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閑話 ミシャ①

私は可愛い。

しかも、近寄りがたい美人とかじゃなくて、どこか普通っぽい可愛さなんだよね。

男の子たちが、手が届きそうって錯覚してくれるくらいの程良い可愛さ。

それが、私。

自分で言うのも何なんだけど、事実だから仕方ない。


『可愛いは正義』ってオーダが言ってたけど、その通りだと思う。

私が、ちょっと、涙をためてお願いをすれば、たいていの男の人はなんでも言うことを聞いてくれる。

可愛いってだけで人生イージーモードなのは間違いない。


今日は、仕事を終えた後、食事をしてきた。

デートに誘ってきた男性の中から、優良物件を10程ピックアップして、適当にくじで決めた。


あきれ顔のボスには、

「いつか刺されるわよ」なんて言われたけど、

「経験者は語るですか?」って返しといた。

ボスは、ああ見えてウッカリものだから、5年ほど前に刺されたんだよね~。

私は、そんなヘマはしない。


本日の優良物件1号君は、前から行きたかったハズの高級レストランへ連れてきてくれたのだ。


「ここのエルフスープは格別でしてね、ミシャさんにも気に入ってもらえますよ。世界一のスープですから!」


なんて言われたけれど。

オーダに出会う前の私だったら、心から

「こんなに美味しいスープ初めて飲みました~」

って返せたのに!


でも今は、オーダなら絶対にもっと美味しいエルフスープを作れるんだろうな~って確信があるから。

スープを飲みながら、オーダの作った蒸しパンやどら焼きを思い浮かべてた。

美味しかったな~。また食べたいな~って。

それに、とても楽しかったな。

あんな普通の女の子みたいな時間を過ごせるなんて思っても見なかった。


オーダは、不思議なコだ。

あれだけの能力がありながら、そのことに無自覚だ。

まるで無垢な赤ちゃんみたいに。

あれだけ精密に火魔法や水魔法を使えるのなら、冒険者でいくらでも名を成せるだろうに。

さすが、トガリ山で暮らしていただけのことはある。オーダは『普通に暮らしてただけ』なんて言ってたが、それすらが修業となる過酷な場所だ。本人がそのことを全く理解していないのが恐ろしい。

魔力量もおそらく人外レベルだろう。

なのに、本人いわく「料理にしか使ったことないし、それ以外の使い道を想像できない」って。

ダンジョンに潜る気も全くないみたいだし。

踏破すれば、どんな願いも叶えてくれるのに。

欲が無いのか・・・アホの子なのか・・・。


でも、オーダは間違いなく天才だ。あれだけの料理を作れる者はこの世に二人といないだろう。

あの素晴らしい、料理の技術や知識はどうやって身につけたのだろうか?

基本的に分かりやすいオーダだが、謎な部分も多い。

特に境遇に関して何か隠している。

嘘をつくとき、眉毛を触りながら、横目になるからすぐに分かるんだよな。

本当、赤ちゃんみたいに、わかりやすい。

あの魔境と名高いトガリ山で祖父と二人きりで暮らしていたそうだから、きっとワケ有なのだろう。

オーダも何か、人に言えないモノを抱えているのかもしれない。




私は、『犬と月』の中でも、一番の冥魔法の使い手だ。

それなのに、彼女のステイタスを見抜くことができなかった。


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■エルフ(女)

■年齢:28歳

■職業:無職

■状態:良好

■出身地:トガリ山

■性格:■■■■■

■趣味:■■■■■

■特技:■■■■■

■魔法:陽、天、火、水、冥

■スキル:料理

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■■■■■■■■■

■■■■■■■■■

■■■■■■■■■

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ここまで黒塗りになったのは、初めての経験だった。


私は、これまで、誰かと出会うと必ず『鑑定』をしてきた。

分からないことは不安だから。

自分にとって役に立つ人間か知りたかったから。

誰も信用できないから。

そうやって、良好な人間関係を築き生きてきた。

だから、オーダは、私にとって、初めての『不確定な存在』になる。




そんな風に食事中もなんだかんだオーダの事ばかり考えてしまった。

何を話したか、全く覚えてないけど、場は繋げていたみたいだ。

目の前の男性は、どうやら楽しんでいるみたいで安心する。

少なくとも今日の食事代分くらいは、楽しんでもらわなくっちゃね。


そんなことを考える自分は、心底嫌な女だ。

吐き気がする程に。


本当は、こういう食事をするのは好きじゃない。

カーテン越しに月が見える。

とたんに胸が締め付けられ、指先が凍りつく。

叫びだしたい気持ちを抑えて、お喋りを続ける。


誰かに甘えたい。

泣きつきたい。

助けてほしい。

必死で押し殺す。

凍りついた指先を爪が食い込むくらいに握りしめる。


「どうしても、一人でいたくなかったから。今日は一緒にいてほしい」

いつか誰かにそう言える日は来るのだろうか?




こんな雲一つない夜空は、あの日のことを思い出させる。

私が、6歳だったあの夜のことを。

今でも、はっきり覚えている。

冬の澄んだ空気を。

開いたままの窓から見えた流れる星々を。

ほんの少しだけ欠けた十六夜の月を。

とてもきれいだったことを。



私の心は、あの日から凍りついたままだ。

血まみれの二人を発見したあの夜から。


なぜ、父と母は殺されたのか?

誰に、殺されたのか?

なぜ、私だけが生き残ったのか?


あの日、何が起きたのか?


私は知りたい。


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