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死神ベイビー!  作者: 鷹
死神と地縛霊
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状況整理 1

初投稿。話の都合上説明文多いです。



「ミルクくだちゃい」

「っひぃぃっ!?」

「………。」

悲鳴をあげて逃げてく女、そして呆然と見つめる俺。

はあ、もう何人目だコレ。みんな俺の顔見て逃げおってからに。

だあっ! もうっ! こうなった原因は(いや、半分は自業自得なのだが)みんなあいつのせいだ畜生めっ!!

…って独りごちても始まらない。うん。状況を整理しよう。


海に囲まれた島、フルール国。

その中心部であるここハイドランジアは、別名『紫陽花あじさいの都』とも呼ばれている。

移り気という意味を持つこの街はその名の通り、人、経済、商業…いろんなものが流通する巨大都市だ。

大陸との中継地として色んな国との交易が盛んな、何処にも属さない中立の街でもある。

そして中心部から少し外れた紫陽花公園に俺はいた。

───そう、いたのである。

わざわざ2回もいうのは、今の状況があり得ない事で、本来なら出来る訳がないからだ。

……だって俺、幽霊だし。

しつこいようだが、俺ヘンリー・ルーペントは…、とっくに死んでいるのである。




事の発端は2時間程前になる。

時刻は夕方、午後19時を少し過ぎた頃。

夏の厳しい日射しも和らぎ、空にオレンジ色のグラデーション。

古城跡地を利用したこの紫陽花公園は、人工的にあまり手が加えられていない自然公園だ。

春はチェリーブロッサム(桜)、夏はクレイエルジャポニカ(榊)、秋はメープル(楓や紅葉)、冬はカメリア(山茶花さざんか)と、四季それぞれに鮮やかな彩の変化を見せ、都民の憩いの場として休日、平日問わず多くの人たちが利用している。

その紫陽花公園の上空で俺はいつもの如く、ふよふよ漂っていた。


「相変わらずここからの眺めはいいね~」


上空で寝そべりながら街を見下ろせば、煉瓦レンガで舗装された遊歩道の先にハイドランジアの象徴ともいえる時計塔。1時間置きにからくり仕掛けが作動し街中に刻を知らせてくれる。

遠く、向こう側にはオレンジに染まった海が見えてかすかに潮騒と海鳥の声が聴こえてくる。


少し反動をつけて起き上がると、ゆっくりと公園に降り立つ。

元は見張り台だった所だ。

城壁の一部が取り除かれ、高さが1メートル程の安全柵がわりになっているため景観も損なわれない。

外からは見えずらく、ここまでの道も隠されるようにジグザグな生垣がたっており、その上急勾配であるために滅多に人が来ることはない。


来るのは公園の管理スタッフや、昔からここいらに住んでるご近所さんの年寄りとか、その辺りだ。それか好奇心旺盛な奴ら。

口コミで広がっているのか、少しマナーが悪いのがここ最近多くなってきている。

…というのも数日前この場所に、肝試しと称して散々荒らし捲った奴らがいたからだ。



───夜はこの世とあの世の境目が曖昧だ。

ましてやここは古城跡地…。浮遊霊や地縛霊がわんさかいる。場所は控えるが墓地だった所もあるのだ。

そこに興味半分で肝試しなんかしてみろ、その心の隙間に付け込んだ霊達が集まる。

それに気づかないこいつらは、何も起こらなかったと言ってカラースプレーで悪戯しやがった。オブジェや石垣に落書きしたり、ベンチひっくり返したりやりたい放題。

だがそんな事をすれば霊達も黙ってはいない。

多くの霊はその場所に愛着…というか執着を持っている。それを汚された霊達は激怒し、祟ったり憑依、最悪の場合あの世に引き摺り込もうとする。

荒らしや悪戯は霊達を愚弄する行為だ。その場所に落ちている物を持ち帰ったり拾っても、霊によっては、たとえ石ころ一つでも執着の対象なのである。

よく山登りとかで記念に石持って帰ったら腹痛や頭痛で寝込むなんてのも、よくある話しだ。

他にも線香をあげたり、一点を見続けたり等の行為も逆に危ない。霊達が自分に気づいているのかと興味を持ってしまう。無関心を貫くか、おまえに興味はないと冷静に平常心を持つことが大事なのだ。


話が脱線したがこの時はカオスだったぞ。見てるぶんには面白かったがな。

ピタリと風が止んで、快晴なのにどしゃ降りの雨。

止まらないラップ現象。スプレー缶破裂。逃げまわる連中と、暴走する霊達。

一番面白かったのは、スプレー缶が破裂した圧力の勢いで連中の1人に当たって倒れて気絶。

しかも赤色のスプレー。端からみたら血だらけに見える訳だ。

あっという間に殺人現場(仮)の出来上がり~ってな。

残りの奴らは更にパニック。腰を抜かして立てない奴や、失禁してた奴もいた。


まー、サマータイムだったしすぐ、空が明るくなったから霊達の力も弱まったけれども。

朝、掃除に来た管理人が惨状をみて仰天。すぐに警察に通報して、こいつらは器物破損と建造物損壊容疑で現行犯逮捕。

こいつら捕まった時に、音がーとか、浮いたーとか色々と叫んでいたが、怪奇現象なんて証拠が一番の警察が信じる訳がない。

好奇心は猫をも殺す。過剰な好奇心は身を滅ぼすって事だ。まさかことわざ通りの事を体現してくれた現場を直に見るとは…。

余談だがこの事件がきっかけで、あまり人が来ないこの場所も多少だが賑やかになったぞ。

…カップルが多いがな。…ケッ。


城壁の上に腰かけ、足を放り出して街を眺めた。

あの時の出来事を思い出し、ふっと笑いがこぼれる。


「何ニヨニヨしてるの? ヘンリー」

「ぬおっっ!?」


いきなり背中をどつかれた。

その勢いで城壁から落ち、慌てて体制を立て直す。幽霊じゃなかったら死んでるぞ。良い子は真似しちゃいけません。


「何すんだブリード!? 」

恨めしげに見上げれば片手に頭より高い大きな鎌に、黒いローブを纏った親友のブリード・マクスウェルがいた。


「え~? だって気持ち悪かったし」

可愛い顔して笑顔で毒舌を吐きおるこいつはお察しの方もいるだろうが死神である。


「普通に声かけろよな。あー、ビビッた…」

頭をガリガリ掻きながら、また城壁の上に腰掛け…ようとしてやめた。何膝カックンしようとしてるんだ、こいつは。

そのまま近くの木まで歩いて行くとブリードもついて来た。


「それで何ニヨニヨしてたの? なんか面白い事でもあった?」

ニヨニヨって…、失礼な。


「あー、大分前にここで悪戯した連中の事思い出してたらなんか笑いがこみ上げてな」

「むぅ、それ僕も見たかったなあ。ズルいよ! 1人だけ楽しんでさっ」

唇をとがらせて、心底残念そうにいうブリード。小悪魔か。


「お前仕事中だっただろうが。でもあいつら、地縛霊の再現リヴァイバル現象にはまらなかっただけまだ運がよかったな。取り込まれてたらお陀仏だったぞ」


地縛霊の再現リヴァイバル現象は、地縛霊がいる場所で未練の元となるシーンが何度も繰り返し再現される空間だ。死んだ場所に近い程、そして未練が強い程その空間に引きずりこまれる。

霊が死んだシーンを繰り返している再現リヴァイバル現象中に紛れ込んでしまい、地縛霊の記憶に自分もシンクロして殺されてしまうと、現実の自分も死んでしまう。

今回のは殆どが浮遊霊や動物霊だったし、この場所の地縛霊は一人だけだったから助かっただけだ。


「だよねー。そういえばあいつら精神病棟に収監されたみたいだよ」

なんで知ってる、親友よ…。ほんとにあの現場見たかったんかい。


「で、ブリードさんよ。仕事中じゃなかったんかい?」

大鎌の上に腰かけて浮いているブリードは一瞬呆けた顔をしたが、すぐに笑顔になった。

「さ迷える魂達ローグウィスパーも今日は少ないからね。死神の仕事も今は休憩中かな」

嬉しそうにいう親友に俺は、そうかとだけ返した。


死神の仕事とは、大まかにあげると現世に留まる霊たちの救済と冥界の管理の事である。

人が死ぬ時、魂はすぐには輪廻の輪には戻らない。暫くは肉体の傍に留まる。

そして徐々に自分の死を自覚し、現世と別れを告げ冥界からの迎えを待つ。


この世に生まれ出るものには、すべからく寿命がある。その寿命を全うした魂は古い肉体を捨て冥界に昇華し、そこで再び肉体を得るための仮の眠りにつき、魂の休息を得る。これを輪廻ともいう。

冥界は転生がされるまで死者が暮らす場所でもあり、魂の浄化も行われる。

細かい説明は省くが、生命が生まれ変わるためには大量のエナジーが必要になる。魂は様々な試練を乗り越え、その内にエナジーを溜めて初めて転生できるのだ。


だが、恨みや悔いを残して死んだ魂は冥界へ行くことを拒み、魂だけでありながら現世に固着してしまう。

他にも死んだ事を受け入れられない奴や、中には自ら死んだ事に気づかない奴もいる。

輪廻の輪を外れ、現世に留まる魂の救済をする為にはその者の未練を晴らしてやればいい。

いい…のだが、未練の内容によってはそう簡単に救えない。

大抵の魂は抵抗するからだ。

魂が救済されず現世に大量に留まってしまうと、恨みや悔いなどの念が強すぎて人災せんそうや天変地異等を引き起こしてしまう。伝染病の蔓延や自然災害、生物のサイクルの異常などおおよそ考えもつかない程に。

そうなればこのようにさ迷えるローグウィスパーの増加は生者に悪影響を与えるだけでなく、やがて冥界の魂の枯渇も招いてしまう。そうなる前に対処しなければならない。

怨恨の強すぎる者…悪霊は暴走し、怨霊と化した霊は時に死神を襲う。そうなってしまったら…魂を狩るしかないのだ。


──死神の大鎌は魂を狩る。

魂を狩るという事は消滅、すなわち無だ。


その中でブリードがやっている仕事とは、行く先を見失った魂を説得し冥界の門に導く冥界案内人のことである。

他にも色々とあるらしいが、詳しくは知らない。


暫く俺達の間に沈黙が続く。夕日が完全に隠れ辺りは段々と薄暗くなってきた頃、ふいにブリードがはあ、と溜息をついた。

「ねぇ…、まだ思い出せないの?」

ひゅっと、息が止まる。幽霊だから感覚的なものだが。

「…ああ」

「…そっか」

短く答えた俺にブリードはすこし体裁が悪そうに答えた。


俺には記憶がない。

とは言っても語弊があるか。正確には生きていた時の記憶と死んだ時の記憶がない。死んだという自覚もない。

とは言え、自分が誰かというのは解るから記憶喪失とは少し違うかもしれない。


輪廻の輪に戻るには、生きていた時の魂の記憶が必要らしい。それが冥界の門をくぐる条件なんだそうだ。

冥界では魂の浄化が行われる。その魂の浄化の過程は、生前の記憶と行いが魂の試練の内容に大きくかかわる。

転生する魂はまっさらでなければならない。


稀に前世の記憶を持ったまま転生してしまう者もいるが、その原因は転生前に飲まされるお茶にある。

このお茶はスープだったり薬だったり様々だが、それを飲むと少しずつ前世の記憶が浄化され時間をかけてまっさらになる。

霊界ではこれが霊達の唯一の食事なのだ。

もちろん拒否する霊達もいるが死神達はそれを許さない。

拷問染みた方法で飲まされたり、結局は空腹で飲む事になる。

そして霊達の記憶の容量は様々で、必要のない記憶から浄化され一番記憶に残っているものが最後に浄化される。その記憶の強さから記憶の浄化をしきれなかったやつが記憶持ち転生になる。

元々、この食事浄化は薬でいえば濃縮タイプを薄めて投与しているようなもので、原液で投与すれば発作で死ぬようなものなのだ。

要するに、魂の浄化の力が強すぎれば、魂がたえられず消滅してしまう。

そうならない為に、冥界では生前の記憶と行動が重要視される。


ブリードが言うには、冥界には前世の行いや記憶を映す浄玻璃鏡じょうはりきょうというのがあるという。

鏡の前に立つと自分の姿が映ったあとに、前世の記憶と行動が生まれた時から死ぬ瞬間まで早回しで流れるそうだ。

俺も、冥界からの使者が来て鏡を見せられたが、も写らなかった。

俺みたいなケースは前例がなく、冥界の上層部もいろいろと手を尽くしてはくれているらしいが原因は不明。

冥界の長、閻魔大王からは俺の記憶が戻るまで現状維持という指示がだされた。


しばらく沈黙が続く。

「もう、はやく思い出してよね。ヘンリーがいないとつまらないじゃん。折角僕が上に掛け合ってるのに無駄にしないでよね」

と、おどけたようにいいおる。

……ん?


「いや、待てい。聞き捨てならん発言が聴こえた気がしたんだが」

「気のせいじゃない?」

「んな訳あるかーいっ!」

「ええ~、ヘンリーは死者に関与する力もあるし、霊感が強いみたいだから死神の素質があるよ? 一緒にやろうよ~? 僕の部署みんな陰気なんだよ~っ!」

必死か。


「知るかっ」


若干涙目のブリードを放置し、何気なく入り口の方に目が向いた。珍しくカップルじゃない、大きめのバスケットを持った若い女が辺りを気にするように入ってきた。

木陰になっているあまり目立たないベンチを見つけたのか、警戒するようにそこに向かう女。

ブリードも気づいたのか俺とめを見合わせる。


「ねえ、あの人様子変じゃない?」

「ああ。何してんだろうな?」



























ありがとうございました。

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