商業ギルドへ
さてと。時計を見る。
12時15分。
食事も終わったし、出かけるとするか。
ついでに町もぶらぶらしたいし。買い物もしたい。
まずはお金をおろしましょうかね。
では!商業ギルドと役場に行って、それからぶらぶら町を探索しよう!
確か、ガイドブックが本棚にあったはず・・・。
地図とガイドブック。あと、一応心配だから、住所を書き写したメモ。
クローゼットに入っていた麻のトートバッグを肩にかけて、麦わら帽子をかぶる。
「よ~し出発だ~」
地図を確認すると、商業ギルドの東支部が一番近くにありそうだ。なので、そこを目指すことにする。玄関を出て、ふりかえり、家の外観を確認する。三角屋根のクリーム色の戸建てだ。左右対称に玄関や窓、ベランダが配されている。真ん中できっちり2つに分けられているのだろう。似たような建物が5つ・6つも続いている。このままじゃ、どれが自分の部屋なのか、帰宅時に判断不能だ。何か目印・・・。足元のぺんぺん草を抜いて、ドアにさしこんで置く。これでオッケイ。
地図を片手に、てくてく歩く。
道は、石を細かに敷き詰めた石畳で、波の模様を描いている。街路樹の楡の木は、等間隔に配され、あちこちから「ギーギー」とコゲラの鳴く声が聞こえてくる。
アパートが道に沿って建てられている。このあたりは、どうやら住宅街のようだ。
時々、誰かとすれちがうが、意外なことに、扁平顔ばかり。耳を確認したわけじゃないが、どの人もおそらくエルフなのだろう・・・。意外にもナチュラルでカジュアル。エルフは、『ベン・ハー』の衣装みたいなやつとか、白いゆったりとしたローブみたいな服を着ているイメージだったのだけど、いたって普通。
何だか不思議な気分。よっぽど原宿や下北の方が、エキセントリックだよ。
そんなこんな考えながら、ほげほげ5分ほど歩くと、大きな通りにぶつかった。たくさんの人や馬車が行き交っている。マルメロ通りだ。その名の通り、マルメロの木が街路樹として植えられている。二分咲きの白い花からは、甘く優しい香りが漂い、なんとも幸せな気分にさせられる。
そんなマルメロ通りを、川の方へ進む。家の裏を流れるトルガ川だ。たもとには、船着き場が見える。橋を渡れば、商業ギルドが見えるはずだ。
「これかな?」
石造りのクラシックな建物。はちみつ色の壁と白い屋根は、青空にとても良く映え、レトロで可愛らしい。
室内も白と黄色を基調としている。
壁は白く、床は白とクリーム色のモザイクタイル。ところどころ洋梨の模様が描かれていて、これまたとても可愛い。
ガイドブックによると、『商業ギルドの精神たる、白は誠心を、黄色は豊潤を表現している』とのことだ。
入口のすぐそばの案内板を確認する。
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■1階
・A 登録・退会
・B 依頼受付
・C 求人紹介
・D 不動産売買
・E 不動産賃貸
・F 取引仲立ち
■2階
・A 預金
・B 投資・信託
・C 相続・事業承継
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(預金は2階だな・・・)
ということで、階段昇って、Aのカウンターへ。
後ろを向き書類を片付けていた女性が振り返る。
「いらっしゃいませ」
ハスキーなジャズシンガーのような声。
「あ・・・・・・・・・」
息が・・・。
息が出来ない!
やばい!
吸い込まれる!
うわ~超美人。
思わず呼吸を忘れたよ。なにこの美しさ!
ア○・ハサウェイだよ。ギルドの制服を着ていてもわかる、スタイルの良さ。
お目目、ぱっちり。まつ毛、ふさふさ。鼻すじ、す~っと。唇ぷるぷる。
私の想像していた 『THEエルフ』がここに降臨。
「あの・・・。えっと、・・・・」
「本日はいかが致しましょうか?」
「あの、預金おろしたく・・・来ましたYO」
緊張して、片言だYO!!!
私のようなカメムシめが、あなた様のような美しい方の前に姿をさらしてしまい、まことに申し訳ございません!
「では、お手をこちらへ」
木で出来た受付台に白い楕円型の石が埋め込まれている。
そこに、おずおずと手を近づける・・・
石から温かい風が吹き出し、黒い羽虫のようなものが現れる。
黒い羽虫は、渦を描きながら宙を舞っている。
受付嬢THEエルフは、何もないはずの空間に手を伸ばし、帳簿を取り出す。
「アヤノン・オーダさまですね?本日のお引出しはいかがされますか?」
すごいな~。何だろうあの羽虫。魔法かな?
これで、本人確認出来たってことだよね。どういう仕組みなんだろ?
私がよっぽど、驚いた顔をしていたのだろう。(驚かないわけがない!)
「いかがされましたか?」
怪訝な顔をしているぞ。
「えっと。初めてで・・・。あの、田舎から出てきたばかりでして。驚いてしまいましたのですYO~」
口よ、なぜ動かぬ~。
「うふふ。そうなんですね~」
THEエルフの優しい微笑。
う~このカメムシめに、もったいない!ありがたや~ありがたや~。
心の中で、拝む。
「えっと、5万円じゃなくて・・えっと500ロデムをおろしたいのですYO~」
まだ片言のわたくし・カメムシ。
「承りました。こちらが500ロデムになります。ご確認下さい」
別の空間から、500ロデムを取出し、麻の巾着袋に入れて差し出される。
表面には数字の100、裏面には女性の顔の金貨。数えるとちょうど5枚。
「それでは、お取引を記録致します」
THEエルフが、白い羽ペンを手にとり、黒い羽虫に近づける。
黒い羽虫が、羽ペンの先端にとまると、たちまち吸い込まれていく。
羽ペンの先端は黒く染まっている。
その羽ペンで、帳簿に記入してく。
『4月8日 13:15 500ロデム引出し 残高2万9500ロデム』
「以上でお取引終了となります。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
THEエルフに別れを告げて、階段を降りる。
いや~いろいろすごいもの見せてもらったよ。
女神を眺めて、目の保養もできたし。羽虫のショーも観れたし。
まさか、あの黒い羽虫が、インクとなるなんて!
魔力認証すごいよ。魔法ってすごいね!
それから、資料をもらったり、依頼掲示板を眺めたりして、ギルドを後にする。
次は役場だ。