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もろもろのこと

「ははは。小田さんはよく驚きますね~。あっ、オーダさんでした。そろそろ慣れてくださいよ~。」


意味が分からない。全くもって分からない。エルフ?ベジタリアン?


「菜食生活法では刑事罰もありまして。これが、結構厳しいんですよ~。懲役もしくは死刑ですって。とはいってもよっぽど悪質なことをしない限りは、たいてい懲役刑ですけどね~」


「『ですって』じゃないですよ~。いやいやどこの犬公方?」


なにその厳罰。

なにきっかけよ?


「ははは。 前王の時代に制定されたのですがね、前王がペットとして牛を飼っていたのですよ。それはそれは、目に入れても痛くないくらいに可愛がっていたのです。けれど、その牛が散歩途中に逃げ出してしまいましてね、たまたま通りかかったドワーフが家に連れて帰り、うっかり食べてしまったんですね。そのショックで王様がしばらく寝込んだことがきっかけの一つになったそうですよ~」


牛公方だったー。なにやってるんだ!うっかりドワーフ!


「一応例外もありますよ。民族的な食文化を保護するために、例えば、ダークエルフは乳製品を、ドワーフは肉の摂取も自治区内では認められています。一種の治外法権ですね~」


「え!ってことは、その自治区に入れば、私も食べられるの?」


「ははは~。自治区に『入れれば』ですね~。なかなか難しいのですよ、認可が必要でして。長期に入るには、自治区の方とご結婚をされる以外方法はないですね。ただ、同族間結婚が大多数を占めていますので、なかなか難しいと思いますよ。しかし、短期であれば、可能性はありますね。素晴らしい技術・知識・魔法などで、自治区の生活を豊かにすることが出来る人にのみ認可されておりますので。オーダさんには料理の知識や技術がありますので、こちらの可能性は十分ありますよ~」


なにそれ!料理で実績あげるか結婚するかの二択・・・・・。

生涯、好きなものを食べて暮らすには、ドワーフとの結婚しかないってことか・・・・。

うん。即決。頑張ろう!ドワーフと結婚しよう、私。


「ははは~。リアル『セイジさん』見つかると良いですね~。頑張ってくださいね~。応援してま~す」


ちっ。この毒舌メガネくそ経理野郎


「ははは~。エルフに変更手続きする際に、言語も変更しておきますので。言葉の心配はございませんよ。これまで通りにお話し&読み書きできますので。ついでに、向こうでは魔法を使えないと大変不便なので、魔法も使えるようにしておきますよ。インフラ関係が、かなり魔法に依存してますのでね~」



魔法!もはや何でもありなのね。

エルフに変更って、そんな簡単にできるのかな?


「こうみえても、一応『神様の一部』ですからね。ご心配なく~。ではでは、転移先の概要につきましては、このくらいでよろしいですかね?」


「・・・はい。大丈夫です」

もはや無の境地。全てを受け入れるのみ!きっとなんとかなるさ!


「その意気ですよ、オーダさん!まずは、住むところですが、コルトゥ共和国の首都、アムッセンの東にある下町に、私どもの方で部屋をすでに借り上げています。川沿いで眺めも良く日当たりも最高です。なかなか良い部屋ですよ。家賃は800ロデムで毎月9日に商業ギルドの口座から引き落としさせて頂きます。とは言っても、最初の一年は、準備期間ということで無償でお貸し致します。必要な家財や日用品はすでに設置してありますのでご安心を!今すぐにでも暮らせますよ~」


「ありがとうございます」


「ははは。かなり頑張りましたよ~。洋服や下着類もクローゼットに整理しておきましたし、料理道具も台所に整理してありますよ~。奮発して石窯も設置しましたので、美味しいパンを焼いてくださいね。『衣食住』もこれでOKですかね?お仕事はオーダさんで見つけていただくことになりますが、これまでの経験を活かす方向でやっていただければ、問題ないと思いますので~」


下着類もって・・・気にしない気にしない・・・スルースルー。


「あとは、当面の軍資金としましてオーダさんの貯金額300万円を、本日のレートで約3万ロデムになりますが、商業ギルドにオーダさん名義の口座を作りまして、入金しておきました。魔力認証ですので、カードや印鑑は不要です」


魔力認証って・・・指紋認証みたいなものかな?あれ、私って魔力あるの?霊感みたいなやつかな?金縛りはたまにあるけど。


「大丈夫ですよ!エルフにチェンジする際に、魔法を使えるようにしますから。なんせ、私、神様の一部ですからね!」

カワイさんドヤ顔。鼻の孔広がってるし。


でも、本当きめ細やかな対応・・・・。衣食住から貯金まで。家賃も一年間負担してくれるし。ありがたいね・・・。優しさが沁みます・・・(演歌みたいね!)

ちゃんとお礼言わなきゃ。


「・・・カワイさん。何から何までありがとうございます。こんなに良くして頂けるなんて・・・。しょせんお役所仕事だなんて思っていたのに・・・とんでもなかったです。毒舌メガネくそ経理野郎って何度も言ってすみませんでした。本当にありがとうございます」と頭を下げる。


「お役所仕事って・・・。そんなに経理っぽいですかね?・・・まてよ。このメガネがそういう雰囲気をかもしだしてしまっているのか・・・・」


なんかカワイさんが、ぶつぶつ言ってる。大丈夫か?


「あ~すみません。自分の世界に入ってしまいました。まあ、お気になさらないでください。これも仕事のうちですから。それと、忘れないうちに、こちらお渡ししておきますね~」


と差し出された、モスグリーンのしっかりとした背表紙のノート。

日記帳?


「そうです。日記帳みたいなものですね。オーダさんに記入していただくと、そのデータが私のPCへ転送されます。こちらを使用して、オーダさんには活動報告を週に一度あげてもらいます。日々の暮らしぶりや疑問、悩みなどなど、異世界に転移し感じたことを、ありのままに書いて頂きたいのです。もちろん私からも助言など出来るだけ返信させて頂きますので、交換日記みたいなものですね」


あらずいぶんアナログ。交換日記か。なつかしいな。

絶対に困ったことが出てくるから、相談できると助かるよ~。

ましてや、カワイさん神様だしね。それにしても、サポート手厚いな~。何かちょっと申し訳ない気が・・・。お手数かけまくりだ・・・。


「そんなことないですよ~。『異世界転移』なんてほとんど例のないことなので、オーダさんのレポートが貴重な資料になりますし。しかもデータで頂けるので、資料としてまとめる手間を減りますしね。会議や上への報告などもあるので助かります。私にもメリットが十分にあるのですよ~」


「そう言っていただけると、気が楽になります。でも・・・ありがとうございます」


「これで、一通りご説明は終了致しました。何か疑問などはございますか?」


「あつ。私がいきなり異世界に行っても、大丈夫ですか?戸籍とか住民登録とかは?」


「大丈夫ですよ~。戸籍もすでに用意しておきましたし。あとは、役場に行って頂ければ、住民登録は、すぐにできますので。人々の記憶を改ざんするのは、あまりよろしくないですし、出来るだけ干渉しない方向で調整しておきました。ただ、そうなるとオーダさんの設定が少々浮世離れしたものになってしまいまして・・・」


「ん?浮世離れって?」


「えっとですね、オーダさんは、コルトゥ共和国のはずれもはずれ、トガリ山の人里離れた場所で、祖父と二人で暮らしていたので、祖父以外との交流が一切無かった。ご両親は幼いころに亡くなり、親代わりに育ててくれた祖父も、先日亡くなり、ついに一人になってしまった。そこで、憧れていた都会に心機一転やってきた。という設定です!」


「どんだけ~!!!どこの賢者?どこの仙人?」


「ははは~。古いですよ~オーダさん。しかし、この設定であれば、色々解決するのですよ~。

異世界の常識を知らないことも。色々と不慣れなことも。そのわりに、これまでに無い新しい知識や技術を持っていることも。これなら怪しまれずにすみますので~」


確かに。みんなが知っていて当然なことを知らないで、みんなが知らない知識はやたらにあるんだものね。そんな人、確かに怪しい。


「ご納得頂けたところで、いよいよ、エルフへの変更手続きを致しましょう!人間からエルフへの変更申請を出しますので、少々お待ちいただけますか?」


カワイサンがPCでなにやらカチカチ入力している。電子申請みたいなものかな?


「っと。で、ポチッと。お待たせいたしました!完了です。こちらどうぞ」


渡された手鏡をのぞきこむと、いつの間にか変身している。あら私、髪の毛金髪だし~。やたらと色白い!真っ白だよ~。それにそれに~お耳がとんがってるよ~。三角形のお耳してる~。これはこれは・・・私すっかりエルフ。

お顔は・・・。うん。安定の扁平顔。顔立ちは変わらないんだね・・・。ハーフ顔になるのかと期待してたよっ。ッチッ。残念!


「オーダさん、どうですか?」


「エルフですね!」


「ははは~。そうです。エルフです。もう魔法も使えますよ~。陽魔法・水魔法・火魔法・天魔法・冥魔法の5種類です。この5種類があれば、誰も知らない・何もわからない土地での生活も、困ることはないと思いますし、オーダさんのお仕事に役立つと思いますよ~。呪文は不要で、念じるだけで発動しますので。いろいろと試してくださいね。練習あるのみですよ~」


カワイさんの説明によると、異世界の魔法は、陽・水・金・地・火・木・土・天・海・冥の10種類で、

■陽魔法  鑑定する

■水魔法  水や氷をあやつる

■金魔法  錬金する

■地魔法  召喚する

■火魔法  炎や熱をあやつる

■木魔法  風や植物をあやつる

■土魔法  土や石をあやつる

■天魔法  病気やケガを治す

■海魔法  海での能力を向上させる

■冥魔法  時間と空間の一部をあやつる


水魔法、火魔法は、最も一般的な魔法で『生活魔法』と、農業主は木魔法を、建設業者は土魔法を、医師は天魔法を使うのでこの3つは、『職業魔法』って呼ばれている。金魔法はドワーフに、地魔法はダークエルフに、海魔法は海人に、それぞれ特有の魔法で、冥魔法・陽魔法は、変わり者に多い・・・。で、この5つは、使える人が限られるレアな魔法。

たいていは1種類しか魔法を使えないので、私はかなり破格らしい。

天魔法が使えるなら、医師として暮らしていけるのではないか?と思ってカワイさんに聞いてみたけど、残念ながら、私にできるのは、せいぜい小さなケガや風邪を治す程度。

冥魔法についても、非生物を対象に30センチ立法の空間内の時間を停止する・畳み1畳程度の異空間に物を自由に出し入れできる程度。決して、過去に遡ったり、すべての時間を停止したり、空間移動したり・・・なんてことは一切できないそう。

そのかわり、水魔法・火魔法はかなり高いレベルのこともできるって。

料理で革命を!なんて言ってたくらいだから、料理を作ったり広めたりするのに必要だろうって、配慮してくれたんだね、きっと。

魔法。子供の頃に、憧れてたんだ。(無詠唱なのは、ちょっと残念だけど・・・どうぜなら『裁きの雷雨を!』とか言いたいじゃん?)

子どもの頃の夢が叶っちゃたよ、私!死んじゃったけどね。

それにしても、海人ってどんな種族なんだろう?「そのうち会いますよ~」なんてカワイさんが言ってたから、そのうち出会うのかな?多分海に関係が深い種族なんだろうね。

うん。ワクワクしてきたかも。


「では、最後の最後。着る物を・・・。エイっと!」


一瞬で洋服が変わる。オフィスカジュアルなセオリーのベージュニットと黒いパンツから、コットン100%の生成色のシャツ、麻混のカーキ色のサルエルパンツへ。足元は、黒のバレエシューズから辛子色のエスパドリーユへ。


うん。肌にさらさら。着心地よいね。シンプル。ナチュラル。

思わず口に出しちゃった。


「魔法みたい!」


「魔法ですよ~」

にっこり笑うカワイさん。


「これで、すべての準備も整いましたね。いよいよお時間です。旅立ちで~す」


なんか、ちょっと寂しいかも。人間、小田綾乃とはお別れ。

エルフのアヤノン・オーダとして再出発。

私、これから始まるんだよね・・・。


「いろいろお世話になりました。私、頑張りますので。いっぱい美味しい料理作って、実績あげて、絶対にドワーフと結婚しますので!」


「ははは~。はい。頑張ってください!」


メガネを外し目元をこするカワイさん。笑いすぎでしょ。

んん・・・・この顔、どこかで見たような気が・・・。

まあ、いっか。


「いってらっしゃいませ!」

手をふるカワイさん。


「いってきます!」

そういって、私は、扉をあける。

そして踏み出す。異世界への第一歩を。


誤字訂正致しました。

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