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「自重しない、またやっちゃいました、チーレム、無双。全部まとめてトーヤがぶっ飛ばす! な第3話」(1)

 勇者の一撃により、魔王は塵となって滅びた。


「やれやれ、またやっちゃった? 一撃で終わりとか、ちょっとチートが過ぎたかなぁ」

「さすがです! ご主人様ぁ!」

「妾は、勇者様のモノになりますっ!」

「ダメッ、お兄ちゃんはわたしの!」

「おいおい、勘弁してくれよ。オレは静かに暮らしたいだけなんだからさあ」


 勇者はクールに呟くと、仲間の少女達に笑いかける。

 美少女たちは彼に駆け寄る。そしてある者は胸を押し当てるように腕を抱き、ある者は赤面しながら上目遣いで見つめ、ある者はその背中にしなだれかかっていた。

 迷惑そうな表情をしながらも、勇者は微動だにせず女たちの柔らかさと好意を甘受している。


「あーあ。魔王だっていうから、ちょっとは期待したんだけど。歯応え無かったなあ」

「無茶を言うでない、タクマよ」


 突然、空間が輝いた。

 勇者と女たちの前に光の中から現れたのは、白い豪奢なドレスを纏った美少女。

 ドレスの胸元は大きく開きスカートの裾は驚くほど短く、少女の肢体の豊満さを極限まで強調していた。


「出たな、ロリ女神」

「タクマ、お主に渡した能力【レベル上限解放】と【経験値効率最大】、それに【スキルスチール】。それだけの力を持つ者に勝てる存在など、この世界には無い。まさに最強じゃ」

「マジかよ。ならちっとは戦い(やり)甲斐のある相手探しに、違う世界にでも旅してみるかぁ?」


 ついさっき静かに暮らしたいだけと言ったはずの勇者は、そう笑った。


「ならわたしも行く!」

「も、もちろん妾もです!」

「あんたはこの国の姫でしょッ、ダメ」

「それよりも、タクマ様の嫁になりたいのです!」


 キャアキャアと騒ぐ女たち。

 その様子を、タクマは嬉しそうに眺めていた。


「……タクマ、異世界に行くのは止めた方がよいのじゃ」


 だが女神の少女が、表情を少し翳らせて告げる。


「え? なんで」

「お主の力は、我が管理するこの世界限定じゃ。それに……タクマに一番最初に渡した、あのスキルが無効になってしまったら」

「しっ!」


 タクマは人差し指を立てて、それ以上は話すなと女神に伝える。


「ん? どうしたの、ご主人様」


 女たちの一人が気づき、小首を傾げる。


「な、なんでもねえよ! ま、異世界行きはまた今度にしとくか。とにかく魔王は倒したワケだ、オレが創ったあの街に、まずは凱旋といこうぜ!」

「うん!」

「そうですね!」

「パーティしよう、パーティ!」


 女たちは飛び上がってはしゃぐ。

 タクマは困ったように呟いた。


「お前ら……今夜も寝かせてくれそうにねえな……」


 だが口の端は上がっていて、実際はウッキウキであることは明らかだった。


 ***


「ああ、あれは!」

「タクマ様だ!」

「おかえりなさい!」

「タクマ様ッ!」


 アーティファクト〈自動車〉を創造して、魔王城から優雅にドライブを楽しみながら、街の近くまで戻ってきた勇者一行。

 街の傍に広がる畑から車を発見した農民たちが、声を上げ駆け寄ってきた。

 タクマは停車し、手を振って応える。


「おーう、帰ったぜ! 魔王は倒したよっ」

「おお……!」

「こんなに早く!? さすが勇者様!」


 喜ぶ農民たち。

 だがその後ろの方で別の一団が、なにやら騒いでいるのが見えた。


「ん? どうした。なんの騒ぎだー?」

「すみません。あれはあの、よそ者の妙な子ども達と獣人女が、ワシらの仕事の邪魔を……」

「ああ、またアレが誤解されたのか。ちゃんと説明した?」

「しました! なのに連中、訳の分からないことを言ってきて……魔法を使ったんです!」

「魔法?」


 この世界での魔法は、誰にでも使えるというわけではない。


「はい。それでせっかく予定通りに燃えていた森の火を、一瞬で消されちまって……」

「……へえ、一瞬でね」


 広範囲の炎を一瞬で消火したということは、それなりの術者だろう。


「魔王を倒した後にイベント発生か。追加コンテンツってやつかな?」


 タクマは車に同乗していた女神の少女を振り返る。

 だが女神は、ふるふると首を横に振った。


「お前も知らないの……? ふうん、面白いじゃん」


 興味を抱いて、タクマは車を降りる。


「しかたないなぁ。ったく皆は、オレがいないとなんにもできないんだから」

「ああ、待ってよご主人様!」

「妾たちも参ります!」


 そして女たちを連れ立って、騒ぎの起きている方へ歩いて行った。


「タクマ様!」

「すみません、せっかくお戻りになられたのに……」


 よそ者三人を囲んでいた農民たちは、平身低頭でタクマを迎える。


「いいっていいって。……!?」


 タクマはその三人、正確には二人の少女を見て雷に打たれたように動きを止めた。


「こ、こいつは……」


 一人は銀の刺繍が施された短衣チュニックを纏った、まだ十代前半であろう金髪金瞳の少女。幼さと妖艶さが同居したその美貌は、彼の目には女神を含め引きつれている女たちの誰よりも際立って見えた。


「まじか……」


 そして、僧衣を纏った獣人のタクマと同じ年頃の少女。この世界で犬や猫の獣人たちは見てきたが、ウサギの獣人は初めて目にした。ゆったりとした僧衣に隠し切れないグラマラスなボディラインがウサ耳とアンバランスで、タクマにはたまらない魅力が感じられた。


「おい」


 二人に目を奪われている勇者の前に、少年が歩み出る。


「お前か? 森を焼けと指示した、勇者タクマというのは。どういうつもりだ」


 なめし革のレザーアーマーにショートソードを装備した、いかにも駆け出しの冒険者といった格好の少年。

 だが彼の言葉は、タクマの耳にまるで届いていない。


「お嬢さん方、どうやら驚かせてしまったみたいだね」


 勇者はふっと笑って、指先で自分の額を抑える。

 また始まったと、取り巻きの女たちは後ろでため息を吐いた。


「君たちは森が燃えているのを見て、慌てて消しに来てくれたんだね」


 タクマは火は消えているものの、炭化した木々や巻き込まれた動物の遺骸が転がる森を一目見て、爽やかに笑う。


「……」


 無惨な姿となった森を見て笑う神経に、ウサ耳の女性は不快そうに眉間に皺を寄せた。

 だがタクマは、そんな顔をしてしまうのも今だけだよ、と更にほくそ笑む。

 これから始まる時間は、タクマにとってお気に入りの時間なのだ。

 無知蒙昧なこの世界の住人に、優れた知恵と知識、技術を伝え導き啓蒙する。


「けど安心してね。これは焼畑農業と言って、焼かれた草木の灰が肥料となって土に栄養を与え、農作物が育ちやすくなるんだ」


 そして異世界の叡智による恩恵を受けた者たちは、それを与えた勇者に感謝し、崇め敬い、そして仕えてくれるのだ。


「とは言っても、君たちにはとても理解できないだろう。だから今から証明するよ。まずは俺のスキル、〈未来視ビジョン〉でこの焼け跡が豊かな畑に再生する様子を」


 得意げにそこまで話した時だった。


「痩せた土地にミネラル分を供給して、灰に含まれるカリウムが酸性の土壌をアルカリで中和するなんて知ってる。そんな当たり前のことを聞いてるんじゃないよ、バカ」


 レザーアーマーの少年が、冷めた口調で言い放つ。


「な……」


 驚くべき単語の羅列に、タクマは凍りついた。

 少年は続ける。


「僕が聞いているのは、長期的に発生するデメリットをどう考えてんのかってことだよ。短期的に見ればメリットの多い焼畑農法、その日の食べ物に困る者がまだまだ多いこの世界じゃ、爆発的に広がるだろうね。けど文明的にまだ未発達な現時点で、ここの人たちはブレーキを踏むことができない。畑の地力が衰えれば、すぐにまたべつの森を焼いていく。森の治水能力が落ちた地域の水害対策は? 生活の場を失った森の生物、とりわけ比較的温厚なモンスターの類も、生きる場を奪われれば人族に牙を剥く。その対策は? もしすべて倒せばいいなんて考えてるなら、それはもはや生態系の破壊だ。魔王などよりよっぽどたちが悪い、世界の破壊者だ。そのことをどう考えてんのかって聞いてるんだよ」

「な……な……」


 そんなスケールで考えたこともないタクマは、反論もできず絶句した。

 そして、やっと捻り出した言葉は。


「このガキ、テメエも転生者か!  〈強制能力値開示ステータスオープン〉!!」


 タクマの魔法により、少年の正体が暴かれる。


「……トーヤ、宿屋の下働き……レベル1ぃ?  なっ……なんでそんな奴が!?」

「失礼な奴だな、人のステータスを覗き見るなんて」


 物怖じしない堂々とした態度で、タクマを糾弾する少年トーヤ。


「……宿屋ホテル?」


 勇者の後ろで女神の少女が、ピクンと眉を動かす。

 そしてタクマに任せていた強制能力値開示ステータスオープンを、自らも発動した。

 少年の後ろに立つ女性二人、まずは銀の刺繍が施された短衣チュニックの少女のステータスを、女神は確認する。


(ーーッ!!??)


 自分が覗かれていることを察し、薄く笑う金髪金瞳の少女。

 女神は思考停止した。


「くっ……いや」


 一方、タクマは慌てかけたが、少年のレベル1という数字を見て落ち着きを取り戻す。


(なんだ、俺と同じチート野郎かと思ったら、ただの雑魚じゃねえか。ビビる必要はねえ)


 しかし、タクマの元の世界の知識を何故か持っていることは驚異だ。

 低脳な異世界人を驚かせ、導いて崇拝されることに必要な現代知識。それを有する者は。


「……俺一人でいいんだ」

「は?  なんだって?」


 少年はボソボソと呟くタクマに歩み寄り、その胸ぐらを掴もうとした。


「おい答えろよ、お前は」

「〈衝撃インパクト〉」


 その瞬間。

 小さな声で発動した魔法。

 弾け飛んだのは、勇者タクマの方だった。


「グハァッ!」

「はあ?  な、おま、何を」


 血反吐を吐いて倒れるタクマに、少年は慌てる。


「ご主人様!」

「勇者様!」

「お兄ちゃん!」

「クッ……お前たち離れてろ!  危険だ!!」


 女たちが駆け寄ろうとするが、タクマは叫んでそれを制した。


「このガキ……ステータスを偽装してやがる!」

「え?」


 一瞬、何を言われたのか理解できなかった少年は目を丸くする。

 ぶふぉっ!  と何故か短衣チュニックの少女が噴き出した。

 横でウサ耳の獣人が首を傾げる。


「トーヤ君、そんなことしてたの?」

「してないよ! 何言ってんだコイツ?」


 呆れた声を出すトーヤに構わず、タクマは無詠唱魔法で空間に穴を開け、そこから剣を取り出した。

 そして、トーヤの後ろに立つ少女二人にも呼びかける。


「君たちも、騙されるな!  そいつはっ……」


 そして剣先をトーヤに突きつけ、勇者は叫んだ。


「そいつの正体は、魔王だ!  さっき俺が倒したのは分体、こっちが本体だったんだ!」

「まっ……魔王!?」

「嘘でしょう!?」


 周囲で事を見守っていた街の人々が、魔王と聞いて慌てて離れる。

 ぶふぉっ……!  

 その一方、また短衣チュニックの少女は噴き出して、今度はお腹を抱えて笑い転げ始めた。


「……魔王! トーヤ、魔王だって! あはは、見破られたよっ、レベル1の魔王クン!」

「クレアさん、笑い過ぎですよ」

「ラビちゃん、だって……だって……!」


 ウサ耳獣人・ラビに苦言を呈されても、まだ笑い続けるクレアと呼ばれた少女。

 トーヤは顔を真っ赤にして、タクマを睨む。


「なんなんだお前!  どうしてこんな辱めを!」

「……辱め!?」


 トーヤの言う意味をタクマは理解できないが、何がどうあれ自分と同じ知識を持つこの少年を、放置するわけにはいかない。タクマの方針は決まっている。


「君たち、信じられないかもしれないが、本当なんだ! 彼は危険だ、早く離れるんだ!」


 だから、クレアとラビに呼びかけた。

 美しい少女たちの方は、保護しなくてはならないから。


「……はい?」

「なんでぇ?」


 ラビは真剣に、クレアは含み笑いで首を傾げる。

 タクマはハッとした。


(そういえば、森の火を魔法で一瞬で消したと言っていたな……レベル1のガキにそんなことができる訳がない。ならこの二人のうちどちらかが!)


 再び、〈強制能力値開示ステータスオープン〉の魔法を行使するタクマ。


「……!!」


 短衣チュニックの少女の方は、何故かステータスを見ることができなかった。なんらかの妨害術式があるようだ。

 だがタクマがそれ以上に驚愕したのは、ウサギの獣人ラビのステータスを確認したからだった。


「レッ……レベル120だと??」


 冗談ではない。チート能力でレベル上限を突破した自分が130なのだ、それに迫っているのかとタクマは戦慄する。


能力値開示ステータスオープンが効かないもう一人も含めて、この女たちは敵に回すわけにはいかねえ……好みだしな。正攻法で攻略したかったけど、仕方がねえ!)


 タクマは、女神から最初に受け取ったチート能力を開放することにする。


「ラビさんに、クレアさんって言ったね?」


 勇者は笑う。

 ラビはブルッと身震いした。


「な、なんですか? 今、怖気が走ったんですけど」

「君たちは、僕の仲間にしてあげよう。何も心配しなくていい」

「はあ? 頭に虫でも湧きましたか? 気色悪いです!」


 剣を片手にぶら下げ、もう片方の手を差し出してニヤケ顔で歩み寄るタクマに、ラビはストレートな反応を示した。


「おお、ラビちゃん意外に毒舌」


 クレアはケラケラと笑う。


「く……」


 この世界に来てから女性に拒絶反応を示されたことのないタクマは、顔を顰める。

 しかしその後ろから、援護の声が発せられた。


「ちょっとウサギ女! ご主人様に失礼な事を言わないで!」

「そうです! せっかく勇者様が、温情をお示しになられているというのに!」

「かわいそうお兄ちゃん! 後でたっぷり、よしよししてあげるからね!」


 仲間の女たちから嬌声を上がり、勇気づけられたタクマに余裕が戻る。

 そうだ、この能力スキルは無敵なのだ、と。


「キモい! キモいキモい! ご主人様? 温情をお示しに? お兄ちゃんによしよし? あの人たちなんなんですか、気持ち悪いよクレアさん!」

「あー、うん。そうだね私もそう思う」


 縋りつくラビに、クレアは乾いた笑いで同意する。


(ちっ……そんな顔をしていられるのも、今のうちだ)


 タクマは一瞬のうちに、侮蔑した顔を向ける二人が自分に縋りつき愛を乞う姿を予見してほくそ笑む。

 そして、絶対無敵のスキルを発動しかけた時だった。


「やめろ、お前!!」


 トーヤがショートソードを抜いて、横からタクマに斬りかかった。

 だが、レベル1の斬撃が100オーバーの勇者に通じるはずがない。

その剣はタクマの指先に容易く摘ままれ、止められる。


「おっと」

「お前、今、クレアとラビに何かしようとしただろ! 隠しても無駄だ!」

「何かって……姑息な魔王が、貴様がかけた洗脳を解こうとしてるんだよっ! 〈衝撃インパクト〉ぉ!!」

「がっ!?」


 弾けるように、少年の身体は宙を舞った。

 当然、全力で勇者の技が放たれればレベル1の身体などひとたまりもない。

 だが、今はまだ『敵』の存在が必要なタクマは絶妙に手加減をしていた。


「トーヤ君ッ!? この——」


 反射的に動こうとしたラビを、クレアがそっと触れた手で強制的に止めた。


(——クレアさんっ!)

(ラビちゃん。楽しいのはこれからだよ?)

(でも、このままじゃトーヤ君が!)


 他者には聞こえない声で、二人は意思疎通する。


(大丈夫。あのバカ勇者、嘘からでた真だね)

(えっ?)

(トーヤの記憶と力。いつもと違って、今回はホンの少しだけ……)


 タクマは跳ね飛んだトーヤを見下して、笑っている。


「魔王よ、オレは今から貴様の魔の手によって汚されたこの子達の魂を、解き放つ。それが嫌なら、さっさと正体を現して本気で挑んでこい」

「くっ……はあ……? お前、さっきから……何を言って……」


 血反吐を吐きながら、立ち上がるトーヤ。

 もちろん少年にそんな力などないと、タクマは確信していて挑発している。


(俺を拒絶しているあの二人が急に媚びだしたら、仲間と街の連中に不審がられるからな……魔王の洗脳を解いたってことにすりゃあ、それでオッケーだ!)


 タクマは掌をラビとクレアの二人に向けた。

 トーヤは重傷の体を引きずり、なんとかタクマを止めようとする。


「や、やめ、ろ……何を……する気だ、ぐ……テメエ、クレアに……手を出すな……!」


 (その後で、現代地球の知識を持つクソガキ! テメエは魔王として俺がぶっ殺してやるよ!)


「スキル発動! 〈相思——」

「——だから、やめろっつってんだろ小僧」


 勇者が、クレアとラビに向けて突き出した腕。

 その肘から先が、トーヤの冷え切った声と同時に斬り飛ばされた。

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