「自重しない、またやっちゃいました、チーレム、無双。全部まとめてトーヤがぶっ飛ばす! な第3話」(2)
「ス……スキル発動ぉッ! 〈未来視〉!」
勇者タクマは能力を使い、トーヤの行動の先読みを始めた。
そして追撃はないと確認してから、断たれた腕の回復を図る。
「大回復ッ!!」
傷口から、新しい腕が生えた。
少年トーヤは素直に驚く。
「へえ、すごい回復力。トカゲの尻尾みたいでかっこいいね」
「……それはかっこいいのかな」
ラビが率直な感想を漏らした。
「黙れ、ガキ!!」
タクマは剣を構え直して、レベル1の少年を睨みつける。
「クソが、マジでステータス偽装してやがったのかよ!?」
強制能力値開示でタクマの目に映るトーヤのレベルは、どう見ても1のままだ。
「……お前が最初にそう言ったんだろ」
少年トーヤは呆れて呟く。
タクマは激高した。
「そんな事できるわきゃねーんだ! 女神が支配するこの世界で、俺が偽装ステータス見破れねえなんてありえねえ!!」
「だから、お前が言い出したんだろって。僕はそんなことをした覚えは」
ハッとして、トーヤはクレアを見る。
クレアは二ヘラッと笑って、首を横に振った。
「……した覚えは、多分ない……」
途端に自信がなくなるトーヤ。
そんな態度が、ますますタクマの癇に障る。
「ざっけんなあ! どっちにしろ、俺のレベルを上回るなんざありえねえ!」
タクマは手にした剣に魔力を集中させ、刀身が紅く輝き始めた。
「真紅の破壊剣! 絶対防御不可能な威力、そして未来視で回避も絶対不可能だ! レベル上限超えのチートの力、思い知れぇッ!! ……なっ!?」
威勢よく叫んでいたタクマだったが、技を途中で止めてしまった。
「な、なんっ……」
「どうした、なんで撃ってこないんだ?」
身構えていたトーヤは、拍子抜けして問いかける。
「なんで防げんだよぉ!?」
タクマは未来視のスキルで、技を出した結果の未来を見てしまったのだ。
そして知った。自慢の技が、目の前のレベル1の少年にまるで通じないことを。
「はあ? ほんとさっきから何言ってんの?」
だが傍から見たら、それは一人でエキサイトして一人で驚いて止めている馬鹿にしか見えない。
「うるせえ! ……だったらコイツはどうだ!」
タクマは剣を天高く掲げる。
途端に暗雲が空を覆い、雷鳴が轟き始めた。
「きた! ご主人様の必殺技だぁっ!」
「やってしまって下さい、勇者様!」
「いっけえお兄ちゃん! 悪の魔王をぶちのめせ!」
声援を送る、勇者のハーレム要員たち。
「うわあ……」
ラビはげんなりして呻いた。
そうしている間に、轟音とともに稲妻がタクマの剣に落ち、雷撃の力が付与される。
「まかせろお前ら! 雷帝の断罪剣だ! 今度こそ消し炭にっ……なあっ!? またかよ!? ってのあああああああ!!??」
ドゥンッ
またも技を途中で中断したタクマは、放出されなかった雷のエネルギーが暴走して自爆する。
「いや、あのさ……」
全身をこんがりと焼かれた勇者に、何もしていないトーヤはただただ唖然とするしかない。
「……〈大回復〉!」
黒コゲ勇者の内側から、また治癒魔法の光が輝いた。
「や、やややるじゃないか、まま魔王……!」
「何がしたいんだお前!?」
意味が分からない勇者の言動。
トーヤの言葉を無視して、タクマはクルリと後ろを向いた。
「きょっ……今日はこれ位にしておいてやる。お前ら、帰るぞ」
「はああ?」
「えっ?」
「なんで!?」
「どうゆうこと、ご主人様!」
味方からも敵からも、疑問符を投げかけられる。
「あああ! うるさいうるさい! みんな車に乗れ! 行くぞ!」
「行くぞってお兄ちゃん、街はすぐそこ」
「いいから! 早く……!?」
未来視によって、咄嗟に身構えるタクマ。
「疾風斬」
アーティファクト〈自動車〉が真っ二つに斬り裂かれ、爆発した。
「逃すわけないだろ。馬鹿か」
「て、てめえ……」
ショートソードを振るったトーヤを、タクマはオドオドと振り返る。
得体の知れない力を持つ、レベル1の少年。
「そっちが来ないなら……こっちから行く!」
地を蹴って、一瞬で間合いを詰める!
「うおおっ!?」
ギンギンギンギン!!
トーヤの放つ斬撃の嵐を、タクマは未来視の力でかろうじて捌き続ける。
「……確かにレベル1じゃないね、僕ッ!!」
「なんだよそれぇッ!」
防戦一方の勇者は、悲鳴を上げた。
「疾風斬ッ!」
少年の乱撃の中に時折、桁違いに鋭い斬撃が混ぜられる。
未来視で予測できていなければ、タクマは正面から受けた剣ごと叩き斬られていたところだ。
「うわあっ!?」
「ちっ、さすがに裂空斬を撃てる力までは無いのか……まあ、お前程度なら疾風斬で余裕かな」
「こ、こいつっ!」
疾風斬。
技の名前はシンプルだが、タクマには自分の真紅の破壊剣と同程度の威力があると思えた。
速さと連射性はそれ以上だ。
(このガキ……俺より強いッ!?)
「……女神ぃ! おい、ロリ女神!!」
タクマは恐怖に震えながら、棒立ちで思考停止している女神の少女に叫んだ。
「何してる! なんなんだよコイツは!?」
「……タクマ……」
「いったん引くしかねえ! ワープだ、お前の力で」
「無駄じゃ……もう、終わりなのじゃ……」
ガクガクと身体を震わせている女神の少女。
「この者たちは……ドラゴンホテルじゃ……」
「は? ドラゴン? あんな連中、俺らの敵じゃなかっただろ!?」
「我の世界の竜とは、わけが違うのじゃ……全ての世界を監視する者、調停者……異世界のそなたを招いた事が、こんなに早く知られてしまうとは……ひいっ!?」
いつの間にか女神の目の前に、銀の刺繍が施された短衣を纏った少女が立っていた。
「め〜が〜み〜さ〜ま〜?」
「は、はひぃっ!?」
上目遣いで覗き込んでくるクレアに、女神は顔面蒼白だ。
「愉快な道化クンで楽しませてくれて、ありがとうねー。でも、もういいから」
「いい、と言うと……?」
恐る恐る尋ねる女神に、竜の姫は迫力のある笑みを浮かべる。
「今すぐ転生勇者をチキュウに戻せば、不問に伏すよ。さもないと」
「さ、さもないと……?」
「全部、言わせる気かな? 小娘ちゃん」
「ーーッ!! タクマッ!」
「嫌だぁっ!」
トーヤと戦いながらも声が聞こえていたタクマは、叫んだ。
「真紅の破壊剣ァッ!!」
「うおっ……と!」
それなりの威力の剣撃をトーヤが受け流した隙に、タクマは間合いを取る。そして。
「嫌だ、俺は絶対に元の世界には戻らない!」
「タクマ、聞くのじゃッ! ドラゴンホテルに逆らえば、魂ごと消されてしまう! そなたを生かす為には」
「あの世界に戻ったら俺はまた、ただの引きこもりだ! そんなのは絶対に嫌なんだ!」
取り乱し、タクマは絶叫し続ける。
「ご主人様……?」
「勇者様、いったいどうされたのです!?」
「タクマ様、らしくないよっ」
人が変わったように騒ぐタクマに、ハーレムの女たちは状況を理解できない。
「タクマ! しかし……」
女神は懸命に説得しようとするが、タクマはブンブンと首を横に振る。
「うるさい! 嫌だ、絶対に嫌なんだぁっ!!」
そして剣を鞘に納めてから、手のひらを女神と、ハーレムの女たち両方に向けて突き出した。
「スキル〈相思相愛〉! 最大権限ッ!!」
絶叫とともに、タクマから凄まじい波動が放たれ始める。
「あ、やば」
ボソリと漏らすクレア。
ラビは身震いする。
「何これっ……気持ち悪い!」
転生勇者のハーレムの女たち、そして女神の目の色が変わった。
「トーヤ、勇者を殺して! 早く!」
珍しく焦りが感じられるクレアの声に、トーヤは頷く。
「分かった! 疾風ざ……なッ!?」
女たちが一斉に、タクマの盾になる位置に瞬間移動していた。
その表情に、感情は感じられない。
「ど、どいてよ、お前ら!」
「トーヤ、構わないから女達ごと斬って!」
クレアは冷徹に指示を出す。
「……だけどっ」
だが、今はレベル同様に精神年齢も幼いトーヤには決断ができない。
「ああもう、甘ちゃん坊や!」
「クレアさん、あたしが行きます!」
拳を握り飛び出そうとしたラビだったが、クレアはそれを片手で制する。
「ストップ、ラビちゃん! ……ごめぇん、遅かった。テヘ」
タクマの前で、バタバタと倒れる女たち。
女神の少女も同様だ。
「……すまない。愛する皆の力、貸してもらうぜ」
自分勝手に呟くタクマの身体からは、これまでとは桁の違う力の気配。
「……強制能力値開示!」
この世界に存在する全てを見通す女神の瞳が、トーヤ、クレア、ラビの三人を捉えた。
「へえ……それが俺より強えレベル1の秘密か!」
タクマは禍々しい表情で、ニヤリと笑う。
「……おいクレア、何がどうなってんだ!」
「ごめんねトーヤ、ちょっぴし面倒くさい事になるかも。テヘペロ」
舌を出す竜の姫。
魔王の少年は、またかとため息を吐いた。