとガチリと音をたて鍵が開きました。この禁固室は東の大陸の工芸品のからくり箱を模して、一定の手順を踏まないと開かない仕組みになっています。

数ある禁固室事に違う仕組みが施されて、絵を揃えたり、特定の部品を嵌め込んだりと様々で、特定の官吏にしか開け方を知らされていません。因みにこれを作ったのはマンティコア様です。策士いじわるな方ですよね。


両開きに見える扉をゆっくりと横にスライドさせると、視界に飛び込んできたのは、床と壁が手の跡をした血で汚れ、膝を付き俯いているブリード様がいらっしゃいました。

手の爪も皮も擦りむけ、剥がれ痛々しいですが、私達は冥界の官吏は元は亡者です。すぐに傷が再生します。

ブリード様は再生が追い付かない程、壁を叩きつけていたのでしょう。

私はブリード様を見据え一呼吸した後、なるべく威厳が出るように告げます

『ブリード様、閻魔大王様がお呼びです! 至急、召喚に応じて下さい!』

ゆっくりとブリード様が顔をあげます。

唇を強く引き結んでるせいか、口元が血で滲んでいらっしゃいました。

『アリエル……分かった』

ブリード様の目の焦点が私と合うと、少し安堵したようなお声で小さく答えました。

『…あなたが条例違反をするくらいです。余程の事があったのでしょう?』

ゴズ様とメズ様がブリード様の両手を特殊な手錠を付け拘束し、ブリード様を立たせると禁固室の外に出ます。


『…ヘンリーが……』

ポツリと小さく呟かれたブリード様の言葉を拾った私は思わずブリード様の襟首を掴みました。

『…っ!? ヘンリー様に何かあったのですか!? 詳しい経緯をご存知なのですね?』

自分でも焦っているのがわかります。

ブリード様は首をかしげ私の腕を手錠ごと握りました。

すぐにゴズ様が引き離し、ブリード様を羽交い締めにします。

ですが、ブリード様は私もまっすぐ見据えました。

『冥界で何かあったの? 普段なら冥界の門が開け放たれてるはずなのに、警備も監視も厳重になってる。ヘンリーの事と何か関係あるの?』

ブリード様の問いに私は答えられません。

やはりこの方は聡い方です。

『…私からは何も申しあげられません。閻魔大王様の元に参りましょう。ハデス様が詳しい経緯をご存知です』

それ以上は答えず、私はゴズ様を伴ってブリード様と閻魔庁に戻ります。

ブリード様もそれ以上は何も語らずおとなしくについてきてくださいますが……。

い、痛い。

後ろからの視線が痛いです。

ブリード様、めっちゃ私を見てます。

ガン見ですか!?

助けてください! ハデス様~!!





鬼退治物語=桃太郎です。鏡に関する妖怪とかで真っ先に思いついたのはゲのつく鬼の『鏡爺』とか、白雪姫の鏡の精。それかヒミツな女の子の鏡のコンパクト。

なんかイメージと会わなかったので鏡に関する資料を探していたらヒットしたのが『鏡作神』という日本で実際祀られている神様がいらっしゃいました。

更に調べると温羅様というのがでてきたので使わせていただきました。

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