カワイの料理
「神様・カワイのドキドキ1分クッキング!!」
何この小芝居・・・・
いつの間にか、黒いエプロンをつけてるし。
「今日は、エルフの代表的料理、エルフスープとパンをつくりまーす!
まずは、パンから。材料はこちら、小麦粉・塩・水。
これらを粉っぽさがなくなるまで、手早く混ぜ混ぜしま~す。
このように魔法を使うと一瞬ですよ~。
それから、ひとつにまとめて、固く絞った濡れ布巾をかぶせて30分ほど置いておきま~す。こちらが、30分置いたものになります」
そう言いながらカワイさんは、どこからか丸い白い生地を取り出す。
「この生地を手で、パンと平たく伸ばして、一気に魔法で焼いちゃいま~す。石窯みたいなオーブン的なものはありますが、ほとんどのエルフは使いませ~ん。パンは作るのが面倒なので買ってしまう人が多いですね~」
カワイさんがそう言いながら、右手をかざすと赤い光が放出される。とたんに、焦げ臭い匂いがあたり一面に漂う。一瞬で炭化した。
「ちょっと火加減強すぎたかな~。ちょっと焦げちゃったけれどまあまあの出来ですね~。続いてスープを作りましょう。材料はこちら、いんげん・トマト・キャベツなどのお好みの野菜にひよこ豆。そして水に塩。野菜は適当な大きさにカットしましょう。こちらも魔法を使うと一瞬ですね~。これらすべて、お鍋にいれて、火をつけま~す」
「いきますよ~」とカワイさんがまたまた右手をかざすと、赤いほうろうのお鍋の中が、一瞬赤く染まり、ぐらぐらと沸騰した。「お好みで、こしょうとオリーブオイルを加えてできあがりで~す」
パラリと胡椒をふり、オリーブオイルをたらす。
「はいできあがりで~す。本日の献立、エルフスープに手作りパンです~」
目の前には、炭化した平べったいパンらしきものとスープ・・・・。
「と、まあこんな具合です・・・。資料にある通り、調味料もあまり種類が無く、そのうえ、菜食ですから。単調も単調。酷いものです!もはや飽きないわけがない!毎日いや毎食、塩味の野菜スープとパンですよ?面倒な人は、野菜をちぎって塩をふっておしまい。それをサラダといってしまえばそうなのでしょうけどね。彼らは、シンプルな味付けとか素材の味を活かした調理なんて言っていますが、ズボラもズボラ。エルフ達は、他のことは丁寧に仕事をするのですが、なぜか料理だけはひどいもので・・・。決して味覚音痴とかいうわけではなくて、料理が苦手というかなんというか・・・とにかく!このように非常に残念な状況なのです!」
確かに、こりゃひどい。毎日塩味のスープなんて・・・。良く平気だなぁ?普通飽きるぞ?
でも、こういう世界なら、確かに私の経験、役に立つかも。野菜料理はお手の物だしね。うん。仕事もなんとかなるかも。なんとか料理で身を立てていけそう・・・。
それにしても、ボリュームの無い食事。これに肉とか魚とかの主菜が必要でしょ。
あっ。そういや資料に菜食ってかいてあった。あれ、エルフってみんなベジタリアンなのかな?
「そうなんです~。エルフ族は、全員ベジタリアンですよ。肉類を消化しにくい体質なんですよね、彼らは。お腹を壊してしまったり、胃もたれするらしいのですよ。でも、ベジタリアンなのは、エルフだけではないのですよ~。近年は環境問題や野生動物の保護などの理由で、急速に世界全体に菜食が広まっていまして。現在では約8割の国家が菜食を法令化しておりますね。
小田さんの転移先のコルトゥ共和国も、その8割の国に該当します。『菜食生活法』といって100年ほど前から施行されていますよ。
話が少々脱線しましたね。そこで、小田さんの登場なわけですよ。これまでの経験を活かし、新たな調理手法と新たな調味料で、この世界の食文化に革命を起こしてほしいのです!」
「カワイさん・・・。質問です。」
「はい。なんでしょう?」
笑顔のカワイさん。
「菜食なんたら法っておっしゃりましたけど、私は、もちろん関係ないですよね?そもそもエルフではないし。人間ですし」
「と言いますと?」
「・・・私、肉食べれますよね?」
「とっても良い質問です!さすが小田さんですね。」
嫌な予感。
「もちろん人間はおりません。ただの一人も。ですので!小田さんには、エルフに変更して頂く予定です。」
「私がエルフに?」
「はい!」
「ってことは、私も菜食?」
「はい!もちろん!これからは、エルフのアヤノン・オーダとして生きるのです~」
「ええええええええええええええええええええええええええ!」
本日何度目だろうか。私の叫び声がまたまた響き渡ったのだ。