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約束の水曜日③

にやりと笑うミシャさん。


「あはは。オーダを認めていないアリスは、無理して参加しなくても良いんだよ~」


ミシャさん悪い顔してるぞ。


「ミシャお姉さま、わたくし、別に無理なんてしてませんわ~」


「あはは。無理は良くないよ~」


「うううう。ごめんなさいです~。私も参加したいですわ~」


泣きそうなアリスさん。


ミシャさんが、耳元でささやく。


「あはは。アリスをからかうと面白いんだよ~」


この魔性ネコめっ。


「こら。ミシャ。アリスをイジメないの」


「あはは。ボス、そろそろ移動しましょうよ~」


「酷いですわ~。ミシャお姉さま意地悪ですうう」


頬をふくらませジト目でにらんでいる。

可愛いな~。


「あはは。ボス、そろそろ移動しましょうよ~」


「そうね」


テンペストさんは、ソファから立ち上がると、何もないはずの空間に、その長い指で円を描いた。まるでワルツを踊っているかのようだ。彼女の指にふれているところだけが、水面であるかのように、さざ波がたっている。その波間からトビウオが跳ねるように、黒い羽虫が次々と現れ、彼女の美しい指先に止まる。ろうそくの火をふきけすように、羽虫に息をふきかける。羽虫が私を包み、その瞬間、空間がよじれ、何もかもが闇に・・・・。


目を開けると、私は別の場所にいた。

ほんの瞬きの瞬間である。

どうやら、移動したようだ。


「ありゃ・・・」


うん。空気椅子じゃなかったぞ!良かった。良かった。

ずっこけなかったことにホッ。

(漫画とかだと、ソファーに座ってたはずだから、必ず、ずっこけてるよね?)

アンティークっぽいダイニングチェアに座っている。

手すりに、小鳥が彫られている、とても美しいものだ。

で、テーブルの向かい側には、テンペストさんとアリスさん。

辺りを見回す。

窓のない部屋だ。15畳くらい・・・?黄色の壁紙に、アンティーックっぽい家具。マホガニーかな?

壁に置かれたチェストには、無造作に果物が置いてある。りんごに、オレンジ。

まるで、セザンヌが描いた絵の中にいるようだ。


「ようこそ、『イエロールーム』へ」


テンペストさんが、腕をくみ蠱惑的に微笑む。

やっぱりこの人は、とてつもなく美しい。

そのまなざしは、私を吸い込んでいく・・・。


「はぁ・・・。ここは、・・・どこ・・ですかYO?」


そして、私は、何とも間の抜けた返事をしてしまうのだ。

美しさの前に、火とは無力であるものだ。



この場所は、『犬と月』の活動拠点で、一種のシェルターも兼ねているそう。テンペストさんいわく、「世界で一番安全な場所」らしい。

何しろ、この部屋は異空間に存在するんだって!テンペストさんの魔法によって生み出されたこの部屋は、許可された者以外は、絶対に入ることが出来ないそうだ。だから、大事な話し合いをする時や、ダンジョンに潜っている最中の休憩場所としても利用しているそう。ミシャさんいわく、テンペストさんは時々恋愛関係の厄介ごとにもこの部屋を使うらしい。一番酷い時は、ブスッっと刺されたらしい!(なんつうハードな恋愛しているのだ!笑ってるミシャさんも、たいがいだぞ!その話は、とっても気になるからぜひとも詳しく聞きたかったのだけど、それ以上は触れてくれるな~との圧があった。ええ。オーダはこの手のお話大好物です!)

そんなわけで、私も自由に使ってくれて構わないって言ってくれた。う~ん、私にハードな恋愛が待ってるとはとても思えないしこの部屋を個人的に使うことはまず無いだろうけどね。


ちなみに、この部屋に入るには、『犬と月』のブローチを身に着け、心で念じるだけで良いらしい。


そういや・・・先ほどの転送って一体何だったのだろう?

このブローチなのかな?

聞いてみるか。


「そういえば、先ほど、私が、商業ギルドに移動したのって何だったのですか?」


テンペストさんとミシャさんが、アリスさんをちらりと見て微笑む。

アリスさんが気まずそうに下を向いている。


「あはは。このブローチはね、何か危機を察知すると、近くにいるメンバーの元に移動するようになってるんだよ~」


やっぱりブローチか。でも、危機って何かあったけ?

ふと、アリスさんを見ると、涙目だ。


・・・・・。

まあ良いか。


「そうなんですね。このブローチすごいんですね~。ところでお腹空きませんか?」


うん。そろそろ夕飯時だしね。


「あはは。オーダってやっぱりおもしろい。うん。さんせーい!お腹ぺこぺこだよー」


ミシャさんが、ニタニタ笑っている。(チシャ猫かっ!)


「そうね。私も。夕食、期待しているわ」


テンペストさんが、優雅に微笑む。


「・・・私もお腹が空きましたわ。オーダの作る食事・・・とっても楽しみですわ」


アリスさんが、プイッと照れくさそうに横を向く。



「それでは、夕食にしましょう!」


バスケットに入れた焼き立てパンに、ジャム、つぶあん、豆乳カッテージチーズ、オリーブ油をテーブルへ。熱々のお鍋から、ポタージュをよそい、仕上げに黒こしょうとパセリをちらす。マリネをもりつける。

テンペストさんが、どこからかワインのボトルを取出し、グラスに注いでいく。

アリスさんも、ワイン飲むのかな・・・・?

うん。準備出来たね。


「それでは、オーダ。料理の説明をしてくれるかしら?」


「えっと、こちらが自家製りんご酵母のパンです。右から、野イチゴのジャム、つぶあん、豆乳カッテージチーズ、オリーブ油です。お好みで、パンにつけて召し上がってください。

そして、きのこと豆乳のポタージュに、キャベツとレモンのマリネになります」


皆の目がキラキラしている。


「あはは。美味しそ~。ボス、早く食べようよ~」


「そうね。でも、まずはこれよ。みんな、グラスを持って」


テンペストさんが、皆を見渡す。


「オーダの、加入を祝して。乾杯!」


「「「かんぱ~い!!!」」」」



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